<3>八百八狸の群衆表現
ニューノーマル時代のワークフローを模索
八百八狸の群衆表現では、808に近い数の狸をレイアウト。毛並みにはXGenを使っているためレンダリングコストは相応に重くなるが、ArnoldのStandInを活用してレンダリング直前までジオメトリデータのロードを保留しておくことで作業中のシーンを軽量化、オペレーションをしやすくした。
妖怪獣の第一形態、顔や体のオーラをはじめとしたエフェクトは、妖怪獣の巨大なスケール感をエフェクトで伝えるため、何度もそのスピードを修正した。本作ではエフェクトが多く、エフェクトをリードした春原樹氏もコミュニケーションに悩んだという。「初参加の人が多かったのですが、すぐにリモートになってしまいワークフローの変更を余儀なくされました。ひとつのカットで複数のエフェクトを使うときは、データを共有するのもラグが出たりして大変でしたね。今後、スタッフ間でもっと気軽に話せる環境づくりを意識したいです」。コミュニケーションの問題はコンポジットにも当てはまる。「隣の人が見えないというのが想像以上に影響しました。普段、ふと側を通ったときや雑談の中で気がつくことが多いのです」と、コンポジットスーパーバイザーを務めた中野悟郎氏。
妖怪獣の第二形態が崩れ、中から木が生えてくるシーンのエフェクトも印象深い。妖怪獣の体は意外に細いため、カットバイで中から生えてくる木を調節。崩壊は内側と外側を分けてつくり込んでいる。また、海外のスタジオへ発注したカットについては、想定していたテイストと異なるものが上がってきたりと調整に苦労したが、監督はかえって日本人らしくない部分を面白がり採用したこともあった。「監督は『こうしないといけない』というのがない人なので、その点は救われました」(太田垣氏)。
本作ではクライマックスだけではなく、随所にVFXがふんだんに使われている。「時間がない中、監督が思い描くことにわれわれがどうやって近づくか。監督も、できるかできないかのギリギリの線をねらってくる。やってもやっても終わらない物量の中、みんな本当にがんばってくれたと思います」と、太田 垣氏はふり返る。一方、今後入ってくるだろう新人に対しては、環境的な不安があるという。「新人には今まで1から10まで教えられたのですが、リモート主体だと教える機会が少なくなるので、スキルの差が出てしまわないか心配です。どうやってこの状況を切り抜けていくか、答えは出ていませんが、こういう世の中だから、それに合わせて環境をつくり上げていくつもりです」と将来の展望を語った。
群衆表現
▲群衆表現はシーンが重くなるのを避けるため、ArnoldのStandInを使用した。ダミーオブジェクトを使い、配置を確定してからStandInに置き換えている。また、レンダリングはコスト低減のため島ごとに行なった
コンポジット作業の様子
▲火の粉、汎用素材の煙を合成
群衆シーンの各種合成素材
▲手前の狸と岩のbeauty素材
▲狸のAOV。炎の照り返しの強弱調整をNukeで行うためにPer Light AOVで出力した
大魔神の真俯瞰カットの3DCG作業
▲肩に乗る渡辺ケイと渡辺ダイはデジタルダブルを使用している
当該カットのコンポジット作業
▲ノード全体図
コンポジットのブレイクダウン
妖怪獣が崩れ去るカット
妖怪獣(第二形態)が崩れ去るカットのMayaでの作業
▲破壊シミュレーションの作業の様子
Position Passによる調整
▲炎の照り返し具合はNukeXのPosition Passで調整した
ブレイクダウン
本カットのコンポジットのブレイクダウン
▲手前の妖怪獣レイヤーのPer Light AOV
▲完成ショット