昨年11月上旬に神戸で開催された「SIGGRAPH Asia 2015」にて、アジアにおけるプリビの普及を目指すPREVIS SOCIETY ASIAが、シンポジウム"PreVisualization: How to develop PreVis in Asia?"を実施した。日本、台湾、中国、そして米国におけるプリビズ事情について、有識者たちが意見を交わしたその様子をふりかえる。
TEXT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)
<1>PREVIS SOCIETY ASIA(PSA)設立の経緯
2015年7月、アジア初のプリビズ専門プロダクション(※1)であるACW-DEEP代表取締役の山口 聡氏らが中心となり、アジアにおけるプリビズ技術の普及を目指す一般社団法人「PREVIS SOCIETY ASIA」(以下、PSA)が設立された。
※1:アジア初のプリビズ専門プロダクション 株式会社ACW-DEEP公式サイトの企業紹介文「株式会社ACW-DEEPはアジア初のプリビズ専門会社です(ACW-DEEP Corp. is the first previs company in Asia. )」より。なお同社は、2013年3月27日(水)設立である(引用元:ACW-DEEP)
PSAの注目すべき点のひとつに、日本だけでなくアジア全域を対象としていることが挙げられる。実際に、組織形態としては日本の法律が定める一般社団法人だが、代表理事の山口氏以外の理事は、iClone等の開発元として知られるReallusion台湾支社のバイス・プレジデントを務めるクリストファー・チェン/Christopher Chen氏(台湾)ならびに韓国初となるプリビズ専門プロダクションPretzeal Studios.代表のダンヨー・ユーン/Danyo Donghyun Yoon氏(韓国)と国際色豊かだ。
そんなPSAにとって初めての公的なイベントとなったのが、ここに紹介するPreVisualization: How to develop PreVis in Asia?(邦題:アジアにおけるプリビズの活用)だ。
SIGGRAPH Asia 2015の Symposium on Educationプログラムの一環として、昨年11月4日(水)の夕方に実施された本セッションでは、PSA理事の3氏に加えて、中国を拠点にハリウッド大作のVFXにも携わるBase FXでプリビズ・スーパーバイザーとして活躍するギャビン・ボイル/Gavin Boyle氏、そしてハリウッドを代表するプリビズ専門プロダクションのひとつHALON Entertainment代表のダニエル・グレゴワール/Daniel Gregoire氏のふたりが参加することで、日本、台湾、韓国、中国、アメリカの5ヶ国におけるリアルなプリビズ事情が披露されるという実に有意義なものであった。
" PreVisualization: How to Develop PreVis in Asia?"セッションの様子
まずは、代表理事の山口氏よりPSAの設立目的ならびに本セッションのアジェンダが紹介された。詳しくはPSA公式サイトのOBJECTIVEの項を参照していただきたいが、山口氏は現在のデジタルベースの映画制作への移行について、トーキー、そしてカラーライズに継ぐ大きな変革をもたらすものだと語り、そうした状況下において映像制作のプロフェッショナルが限られたバジェットの中でハイクオリティなVFXを創り出す上では、制作全体の予算と時間の配分を決めるにあたり、プランニングの裏付けとなる事前の検証が欠かせない。そして、その精度を高める術が"企画や計画を可視化する技術"である、プリビズ(Previs/Pre-Visualization)なのだと説明された。
これはプリビズに限ったことではないが、ハリウッドを中心とした欧米の映画産業に対して資金面やテクノロジー面において劣勢にある日本をはじめとするアジア諸国が、より良い映像制作を実践していく上ではアジア各国が単一で対抗するのではなく、国を越えて各々のノウハウを共有し、それを向上させていくべきだという考えの下、アジア横断型のPSAが設立されたのだという。
PSA設立について説明を終えた後、本セッションのアジェンダを披露。上述した5ヶ国におけるプリビズについて順に紹介していくことが説明された。そのトップバッターとして、ひき続き山口氏が日本におけるプリビズ事情を紹介。ACW-DEEPが手がけた実際のプリビズを交えて語っていた。
(左)PSAについての説明/(右)本セッションのパネリストの紹介
山口氏(ACW-DEEP)は、『のぼうの城』(2012)、『魔女の宅急便』(2014)、そして『進撃の巨人』2部作(2015)のプリビズを担当するのと並行して、有名タレントを起用したTVCMのプリビズも多数手がけているという(これは、前者よりも後者の方が完成尺に対する単価の面で優位であることも大きいだろう)。
