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日本の恐竜VFX最新形がここにある! NHKスペシャル『恐竜超世界』

日本の恐竜VFX最新形がここにある! NHKスペシャル『恐竜超世界』

<3>エフェクト、ライティング&コンポジット

Deep Compositingをはじめ、技術面でも積極的にチャレンジ

NHKのVFXチームは、新しいツールやテクノロジーを積極的に採り入れてきたこと でも知られている。そうした取り組みの一環としてのコンポジットワークでは、DeepImageファイルフォーマットによるDeep Compositingを導入。リードコンポジターを務めた加藤晴規氏がそのねらいを次のように語ってくれた。
「データ量が膨大になるため、当初は見送ろうと思っていましが、Hairを使用したアセットが多数あり細かい毛に対して被写界深度を適用するのに通常のZDeforcusだと厳しいと感じました。そこでDeepを使用してpgBokehで試したところ綺麗に被写界深度を適用することができました。またDeepを使用するとなれば今まで悩んでいたエフェクトのマットアウトずれや、CGキャラクターの合成用にマスク素材をレンダリングする必要がないと考え、導入を検討しましたDeepImageファイルは1ピクセルごとにデプス情報を含む複数のサンプルを持つことができるのですが、データが非常に重くなります。パイプラインにのせるためには、サンプルの精度をなるべく保持しつつ、ファイルサイズを運用レベルに納める必要がありました。そこでライティングSVの渡部辰宏さんとDeepImageファイルのサンプルの精度とファイルサイズをくり返し検証し、導入することに決めました。データやNUKEでの取り扱いが非常に重くなるというデメリットもあるのですが、今までコストを費やしていたところがDeepCompositingで解消することができたので、より効率的かつノードツリーもシンプルになりました」。

Deep Compositingの採用に伴い、被写界深度の表現にはPeregrine Labs「Bokeh」を使用。カメラデータがあればレンズの焦点距離と実際の被写体までの距離を考慮して、DOFを正確に表現できるほか、手前と奥とでボケ幅も調 整できるためクオリティ面では申し分なかったようだ。ビューポート上の表示やレンダリングが非常に重たくなるのが難点のため、今後の改善に期待したいという。

CGエフェクトについては、今回もHoudiniベースで開発された。白波などの流体表現はOcean Toolsを活用、古代生物たちの接地や地面を構成する要素とのインタラクションについては、Vellumによるシミュレーションが用いられた。「表現と同様に、技術面でも新たなチャレンジを実践できました。Deep Compositingが好例ですが、自分たちの知見を外部パートナーさんを通じて日本のCG・VFX現場にも広めていければと思っています。恐竜VFXについては、ひとつの節目をむかえることができましたが、今後も新しい表現に積極的にチャレンジしていきたいです」と、松永氏は今後の展望を語ってくれた。

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デイノケイルスの子供が、餌(葉付きの小枝)を取り合うカット。葉付きの小枝をCGでつくることも検討されたが、難易度や全体の作業量を考慮し、松永氏と小川氏が撮影現場で演技することに。「何も準備をしていなかったので軍手をはめたまま撮影し、その動きに合わせてアニメーションをトレース、合成時にマスクをきってカラ画を合成しています」(松永氏)。<A>実写プレートにCG素材を重ねただけの状態。バレものが確認できる/<B>NUKEによるマスクワーク/<C>マスクを適用してカラ画を合成/<D>一連のコンポジット処理が施された完成形

イメージプレーンを配置したライティングのMayaシーン

ライティング調整作業中の画面。レンダーセッティングやレンダーレイヤーの設定はインハウスツールで実行している。従来まではLegacy Render Layerを用いていたが、本プロジェクトからRender Setupに対応できるようツールの改修が行われた

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  • トロオドンの子供が歩く際、地面に落ちている小さな葉っぱとのインタラクションは、HoudiniのCloth設定にあるVellumが用いられた。葉っぱ以外にも雑草など草のシミュレーションではHair設定のVellumを使用。草 のメッシュとスケルトンを用意し、スケルトンに対してVellumのシミュレーションを行い、Pointdeformでメッシュに対して動きを適用している。<A>ロケ地にてグリーンの板の上にインタラクション用の葉や小枝を乗せて撮影。CG作業時にテクスチャ素材として利用する/<B>Houdini作業UI/<C>完成形


