03 コンポジットワーク
さりげない手間暇の積み重ねそれが一体感を導き出す
先述のとおり、"つながるPV"完全版の総尺は約2分。約60カットで構成されている。全編手持ち撮影のためカメラトラッキングが必須だが、AE標準の3DカメラトラッカーとMochaを併用。かなりの物量のため、相応に時間を費やしたそうだ。また、実景の中には街中ほど通行人やクルマ等の乗り物も映り込むが、「幾原さんの過去作にも使われていた独特のモブ表現が今回も本編に登場することを知って『実写とCGで試してみても良いですか?』と提案してみたところ、無事OKをいただけました。基本方針としては、撮影時に映り込んだ人物をマスクするかたちでピクトグラムを上から合成しています。その上で見切れてしまうところは手作業で消し込みました」。屋形船のカットでは、乗船客をピクトグラムに置き換えているが、その際にはSoftimage上で屋形船内部の形状をモデリングして、ピクトグラム素材を配置、そこへ実写プレートを加工したHDRIでライティングという手の込んだ処理が施された。
本作特有のコンポジット技法として、作画キャラと実写プレートを合成する際に、作画に透明度をもたせつつ、背景に対しては作画の輪郭に合わせたぼかし処理を施すことで一体感を高めている。3DCGキャラクターの場合は、環境を作成し、HDRIでライティングするのがセオリーだが、作画の場合はほんの少しの加工に止めるのがポイントなのだという。影の表現についても田島氏独自のこだわりが見られた。キャラクターに落ちる影はキャラクターの印象を変えないようにパッキリと落とし、地面に落ちる影はソフトシャドウっぽくと、変化を付けている。これもまた実写と作画という異質のものを自然な見た目に馴染ませるための創意工夫だ。「好きな映画に『ブレードランナー』(1982)があるのですが、現実の世界に異質なものを融合して新たなビジュアルを創り出すということが昔から好きなんです。今後も取り組んでいくと思います。今回はティザーということで静的な画づくりが求められましたが、作画と実写の融合に改めてチャレンジする機会があったら次回はもっとカメラを動かしてみたいですね」。
ショットのコンディションに応じてCG・VFXのアプローチが使い分けられた本作。カメラトラッキングの場合は、空抜けなどトラックポイントが少なくなる見上げたアングルでは図のように三脚をキャラクターに見立ててトラックポイントを作るといったことも行われた(AE標準の3D カメラトラッカーを使用)。ただし、このカットのように作画キャラから見切れてしまう場合はバレ消し作業も必要になるため、基本的には実景の中にトラックポイントを見つけることを心がけたという
アップショットのブレイクダウン例
-
作画キャラに若干の透明度をもたせて実写プレートとの馴染みを高める
-
作画キャラに透明度をもたせただけでは単純に透けてしまうため、実写プレートに対しても作画キャラのシルエットに合わせてぼかし等の加工を施す
画面の構成要素が複雑なロングショットのCG・VFXワークのながれを図解したもの