03 トーカのVFXワーク
"綺麗"を構成するビジュアル要素を求めて
前作のクオリティを保ちつつ、新キャラクター月山の赫子をどのようにつくるのか、そして劇中で「綺麗」と言われるトーカの赫子をどのように表現するのかという2点が本作VFXにおける大きなテーマになったと桑原氏は語る。「トーカの赫子については、落としどころに悩みました。グロテスクさの中の美しさに加えて、"綺麗さ"が求められたわけですが、単純に綺麗な見た目にすると画としてのリアリティが損なわれてしまうため、ファンタジーな印象に陥らないように注意しながら監督たちが求めるビジュアルを模索していきました」(桑原氏)。特にクライマックスシーンの後半に登場する、トーカの赫子を見た西野貴未(木竜麻生)が思わず「綺麗」と口にするという要のカットについては、柳谷氏がリードしたルックデヴをふまえつつ、本カットを担当した斉藤 寛コンポジターが綺麗の象徴となる素材を巧みに組み合わせるという2.5D的なアプローチでグロテスクさと美しさ、そして綺麗さを兼ね備えたビジュアルに仕上げたという。「このカットでは、ガラスのような質感の透明な赫子の素材も追加することで環境光に合わせた反射の表現や、キラキラと輝く表現によって綺麗という印象を高めました。HDRIだけでは表現しきれないところもあるので、背景となる教会をモデリングして3D空間の中で実際と同じ場所にライトを配置して環境を再現しました。クライマックスの舞台となる教会はかなり暗いシーンのため、透過の表現や馴染ませが非常に難しかったのですが、なんとかリクエストに応えることができたと思います」(桑原氏)。レンダーパスについては、Lighting、GI、Reflection、Refraction、Specular、Depthなどをベースに、カットバイでOcculusionやPositionpassを追加。そして、トーカの赫子の血管部分を後処理で発光させるためのSelfIlluminationも出したりしたそうだ。透過表現も多用しているため、必然的にレンダリング負荷も重くなったという。最大で1フレームのレンダリングに1時間半要したそうだが、クランチタイムにはレンタルPCも含めた20台ほどのレンダーサーバを構築。これに伴い、スタジオの電源(W)が上限ギリギリに達したため、制作中は冷蔵庫が使えなくなったそうだ。
「フリーランスの方にも常駐していただきつつ、同じフロア内で意見を出し合いながら少数精鋭でつくりきることができました。監督にも週1~2回のペースで来ていただけたので、担当スタッフが直接チェックバックを聞くことができ、適確にブラッシュアップすることができました。昨年、編集室もオープンさせたことでフィニッシングまで対応できるようにもなったので、今後もデザインから実制作まで一括して担当させていただける案件を増やしていきたいです」と、桑原氏が今後の展望を語ってくれた。
クライマックスの教会シーンに登場するトーカのカットより
トーカの赫子から発生するRc細胞のエフェクト作業例。Houdiniを使い、Fluidのシミュレーションで流体のやわらかな動きを作成、そのvelocityでパーティクルを動かす手法が採られた。「緩急はできるだけシミュレーションキャッシュ後のポスト処理で行うことで、リテイクにも対応しやすいように配慮しました」(八尋裕司FXスーパーバイザー)
トーカが矢のように赫子を放った際に発生するRc細胞のエフェクト作業例。今回のトーカの赫子エフェクト表現では、全体を通して「美しさ」が求められたため、見た目が重くならないよう、ライティングの影響を受けるマテリアルを使った素材など、数種類の素材を出すことで、コンポジット作業時に調整しやすいようにされた
トーカの赫子を見た貴未が「綺麗」と口にするカットのブレイクダウン
実写プレートに赫子CGを合成しただけの状態
桑原氏がまとめたトーカの赫子の画づくりの方針をまとめた表