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海面近くを飛ぶ翼竜をモササウルスが捕食するカットにおける流体エフェクトの作業過程を図示したもの。<A>OceanToolsをベースに作成したHoudiniネットワーク。各カットごとに求められる細かな調整に対応するにあたっては最終的には7〜8割くらい改変している/<B>今回、作業時間を短縮するためにレンダーファーム管理ソフトウェアQube!による分散シミュレーションを導入。図の左側は、4台のマシンで分散して作成したFlipのキャッシュ。図の右側は、分散シミュレーション を組んでいるネットワークの様子/<C>当初はMantraでディスプレイスメントで作成した海面をレンダリングしていたが、レンダリング時間が想定を大幅に超えてしまったという。そこでキャラクターと同じくArnoldでレンダリングすることに。「海面のメッシュはショットによってMayaへ渡す必要があるため、ディスプレイスメントはなしで直接メッシュを凹凸させてAlembicを作成しています。データが重くなりすぎないよう、カメラからの距離によってポリゴンの量を調整しました。また、シミュレーションで作成した海面とシミュレーションしていない海面をシームレスに繋いでレンダリングの屈折や反射に影響が出ないように配慮しています」(吉田 慶氏)/ <D>完成形

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DeepCompositing作業の例。第1集に登場する、雪が降る雪原をパキリノサウルスの群れが移動するカット。<A>NUKEのDeepPosition XYZ.Gizmo。それぞれの素材をDeepMergeした後、DeepからWorldSpace、ScreenSpaceのXYZのFalloffマスクを生成。ピクセルごとの透明度が考慮されるため、毛やボリュームなどのアンチエイリアスなども問題なくマスクを作成できる。Hazeや色調整のマスク生成などに使用された。(参考)「Deep image compositing in a modern visual effects pipeline」<B>DeepPositionXYZ.Gizmoによるマスクの生成/<C>DofCalc.Gizmo。データベースに登録されている撮影時のカメラデータ(focal、focal distance、fstop)をショット変数でフックして読み込まれたカメラを利用して、pgBokehを利用する際に被写界深度を視覚化するためのGizmo。Nukepediaで公開されているDofCalc v1.0を若干改良したものであり、許容錯乱円の計算などが追加している。(参考)「DofCalc v1.0」<D>DofCalc.GizmoのView上での表示。緑がfocal distance、青が前方被写界深度、赤が後方被写界深度、黄色が過焦点距離を示している。パンフォーカス時の前方被写界深度(過焦点距離/2)などを把握できる

Breakdown 01
雪原を進むパキリノサウルスの群れ

  • <A>実写プレート

  • <B>雪を降らす必要があるため、曇りにカラコレした上でCGの影素材を合成

  • <C>CG素材のAOV。今回はキーライトとドームライト(環境光)を個別に調整できるようLightGroupを使用してAOVを出力している

  • <D>CG素材に色調整と奥の霞みを追加した後、足元の雪エフェクト素材をDeepMergeで合成。前後関係が複雑なカットでもDeepMergeで破綻なく合成することができる

  • <E><D>をDeepToPointsで3D上に表示した状態。DeepToPointsは各ピクセルのDeepサンプルをポイントクラウドとして3Dビュー上に表示することができるノード。Deepの位置関係を確認する際に役立つという

  • <F>NUKEのパーティクルで作成した雪(3Dビュー)。NUKEのScanlineRenderはDeepを出力できるため、雪パーティクルはDeepHoldoutを使用してCGキャラクターでマットアウトしている。なお雪のパーティクルは、デフォルトでツールセットに入っている「P_SnowRain」をカスタマイズして使用。パーティクルノードにて、エミッタのポジションを各ショットのカメラからある程度自動で配置できるよう設定している

  • <G>CG、エフェクト、雪パーティクル合成した状態

  • <H>グレインと煙素材を加えた完成形



Breakdown 02
モササウルVSティラノサウルス

  • <A>加工したLatLongMapのHDRイメージをSphereに貼ったBG

  • <B>モササウルスのFlatイメージ

  • <C>ティラノサウルスのFlatイメージ

  • <D>Houdiniでレンダリングされた海素材のFlatイメージ

  • <E><B>〜<D>の素材をDeeprecolorした後、DeepMergeした状態

  • <F>BGと合成し、レンズに付着した水滴、Chromatic Abberation、グレインなどを追加したコンポジットとしての完成形

  • <G>DeepをDeepPointCloudで表示した状態

  • <H><G>を別アングルから見たもの



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    発売日:2019年7月10日(水)

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