>   >  Image Engineが心血を注いだ、映画『チャッピー』のVFX。 Vol.1:マーク・ウェンデル(CGスーパーバイザー)
Image Engineが心血を注いだ、映画『チャッピー』のVFX。 Vol.1:マーク・ウェンデル(CGスーパーバイザー)

Image Engineが心血を注いだ、映画『チャッピー』のVFX。 Vol.1:マーク・ウェンデル(CGスーパーバイザー)

3.実写撮影の段階で演技の良し悪しを見定めるために

実写撮影時には、俳優シャールト・コプリー/Sharlto Copleyがグレイのスーツを着用してチャッピー役を演じている。CGWORLD読者なら多くの方がご存知だと思うが、コプリーはブロムカンプ監督とは学生時代からの縁で全幅の信頼を得ている盟友であり、『第9地区』では主人公ヴィカス、『エリジウム』では傭兵クルーガーを、今回は感情をもつロボット、チャッピーを一部のスタントが必要なシーンをのぞいて演じている。
「グレイイスーツを着た俳優を使って撮影することは、ブロムカンプ監督からの要望でした。彼は1度の撮影で必要な演技要素を全て同時に演出したいと考えたのです。CGで演技をつける場合、その良し悪しの判断はポスト・プロダクションまで待つ必要がありますからね。この方法の良いところは、撮影の現場では全て俳優は実物の人間になるわけです。テニスボール相手に演じるのではなく、お互いに触れたり、見たりすることができますし、われわれも完璧なライティング・リファレンスを得ることができます。さらに、グレイイスーツの俳優が落とす影や反射は大変参考になり、最終合成時にCGキャラクターのリアリズムを向上させる際にも役立ちました」。

映画『チャッピー』VFXメイキング(1)

もちろん反対に大変になる作業も出てくることは覚悟しなくてはならない。
「チャッピーはシャールトの身体とは形状が大きく異なります。そのため背景素材チームは、非常に多くの複雑な(オーバー)ペイント作業をしなければなりませんでした。それでも、このペイント作業を始めるのを、1回目のアニメーション作業が承認されるまで待つことにしたので、作業負荷はかなり軽減できたと思います。ペインターたちは必要な部分に集中して作業することができますから。実は撮影チームは、大半のショットでグレイイスーツの俳優のいないテイクも撮影してくれていたのですが、ほとんど手持ちカメラだったため、背景の見えなかったところをペイントで足す際に、ちょっとだけ役立ったかなという感じです(苦笑)。それゆえに膨大な量のペイントワークの成果は素晴らしいものだと思います。彼らの仕事の痕跡が、完成した作品ではまったく見えないということこそが、彼らにとっては誇りだと思いますね」。

CHAPPiE BREAKDOWN REEL from Image Engine

<4>新たに導入された「ポストビズ」工程とは

本作品の制作において、非常に有効だったのが「ポストビズ」と呼ばれた制作工程だという。これは全ショット撮影直後に、最短期間で簡易版CGを制作し、全編を合成し試写できるようにしたもののことを指す。
ウェンデル氏は言う、「撮影が始まった早い時点で監督から要望がありました。監督は、内部的な試写ですら、チャッピーをグレイイスーツを着た俳優の姿ではなく、あくまでロボットの姿でしか見せたくなかったのです」。

映画『チャッピー』VFXメイキング(1)

VFXチームはこのために極短期間で900ショットを制作する必要があったという(ちなみに、本作の全VFXショットは1,300以上に達した)。しかも、この作業は本番用の作業と同時平行で進められたため、非常にハードだったそうだが、その後の制作を考えると得られるものは大きかったとのこと。
「これがアニメーターたちにとっては大変良いレッスンになりましたね。最大の収穫は、どうやってチャッピーの限られた顔のパーツで、感情豊かな演技を行うかということについて、道筋をつけることができたこと。チャッピーの顔まわりで可動できる部位は目の上にある眉と口元にある2つの棒、それに耳の動きだけでした。シャールト・コプリーはボディ・ランゲージだけで説得力のある演技を生み出すことにおいて定評があります。そこでまず、アニメーターたちはできる限りシャールトの演技を忠実に、チャッピーを合わせるようにしました。その上でチャッピーにしかないパーツに動きを加えていきました。くり返しますが、ポストビズにおける最大の成果は、本制作の前に演技の問題の大部分をクリアすることができたということです」。

  • 映画『チャッピー』VFXメイキング(1)
  • 映画『チャッピー』VFXメイキング(1)

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