日本の映像制作現場の特徴として、監督の名を冠した"○○組"という組織形態が挙げられると、山口氏。その監督の作品に継続して携わるお互いに気心が知れたキャメラマン、美術監督、照明技師といった各分野のエキスパートが集うことで短期間でハイクオリティを生み出す(まさに"阿吽の呼吸"だ)一方で、フィルム(アナログ)時代から活動する組の場合は、新しい技法に対してネガティブに陥りがちだという難点を指摘。
そうした事情を踏まえ、ACW-DEEPでは、検証の対象となる要素に絞ったプリビズ制作を心がけているそうだ。その例として、生身の役者の撮影プランであれば、検証の対象がカメラワークやアングルとなるように、あえてプリミティブなモデルを使い、あえてキャラクターアニメーションは付けない(=キャラクターは同一ポーズのまま移動する)プリビズが披露された。
アジアは日本と同じで独特の文化を持っている国が多いと思います。ハリウッドスタイルのプリビズ作業をそのまま割り当てるのでなく、その国それぞれのやり方に合うようにやっていくことが、プリビズの普及には重要なのではないかと考えています。(引用元:PSA公式サイトで公開されている山口氏のプレゼンテーション要約)
個人的には、プリビズの最終バージョンは、全ての中核スタッフが集った上でFIXさせるようにしている(="○○組"の全中核スタッフが納得した上でFIX)という山口氏のコメントを興味深く感じた。
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<2>プリビズを映像教育に活かす〜Reallusionの取り組み〜
<2>プリビズを映像教育に活かす〜Reallusionの取り組み〜
続いて、クリストファー・チェン氏がReallusionが主催する学生コンペ「ASIAGRAPH REALLUSION AWARD」について紹介した。
シリコンバレーが本社のReallusionは台北にR&D拠点を設けている。同社が開発・発売する2D/3Dアニメーションを中心としたDCCツールに共通するコンセプトはリアルタイム処理と豊富なライブラリを利用することだという、例えばiCloneの場合は、独自のリアルタイムアニメーションエンジンを実装することでディレクター目線で即座に結果が得られることを強みとしている。さらにシンプルなUIに仕上げることで手早く操作が習得可能であることから、具体的なオペレーションを学ぶことで手いっぱいになりがちな3DCGアニメーションの学習において、ストーリーテリング等の映像演出を効率的に習得できるとアピールした。
(左)Reallusionの製品ポートフォリオ/(右)独自開発した各種リアルタイムエンジンと、豊富なアセットライブラリを用意することでツール自体の習得や素材の準備に必要なコストを大幅に削減できるという
Reallusionと台湾の元智大学が主催する、「ASIAGRAPH REALLUSION AWARD」は、その名のとおり、文京学院大学の喜多見 康教授(コンテンツ多言語知財化センター長)が長年にわたり取り組んでいるアジア全域のデジタルコンテンツを対象とした総合イベントASIAGRAPHとのタイアップで2012年からスタートした学生コンペである。大学生部門と高校生部門で各々3Dコンペと2Dコンペが行われているが、3DコンペではiCloneを用いて、各年のテーマに沿ったオリジナルCGアニメーションを48時間で制作するというルールになっている。各国の団体と連携することで(日本の場合はCG-ARTS協会)、オーストラリアを加えたアジア諸国の3DCGを学ぶ学生たちが個人もしくはグループ(最大3名)で参加しているとのこと。
(左)本アワード実施の背景をまとめたもの。一般のDCCツール(図中では、modeling software tools)では、多機能ゆえに操作が難解のため"達成感が得られない(Extreme low sense of achievement)"という指摘が興味深い/(右)2015年度・授賞式のスナップ。マレーシアのUniversiti Tun Hussein Onn Malaysiaの学生コンビが最優秀賞を獲得した
「ASIAGRAPH REALLUSION AWARD 2015」(大学生・3D部門)最優秀賞(Best Film)受賞作品『SEED OF LIFE』。学生が48時間で作成したとは思えないクオリティである
