MARIの沿革とライセンス形態
MARIはもともとWeta Digitalのインハウスツールで、『アバター』をはじめとするフォトリアルなVFX映画において膨大な高解像度のテクスチャを効率良く制作するために開発された3Dペイントソフトです。その後、The Foundryが製品版をリリースし、現在はバージョン3.1が最新となっています。そもそも大作映画のテクスチャ制作用に開発されていることもあって、ハイディテールの3Dモデルや高解像度のテクスチャの取り回しに優れるのが最大の特徴です。
MARIがサポートするテクスチャ解像
MARIでは超ハイメッシュのモデルや超高解像度のテクスチャを扱うことが可能だ。特にテクスチャにおいては最大32Kに対応しており、ハイエンドなユーザーに重宝されている
また、今年の2月にはMARIの開発に携わる日本人エンジニアの中垣清介氏を含めた4人が米アカデミー賞科学技術賞を受賞したことも、大きな話題となりました。
MARIのライセンス形態は、商用利用が可能な通常版のPro、商用利用は不可で機能も制限された無料版のNon-commercialがあります。また学生や教職員などの学校関係者であれば、MARIを含んだThe Foundry製品を1ライセンスでまとめて利用できる、Production COLLECTIVEとCreation COLLECTIVEを使うという選択肢もあります。
UDIMに代表されるMARIの特徴的な機能
そしてMARIといえば、UDIMという概念を世に広めた功績にも触れずにはいられません。UDIMとは、座標をオフセットしてタイル化したUVマップを使ってオブジェクトに対して複数のテクスチャを扱えるシステムのことです。
UDIMによる効率的なテクスチャ管理
UDIMによってタイル化されたパッチと呼ばれるUVスペースに対し、高解像度のテクスチャを分割してそれぞれに割り当てることで、テクスチャを効率的に扱えるしくみになっている
これによって効率的なテクスチャの管理・運用が可能になり、結果として使用するシェーダの数が少なくなることでレンダリングにかかる時間を減らすことにもつながります。詳しくは、後のページで作例を基にしてMARIの解説をしていただいたModelingCafe北田栄二氏の著書「Maya 実践:ハードサーフェスモデリング」を参照してください。
MARIは非破壊のレイヤーベースのシステムを採用していますが、バージョン3の新機能としてノードグラフが追加されました。
ノードグラフによるプロシージャルなアプローチ
高度なテクスチャ制作において複雑になりがちなレイヤーでの管理が、ノードグラフの採用によってトライ&エラーしやすくなった。ノードはグループ化してGizmoとして利用することもできる
この2つを上手く連携させることで、よりプロシージャルなテクスチャ制作のワークフローが実現できます。また、同バージョンでArnoldをはじめとする業界標準のシェーダを搭載したことにより、それぞれのレンダラでレンダリングした最終結果に近いルックをMARIのビューポート上でプレビューしながら作業することができるようになりました。
業界標準シェーダの搭載
MARIにはArnoldやV-Rayなど、最新のレンダラをシミュレートする強力なシェーダ群が搭載されている。画像はキャラクターの肌に物理ベースのBRDFシェーダを適用したもの
これによってレンダリングした後の調整が減り、テクスチャアーティストは3Dペイントで質感を詰め る時間が増えるという、理想的な作業環境を実現しています。Unrealシェーダにも対応したことで、ゲーム制作者にとってはMARIを使うメリットがさらに増えたと言えるでしょう。
ほかにも、OpenColorIOによるリニア環境でのカラーマネジメントや、NUKEをはじめとしたThe Foundry製品との強力な連携など、MARIの優位点はまだまだあります。最近ではアニメの背景美術での利用も増えてきており、今後は映画・ゲーム・アニメと幅広いメディアでMARIが活用されていくことはまちがいありません。