<4>理屈で教え理屈で学ぶアメリカ式CG教育の重要性
後半部では糸数氏のCG哲学がキャラクターデザインやモデリングの側面から語られた。糸数氏は下記のトピックをたて、MayaのBlend Shapeを操作しながら解説を行なった。
(1)イントロダクション~アメリカのCG教育で学んだこと
(2)2Dと3Dの違い
(3)アナトミー(骨格や筋肉を理解する)
(4)魅力的なキャラクター
(5)モーションアナトミー
(6)顔の表情
はじめに糸数氏は「日本の美大ではデッサンを感覚で教えるが、アメリカでは理屈で教える」と違いを説明した。実際にArt Center College of Designで受けた最初の授業は、真っ暗な部屋に石膏で球体を置き、ライトを1灯だけつけて、光と影の当たり具合について分析するというもの。「美大で4年間学びながら、こんな基本的なことも知らなかった」と衝撃を受けたという。
そのため以下の講演内容についても、日本のアーティストは感覚で掴んでいるが、理論で再認識することが大切だと指摘。「自分は才能ではなく、努力で学んでいくタイプ」だとして、言語化することの重要性が強調された。「例としてOcclusion Shadow(複数の物体が互いに接近して、光が届きにくいことで発生する影のこと)があります。これはAmbient Light(周辺光)から来る影のことですが、この意味が理論的にわかっているか否かでは、CGで表現する上で大きな違いがあります」(糸数氏)
続いて「2Dと3Dの違い」について、同じ2Dの設定画からでも、モデラーによって微妙に異なる3Dモデルが作られると説明。この時、解剖学に関する知識の有無で大きな違いが出るとされた。中でも難しいのがミッキーマウスやスヌーピーといった「漫画ならではのデフォルメキャラクターの3D化」で、完全な3D化は難しいという。
前述の『マジックランプシアター』に登場するジーニーのモデリングも、顔の向きによって異なるプリセットをBlend Shapeで作っておき(パターン数は約100種類にも及ぶ)、ジーニーの動きにあわせて高速で切り替えて使用しているとのこと。もっとも近年のディズニーアニメではこうした苦労がないように、最初から完璧な3Dキャラクターをモデリングするように配慮がなされているという。
そこで重要なのがアナトミー(解剖学)に関する知識だ。これはアニメ的なキャラクターを作る場合でも同じで、頭部の基本的なプロポーションやパーツの構造の知識が役に立つという。骨格や筋肉の付き方についても同様で、デフォルメされたキャラクターでも、胸鎖乳突筋(首の後ろから正面にのびる筋肉)の有無で印象が変わるとのこと。「胸鎖乳突筋がないと不気味に見えます。そのため作品によっては、悪役キャラクターにはあえて、胸鎖乳突筋をつけないこともあります」などと解説された。
▲頭部のプロポーションを解説するスライド
▲骨格や筋肉の付き方を解説するスライド
▲胸鎖乳突筋を解説するスライド
また複雑な曲線も直線と面の組み合わせでとらえることが重要で、これによって直方体などのシンプルな形から、徐々にポリゴンを分割して複雑な形状を表現していく、彫刻的なキャラクター造形が可能になるとした。この応用編として、目や鼻、足といった複雑なパーツでも、直線と曲線のリズム感で表現できると解説。現在Web上で展開する「CGオンライン アカデミー:糸数弘樹のCG 教室」や、Youtube上で公開されている制作動画などをチェックして欲しいと呼びかけた。
▶︎次ページ:<5>解剖学に関する知識の有無がキャラクターの魅力度を左右する