チェン氏のプレゼン後半で示された、北京の精華大学 継続教育学部のLIN HUA教授のコメント。4年もの年月を費やし、3ds MaxによるCGアニメーションを学んだ学生のうち、作品として完成させられるのは65名中3〜5名しかいないとのこと。その理由は、アニメーション制作ではなく、ツール操作を覚えることで大半の時間を浪費してしまうからだという。案件や職場によってツールが変わることは大いにあるという現実を考えれば、教育課程においては、アニメーション表現の原理・原則を学ぶことに重きを置くべきであり、転じて実際に作品を作り上げていくことに注力すべきという考えは一理ある
このコンテストの背景には、プリビズの教育ということがあります。iCloneにはモデルやアニメーションなどのアセットが揃っているので、ストーリーがうまくできれば作品を完成させることができる。つまり、映像制作の要である「ストーリーをつくる」ということを学ぶことができるのです。(引用元:PSA公式サイトで公開されているチェン氏のプレゼンテーション抄訳)
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<3>韓国(Pretzeal)と中国(Base FX)におけるプリビズ事情
<3>プリビズとVFXは似て非なるもの
3−1.Pretzeal(韓国)の取り組み
続いてはPSA理事のダンヨー・ユーン氏が韓国におけるプリビズ事情について、自身のキャリアをふり返るかたちで披露した。
山口氏がACW-DEEPを起業してから約1年後の2014年4月に、ユーン氏は韓国初のプリビズ専門プロダクションPretzeal studios.を創立した。
ニュージーランドのMassey Universityでビジュアル・コミュニケーションとデザインを学んだという国際派のユーン氏は、最初からプリビズ・アーティストとしてキャリアをスタートさせたとのこと。
大学ではグラフィックデザインを学んでいましたが、映画の仕事をしたいと思うようになり、CGを使った映像を作成するなどして映画業界にアプローチしていきました。特にストーリーテリングに関連する仕事への興味があり、そういう方向でやっていくうちにプリビズに出会ったのです。当初はプリビズが何であるかも理解していませんでしたが、限られた時間と資金の中でストーリーテリングに関われるというプロセスが面白く魅力的でした。(引用元:PSA公式サイトで公開されているユーン氏のプレゼンテーション抄訳)
Pretzeal Showreel
ユーン氏は、Dr. DやWeta Digitalにてハリウッド作品のプリビズに携わり、MARZA ANIMATION PLANETがアニメーション制作を手がけた『キャプテンハーロック』にもレイアウトアーティストとして参加している
「私はCG畑(CG Guy)ではありません」と語るユーン氏は、PCに向き合うばかりではなく、実写の映像演出の感覚でフィルム・エディティングやストーリーテリングが実践できるプリビズが性に合っているのだという。
Pretzeal公式サイトの会社説明の言葉を借りれば、シンプルな3Dアニメーションで"動くストーリーボード"をつくることがプリビズである。プリビズは3DCG技術の1分野と思われがちだが(もちろん、そうした面も併せ持ってはいるだろう)、一枚絵では把握しきれない映像表現をいかにして実現させるのか、それをクリエイティビティを損なわずに(それこそ絵描きの感覚で)現実的なプランに落とし込むのか、ビジュアルという具体的な指針によって制作スタッフ間で共有するための手法がプリビズなのだと、ユーン氏の講演を通じて改めて実感した。
3−2.Base FX(中国)の取り組み
今度は、2013年から北京のBase FXにて、プリビズ・スーパーバイザーとして活躍するギャビン・ボイル/Gavin Boyle氏が中国のプリビズ事情を紹介した。
2003年から原点となる活動をはじめ、2006年に創立されたBase FX。ILM(Industrial Light & Magic)と戦略的パートナーシップを締結し、これまでに30作品以上のハリウッド大作のVFXを手がけているという。言うまでもなく中国映画向けVFXも多数手がけており、自他共に認めるアジア最大級のVFXスタジオである。
ボイル氏は、カナダのNelvanaでアニメーターとしてキャリアをスタートさせた後、VFX業界へ。そしてアニメーターからレイアウトアーティストへ転身し、2000年代後半からプリビズ・スーパーバイザーとして活躍してきたというキャリア20年以上のベテラン。近年はバンクーバーを拠点にILMやDigital Domainに籍を置いていたことから知人の紹介でBase FXに移籍したそうだ。
Base FX公式サイトの作品紹介ページ。VFXを手がけた『モンスター・ハント』(2015)は、台湾版アカデミー賞こと「台北金馬影展(GOLDEN HORSE AWARDS)」のBest Visual Effects部門にノミネートされた
『モンスター・ハント』のVFX制作を行うにあたり、Base FXは2013年にプリビズを導入。ハリウッド最先端のノウハウを学ぶべく、ボイル氏に白羽の矢が立ったというわけだ。
