<4>工程に応じて求められるプリビズは変わってくる〜HALON Entertainment〜
ラストをかざったのが、HALON Entertainment(以下、HALON)創立者であり、CEOのダニエル・グレゴワール/Daniel Gregoire氏。HALONが手がけた案件を例に、最先端の取り組みが紹介された。
HALONは、JAK FILMS(※2)からスピンオフした有志たちによって2003年に設立された欧米を代表するプリビズ専門プロダクションのひとつである。そして、グレゴワール氏は2009年にアメリカで設立された非営利団体Previzualization Societyのボードメンバーとしても活躍中だ。
同様の団体としてすぐに脳裏に浮かぶのが、Visual Effects Society/VES(視覚効果協会)だと思うが、VESから独立したかたちでプリビズに特化した団体が設立された背景には、プリビズがVFX本制作と混同されがちであること、それゆえにプリビズを正しく理解し、実践できる人材が不足している現状への危機感があるのだろう。
※2:JAK FILMS ジョージ・ルーカスが設立したプリビズ専門プロダクション。ちなみに、世界最大手のプリビズ専門プロダクションであるThe Third FloorもJAKからスピンオフした有志たちによって創業されている。
プリビズはプロジェクトの進捗に応じて、5種類に大別できる(下表)。グレゴワール氏の講演でも、それに基づくかたちで実際のプリビズ映像を流しながら具体的に紹介された。
「Halon Highlight Reel 2015」。プリビズとしてのクオリティの高さが存分に伝わってくる
- 企画(プリプロダクション)
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<1>ピッチビズ/Pitchviz
企画段階において、まだプロジェクトがスタートする前の段階で作成されるもの
<2>D(デザイン)ビズ/D-Vis
シーンのデザインを決めるために制作されるもの。イメージボードをヴァーチャル空間に移行させ、様々な方向から検証しながらビジュアルデザインを決めていく
<3>テクニカルプリビズ/Technical Previs
カメラの動きやライティング、レイアウトといった技術的な要件の検証のために制作されるもの
- 撮影/収録
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<4>オンセットプリビズ/On-Set Previs
撮影現場において、撮影(収録)データとCGとをリアルタイムで合成し、撮影素材を評価するためのもの
- ポストプロダクション
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<5>ポストビズ/Postvis
撮影プレートとCG素材を合成し、シーン選択やVFX本制作のボリューム調整のために作成されるもの
Previsualization Societyが定義するプリビズの種類をまとめたもの
グレゴワール氏の講演スライドより。プリビズ(プリ・ビジュアライゼーション)とは、ビジュアルによるストーリーテリングである、階段を一段ずつ上っていくように進める必要があること、インタラクティブな工程であること、安全な環境でアイデアを試す場であること、次の工程へと進むための準備期間であること、あらゆる映像プロジェクトにとって根幹となるものであることだと解説
グレゴワール氏の講演スライドよりプリビズの役割について、(左)シーンクエンスの構築/(右)映画的な演出という観点から解説したもの
グレゴワール氏の講演スライドより。左上から順に、「ヴァーチャル・リアリティの利用」「撮影現場における(オンセットの)プリビズ」「ポストビズ」「VFX(プリビズとのちがい)」について解説したもの
HALONがプリビズ業務に利用している機材リスト、(左)ソフトウェア/(右)ハードウェア。プリビズについても、リアルタイム処理、そしてVRの利用が進んでいくことが窺える
プリビズの最も大きなメリットは、制作スタッフの全員が映像を見ることによって「同じページ」を認識できること、つまりあるシーンを構成する上でベストなバージョンはどれかということがはっきりとわかることです。(中略)また、映画制作にはアクシデントがつきものです。やってるそばから要求されるものが日々コロコロと変わっていきます。撮影現場でもそれは毎日発生するので、オンセットでの制作進捗による変更にプリビズを対応させていくことも重要でしょう。(引用元:PSA公式サイトで公開されているグレゴワール氏のプレゼンテーション抄訳)
<5>まずは定期的かつ継続した啓蒙活動を
最後に、5氏による「どのようにしてアジアでプリビズを発展させていくのか?」というテーマで、ACW-DEEPの山口氏がモデレータを務めるかたちでパネルディスカッションが行われた。
最初に意見を述べたのはBase FXのボイル氏。他のアジア諸国と同じく中国ではプリビズについて本格的に学べる教育機関が存在しないため、時間をみつけては学校をまわりプリビズ制作に必要なスキルや具体的な技法を啓蒙しているという。実作業では、ジュニアレベルの若手にもどんどん実務に携わらせて(まさにOJTで)、監督やプロデューサー、クライアントへのヒアリングを綿密に行い、プリビズ業務の勘所を習得してもらうほかないと語っていた。また、教育面では、属人化に陥らないよう情報の共有が重要だとも語っていたが、明文化しづらいプリビズ教育の難しさの裏返しとも言えそうだ。
続いてPretzealのユーン氏は、自身のWeta Digital等でのプリビズ業務に携わった経験と照らし合わせて韓国では欧米の大手スタジオと同等のコストはかけられないゆえの苦労を語ったが、その一方ではプリビズが求められる案件が着実に増えてきていると説明。そうしたニーズに対して、プリビズの主目的である「VFXを用いることで、ストーリーテリングや画づくりの効果を高められるのか」を説明し、理解してもらうという"実績"を積み重ねていくことが重要、そのためにもストーリーテリングの素養があり、プリビズの効果を正しく引き出せる人材が必要だと語った。
地道に実績を重ね、信頼を勝ちとるほかないというのは当然ながらアジアに限ったことではない。HALONのグレゴワール氏も自身の体験を下に、ひとつひとつのジョブでベストを尽くしていくこと、監督やプロデューサーが難題に直面した際にその解決策を即座に提案できるよう日頃から準備をしておくことの重要性を語っていたが、そのなかの「キャメロンやスピルバーグ、キャメロンといった巨匠たちに共通するのは、新しい技術の導入に意欲的なこと」というコメントには大いに納得させられた。
最後にReallusionのチェン氏は、プリビズのエキスパートたちの意見を踏まえ、アジアでプリビズが発展していくためにも学生のうちにプリビズについての教育を行うことが必要であり、そのためにも学生や教育機関の参考となる活動を行っていきたい、そして自社のアワードに継続して取り組んでいきたいという決意を語った。
全てのパネリストに共通する意見は、「プリビズを正しく行うためには、プリビズのスペシャリストが必要である」「プリビズを浸透させていくためには、着実に成果を上げていくほかない」という2点に集約できるだろう。
プリビズという用語を耳にする機会は増えてきたが、コンセプトアートなどと同様、観念的な面も含むゆえに理解されにくいプリビズ。PSAには今回のようなイベントをぜひ定期的かつ継続して実施してもらいたい。そのためにもPSAの活動を協賛・支援する人たちが増えていくことも願っている。
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