>   >  国を越え、アジア全域でプリビズの振興に取り組む。「PREVIS SOCIETY ASIA」シンポジウム
国を越え、アジア全域でプリビズの振興に取り組む。「PREVIS SOCIETY ASIA」シンポジウム

国を越え、アジア全域でプリビズの振興に取り組む。「PREVIS SOCIETY ASIA」シンポジウム

<3>プリビズとVFXは似て非なるもの

3−1.Pretzeal(韓国)の取り組み

続いてはPSA理事のダンヨー・ユーン氏が韓国におけるプリビズ事情について、自身のキャリアをふり返るかたちで披露した。

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  • ダンヨー・ユーン氏(PREVIS SOCIETY ASIA理事、Pretzeal代表)


山口氏がACW-DEEPを起業してから約1年後の2014年4月に、ユーン氏は韓国初のプリビズ専門プロダクションPretzeal studios.を創立した。
ニュージーランドのMassey Universityでビジュアル・コミュニケーションとデザインを学んだという国際派のユーン氏は、最初からプリビズ・アーティストとしてキャリアをスタートさせたとのこと。

大学ではグラフィックデザインを学んでいましたが、映画の仕事をしたいと思うようになり、CGを使った映像を作成するなどして映画業界にアプローチしていきました。特にストーリーテリングに関連する仕事への興味があり、そういう方向でやっていくうちにプリビズに出会ったのです。当初はプリビズが何であるかも理解していませんでしたが、限られた時間と資金の中でストーリーテリングに関われるというプロセスが面白く魅力的でした。(引用元:PSA公式サイトで公開されているユーン氏のプレゼンテーション抄訳

Pretzeal Showreel
ユーン氏は、Dr. DやWeta Digitalにてハリウッド作品のプリビズに携わり、MARZA ANIMATION PLANETがアニメーション制作を手がけた『キャプテンハーロック』にもレイアウトアーティストとして参加している


「私はCG畑(CG Guy)ではありません」と語るユーン氏は、PCに向き合うばかりではなく、実写の映像演出の感覚でフィルム・エディティングやストーリーテリングが実践できるプリビズが性に合っているのだという。
Pretzeal公式サイトの会社説明の言葉を借りれば、シンプルな3Dアニメーションで"動くストーリーボード"をつくることがプリビズである。プリビズは3DCG技術の1分野と思われがちだが(もちろん、そうした面も併せ持ってはいるだろう)、一枚絵では把握しきれない映像表現をいかにして実現させるのか、それをクリエイティビティを損なわずに(それこそ絵描きの感覚で)現実的なプランに落とし込むのか、ビジュアルという具体的な指針によって制作スタッフ間で共有するための手法がプリビズなのだと、ユーン氏の講演を通じて改めて実感した。

3−2.Base FX(中国)の取り組み

今度は、2013年から北京のBase FXにて、プリビズ・スーパーバイザーとして活躍するギャビン・ボイル/Gavin Boyle氏が中国のプリビズ事情を紹介した。

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  • ギャビン・ボイル氏(プリビズ・スーパーバイザー、Base FX)


2003年から原点となる活動をはじめ、2006年に創立されたBase FX。ILM(Industrial Light & Magic)と戦略的パートナーシップを締結し、これまでに30作品以上のハリウッド大作のVFXを手がけているという。言うまでもなく中国映画向けVFXも多数手がけており、自他共に認めるアジア最大級のVFXスタジオである。
ボイル氏は、カナダのNelvanaでアニメーターとしてキャリアをスタートさせた後、VFX業界へ。そしてアニメーターからレイアウトアーティストへ転身し、2000年代後半からプリビズ・スーパーバイザーとして活躍してきたというキャリア20年以上のベテラン。近年はバンクーバーを拠点にILMやDigital Domainに籍を置いていたことから知人の紹介でBase FXに移籍したそうだ。

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Base FX公式サイトの作品紹介ページ。VFXを手がけた『モンスター・ハント』(2015)は、台湾版アカデミー賞こと「台北金馬影展(GOLDEN HORSE AWARDS)」のBest Visual Effects部門にノミネートされた

『モンスター・ハント』のVFX制作を行うにあたり、Base FXは2013年にプリビズを導入。ハリウッド最先端のノウハウを学ぶべく、ボイル氏に白羽の矢が立ったというわけだ。
同作は、実写にフルCGキャラクターアニメーションが全編にわたり介在するというVFXヘビーな内容だったため、まずは従来手法の場合に求められるコストを見積もり、そのコストをいかにして抑えるのかという検証を行うためのプリビズ制作から着手。本編の60〜70%のプリビズを制作したとのこと。

プリビズを理解するスタッフが中国にはいなかったのでアニメーターをスタッフとして採用。少なくともそういった才能が最低条件でしたが、実践的な能力を持ち合わせていればトレーニングで育てることは十分可能です。プリビズを進めるにあたっては監督との共同作業をすることに気を配りました。また、プロダクションデザイナーとの関係も重要でした。プリビズがプリプロダクションで信頼できる工程であることを認識してもらうため、予算が許す範囲内でドローンなども使用し、監督がほしいものを与えることにプライオリティを置きました。(引用元:PSA公式サイトで公開されているボイル氏のプレゼンテーション抄訳

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ボイル氏の講演スライドより。ロケ撮影に同行し、リファレンス用のスチールや動画撮影も大量に行なったという。プリビズはPC上での作業では完結せず撮影現場での泥臭い作業が伴うこと、そしてプリビズはコストの節減だけではなく、撮影時の安全性を確保するための検証にも有効であると語っていた

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<4>工程に応じて求められるプリビズは変わってくる〜HALON Entertainment〜>

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