同作は、実写にフルCGキャラクターアニメーションが全編にわたり介在するというVFXヘビーな内容だったため、まずは従来手法の場合に求められるコストを見積もり、そのコストをいかにして抑えるのかという検証を行うためのプリビズ制作から着手。本編の60〜70%のプリビズを制作したとのこと。
プリビズを理解するスタッフが中国にはいなかったのでアニメーターをスタッフとして採用。少なくともそういった才能が最低条件でしたが、実践的な能力を持ち合わせていればトレーニングで育てることは十分可能です。プリビズを進めるにあたっては監督との共同作業をすることに気を配りました。また、プロダクションデザイナーとの関係も重要でした。プリビズがプリプロダクションで信頼できる工程であることを認識してもらうため、予算が許す範囲内でドローンなども使用し、監督がほしいものを与えることにプライオリティを置きました。(引用元:PSA公式サイトで公開されているボイル氏のプレゼンテーション抄訳)
ボイル氏の講演スライドより。ロケ撮影に同行し、リファレンス用のスチールや動画撮影も大量に行なったという。プリビズはPC上での作業では完結せず撮影現場での泥臭い作業が伴うこと、そしてプリビズはコストの節減だけではなく、撮影時の安全性を確保するための検証にも有効であると語っていた
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<4>工程に応じて求められるプリビズは変わってくる〜HALON Entertainment〜>
<4>工程に応じて求められるプリビズは変わってくる〜HALON Entertainment〜
ラストをかざったのが、HALON Entertainment(以下、HALON)創立者であり、CEOのダニエル・グレゴワール/Daniel Gregoire氏。HALONが手がけた案件を例に、最先端の取り組みが紹介された。
HALONは、JAK FILMS(※2)からスピンオフした有志たちによって2003年に設立された欧米を代表するプリビズ専門プロダクションのひとつである。そして、グレゴワール氏は2009年にアメリカで設立された非営利団体Previzualization Societyのボードメンバーとしても活躍中だ。
同様の団体としてすぐに脳裏に浮かぶのが、Visual Effects Society/VES(視覚効果協会)だと思うが、VESから独立したかたちでプリビズに特化した団体が設立された背景には、プリビズがVFX本制作と混同されがちであること、それゆえにプリビズを正しく理解し、実践できる人材が不足している現状への危機感があるのだろう。
※2:JAK FILMS ジョージ・ルーカスが設立したプリビズ専門プロダクション。ちなみに、世界最大手のプリビズ専門プロダクションであるThe Third FloorもJAKからスピンオフした有志たちによって創業されている。
プリビズはプロジェクトの進捗に応じて、5種類に大別できる(下表)。グレゴワール氏の講演でも、それに基づくかたちで実際のプリビズ映像を流しながら具体的に紹介された。
「Halon Highlight Reel 2015」。プリビズとしてのクオリティの高さが存分に伝わってくる
- 企画(プリプロダクション)
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<1>ピッチビズ/Pitchviz
企画段階において、まだプロジェクトがスタートする前の段階で作成されるもの
<2>D(デザイン)ビズ/D-Vis
シーンのデザインを決めるために制作されるもの。イメージボードをヴァーチャル空間に移行させ、様々な方向から検証しながらビジュアルデザインを決めていく
<3>テクニカルプリビズ/Technical Previs
カメラの動きやライティング、レイアウトといった技術的な要件の検証のために制作されるもの
- 撮影/収録
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<4>オンセットプリビズ/On-Set Previs
撮影現場において、撮影(収録)データとCGとをリアルタイムで合成し、撮影素材を評価するためのもの
- ポストプロダクション
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<5>ポストビズ/Postvis
撮影プレートとCG素材を合成し、シーン選択やVFX本制作のボリューム調整のために作成されるもの
Previsualization Societyが定義するプリビズの種類をまとめたもの
