>   >  ディズニーで学んだ映画制作&キャラクターモデリングとは?「糸数弘樹ハリウッド式CGモデリングセミナー」レポート
ディズニーで学んだ映画制作&キャラクターモデリングとは?「糸数弘樹ハリウッド式CGモデリングセミナー」レポート

ディズニーで学んだ映画制作&キャラクターモデリングとは?「糸数弘樹ハリウッド式CGモデリングセミナー」レポート

<5>解剖学に関する知識の有無がキャラクターの魅力度を左右する

魅力的なキャラクターでは、フォトリアルなキャラクターと日本のアニメ的なキャラクター、そしてディズニーキャラクターの相関関係について解説された。糸数氏はアニメ的なキャラクターには目が大きい、鼻と口が小さいといった特徴があるが、単純にフォトリアルなキャラクターを題材に、個々のパーツ比を変更しても、可愛らしさが出ないという。重要なのはパーツ比を変える一方で、各々の情報を抽象化し、シンプルにしていくことだ。そして、この中間にあるのがディズニーキャラクターだという。

▲フォトリアル、ディズニー、日本のアニメ、それぞれのキャラクターの違いについて解説がなされた

実際に糸数氏はBlend Shapeでスライダーを調整しながら、フォトリアルなキャラクターがディズニーキャラクターを経て、アニメ的なキャラクターに変化していく様を紹介した。目の皺やほうれい線などが消え、耳や口元(歯の並びなど)などがバランス良く省略されることで、可愛らしさが強化されていく。「これを感覚で行っているのが日本のアニメーターのすごいところで、自分は美大で写実的な人物デッサンばかり追求してきたため、ディズニーに入ってから苦労した」と振り返った。

また魅力的なキャラクターを造形する上では、「正面と側面の類似性」や「特徴や錯覚を強調すること」が重要だという。丸顔のキャラクターは横から見ても丸顔に見えること。彫りが深い顔では両目の感覚が近づいて見え、彫りが浅いと離れて見えるため、ディフォルメする際はこの錯覚を活用して強調することが重要であること、などだ。実際にフォトリアルなキャラクターでも、顎が平たく、正面から四角く見える場合は、側面から見ても顎が前方に張り出し、四角く見えるべきで、丸い顎にすべきではないという。

こうしてデザインされたキャラクターを、さらに魅力的にするのがフェイシャルアニメだ。これには前述のように解剖学的な知見や深い観察力が必要で、これが乏しいと違和感が残ってしまう。目を左右に動かすとまぶたが動く、口を動かすとほおの筋肉が動くといった細かい部分だ。これらは手描きアニメの時代には考慮する必要がなかったが、CGアニメーションの時代になって必須となってきた。

「人間には喜怒哀楽に恐れ・嫌気という6種類の表情があり、約50種類の顔の筋肉によって表情が作られます。アニメキャラクターにおいても同様です」と説明する糸数氏。実際にディズニーキャラクターはすべて、骨格と筋肉の動きを意識することで、豊かな表情がつけられている。糸数氏は筋肉の動きをスライダーで調整しながら、表情をさまざまに変えていく様子をBlend Shapeで実演してみせた。

▲Blend Shapeを使ったデモのワンシーン

『塔の上のラプンツェル』では7年近くキャラクターのモデリングにリサーチがさかれ、さまざまなパターンのラプンツェルを作ったという糸数氏。最後に「人体のような複雑な形状でも、面と直線で捉える」、「解剖学を意識してモデリングする」、「アニメーションをつけることを考えて、リアルなキャラクターでもポリゴン数を増やしすぎない」などのポイントを強調し、熱のこもった講演は終了した。

TEXT & PHOTO_小野憲史

◆糸数弘樹氏 推薦Webサイト&書籍
【Webサイト】
Anatomy for Sculptors
...アナトミーをわかりやすく解説

KITAJIMAのお絵かき研究所
...筋肉を動画で解説

Proko
...人物の描き方をわかりやすく解説

【書籍】
「表情-顔の微妙な表情を描く」 (ゲーリー・フェイジン著/マール社発行)
...顔の表情を詳しく解説

「Charles Bargue: Drawing Course」(Gerald M. Ackerman著/Art Creation Realisation発行)
...面と直線で形をとらえる方法を解説

  • プロフィール
    糸数 弘樹/Hiroki Itokazu

    CGアーティスト。沖縄県久米島出身。

    カリフォルニアのArt Center College of Designを卒業後、キャリアをスタートしたWarner Bros. Companyでは、『バットマン』シリーズの舞台となる架空都市ゴッサム・シティのビル群や特殊効果などを手掛ける。

    その後、20014年までWalt Disney Animation Studiosのトップクリエーターとして『シュガーラッシュ』、『塔の上のラプンツェル』など30本以上の作品に参加。

    ディズニーアニメーション史上初の長編アニメーション賞を受賞した『アナと雪の女王』では背景のモデリングを担当。独特の世界観を生み出すため、氷の一粒一粒にまでこだわった表現技術が受賞に大きく貢献した。

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