グレゴワール氏の講演スライドより。プリビズ(プリ・ビジュアライゼーション)とは、ビジュアルによるストーリーテリングである、階段を一段ずつ上っていくように進める必要があること、インタラクティブな工程であること、安全な環境でアイデアを試す場であること、次の工程へと進むための準備期間であること、あらゆる映像プロジェクトにとって根幹となるものであることだと解説
グレゴワール氏の講演スライドよりプリビズの役割について、(左)シーンクエンスの構築/(右)映画的な演出という観点から解説したもの
グレゴワール氏の講演スライドより。左上から順に、「ヴァーチャル・リアリティの利用」「撮影現場における(オンセットの)プリビズ」「ポストビズ」「VFX(プリビズとのちがい)」について解説したもの
HALONがプリビズ業務に利用している機材リスト、(左)ソフトウェア/(右)ハードウェア。プリビズについても、リアルタイム処理、そしてVRの利用が進んでいくことが窺える
プリビズの最も大きなメリットは、制作スタッフの全員が映像を見ることによって「同じページ」を認識できること、つまりあるシーンを構成する上でベストなバージョンはどれかということがはっきりとわかることです。(中略)また、映画制作にはアクシデントがつきものです。やってるそばから要求されるものが日々コロコロと変わっていきます。撮影現場でもそれは毎日発生するので、オンセットでの制作進捗による変更にプリビズを対応させていくことも重要でしょう。(引用元:PSA公式サイトで公開されているグレゴワール氏のプレゼンテーション抄訳)
<5>まずは定期的かつ継続した啓蒙活動を
最後に、5氏による「どのようにしてアジアでプリビズを発展させていくのか?」というテーマで、ACW-DEEPの山口氏がモデレータを務めるかたちでパネルディスカッションが行われた。
最初に意見を述べたのはBase FXのボイル氏。他のアジア諸国と同じく中国ではプリビズについて本格的に学べる教育機関が存在しないため、時間をみつけては学校をまわりプリビズ制作に必要なスキルや具体的な技法を啓蒙しているという。実作業では、ジュニアレベルの若手にもどんどん実務に携わらせて(まさにOJTで)、監督やプロデューサー、クライアントへのヒアリングを綿密に行い、プリビズ業務の勘所を習得してもらうほかないと語っていた。また、教育面では、属人化に陥らないよう情報の共有が重要だとも語っていたが、明文化しづらいプリビズ教育の難しさの裏返しとも言えそうだ。
続いてPretzealのユーン氏は、自身のWeta Digital等でのプリビズ業務に携わった経験と照らし合わせて韓国では欧米の大手スタジオと同等のコストはかけられないゆえの苦労を語ったが、その一方ではプリビズが求められる案件が着実に増えてきていると説明。そうしたニーズに対して、プリビズの主目的である「VFXを用いることで、ストーリーテリングや画づくりの効果を高められるのか」を説明し、理解してもらうという"実績"を積み重ねていくことが重要、そのためにもストーリーテリングの素養があり、プリビズの効果を正しく引き出せる人材が必要だと語った。
地道に実績を重ね、信頼を勝ちとるほかないというのは当然ながらアジアに限ったことではない。HALONのグレゴワール氏も自身の体験を下に、ひとつひとつのジョブでベストを尽くしていくこと、監督やプロデューサーが難題に直面した際にその解決策を即座に提案できるよう日頃から準備をしておくことの重要性を語っていたが、そのなかの「キャメロンやスピルバーグ、キャメロンといった巨匠たちに共通するのは、新しい技術の導入に意欲的なこと」というコメントには大いに納得させられた。
最後にReallusionのチェン氏は、プリビズのエキスパートたちの意見を踏まえ、アジアでプリビズが発展していくためにも学生のうちにプリビズについての教育を行うことが必要であり、そのためにも学生や教育機関の参考となる活動を行っていきたい、そして自社のアワードに継続して取り組んでいきたいという決意を語った。
全てのパネリストに共通する意見は、「プリビズを正しく行うためには、プリビズのスペシャリストが必要である」「プリビズを浸透させていくためには、着実に成果を上げていくほかない」という2点に集約できるだろう。
プリビズという用語を耳にする機会は増えてきたが、コンセプトアートなどと同様、観念的な面も含むゆえに理解されにくいプリビズ。PSAには今回のようなイベントをぜひ定期的かつ継続して実施してもらいたい。そのためにもPSAの活動を協賛・支援する人たちが増えていくことも願っている。
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PREVIS SOCIETY ASIA
一般社団法人 PREVIS SOCIETY ASIA(プリビズ ソサエティ アジア)
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