>   >  映像教育の名門校がゲーム業界にも進出 ~カナダのデジタルコンテンツ産業最新レポート<1>~
映像教育の名門校がゲーム業界にも進出 ~カナダのデジタルコンテンツ産業最新レポート<1>~

映像教育の名門校がゲーム業界にも進出 ~カナダのデジタルコンテンツ産業最新レポート<1>~

1−3.VFSの学内風景

約半数の学生が留学生だけに、国際的な雰囲気が漂う昼食風景。英語が母国語ではないもの同士が食事を通して仲良くなっていく。食費節約のためにランチボックス(弁当)持参の学生も見られる

著名アニメーターによる直筆サインの数々。中央のサインは映画『The Book of Life』の監督で、アニメーターのジョージ・グティアレス氏のもの。同作はゴールデングローブ賞の2014年度ベスト映画賞部門にノミネートされている。アニー賞やエミー賞で複数回の受賞経験をもつ著名な人物だ

地下にはブルーバック合成が可能な巨大スタジオを備える

校舎見学のハイライト。もともと本校舎はカナダの歴史博物館を改装したもので、地下にはその名残が見られる。学生数やコースの拡大と共に、これらの部屋も順次、教室や施設に改装されていく予定だ

このように映像業界で高い評価を受けているVFSだが、近年はゲーム業界の人材教育にも力を入れている。同校でゲーム制作を包括的に教えるGame Designコースが開設されたのが2004年。2014年にはゲームプログラムを包括的に教えるProgramming for Games, Web, and Mobileコースが開設された。背景にあるのが2008年のリーマンショックだ。バンクーバーの大手ゲームスタジオが閉鎖されていく一方で、KABAMなどの新興モバイルゲームスタジオが成長し、そうした動きにあわせた形となる。

クリス・ミッチェル氏は両コースを担当し、業界歴15年を数えるシニアインストラクターだ。バンクーバーのゲーム開発会社でゲームデザイナーやシナリオライターとして働いた経験があり、日本でも1997年から2001年まで外国語教師をつとめた。現在もGDCCESで最新技術や教育事情について情報収集を行い、VRゲーム開発を授業に取り入れるなど、最新トレンドへの追随に余念がない。そのミッチェル氏はVFSでゲーム開発者教育がスタートしたのは「産業界からのニーズに答えた結果だった」と説明した。

当時はPlayStation2の全盛期で、リアルタイムCGの表現力が飛躍的に高まっていった時期だった。映画『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズをはじめ(監督のピーター・ジャクソンはアクションゲームのマニアでもあった)、映画とゲームが共同制作される例も増加した。その一方で本格的なゲーム開発者教育は北米でも始まったばかりで、多くの企業で映画産業やアニメ産業のCG技術や脚本術などが流用されていった。こうした背景から「VFSでGame Designコースが新設されたのは論理的な決断だった」という。

ゲーム関連の2コースを担当するシニアインストラクターのクリス・ミッチェル氏

Game DesignコースとProgrammingコースは映像系のコースと同じく2ヶ月おきに開校し、カリキュラムは1年間で構成されている。Game Designコースは1クラス30人、Programmingコースは20人で、それぞれ年間3クラスずつだ。そのため全体では年間150人の学生がゲーム制作を学ぶことになる。双方のカリキュラムは4ヶ月ごとに分かれており、Game Designコースでははじめにグラフィック・レベルデザイン・プログラムの基礎を学ぶ。そこから徐々に各専攻に分かれていき、最後に卒業制作に挑んでいく。

Game Designコースがアート教育の文脈に接ぎ木されているのに対して、Programmingコースは徹頭徹尾プログラミングについて学ぶ、VFSでも異色のコースだ。C#とC++を中心に、Windows上でのプログラミングやOpenGL、モバイルゲーム開発、JavaScriptやネットワークインフラの基礎も学ぶ。AWS上でオンラインゲームを開発する授業も用意されている。入学には自作プログラムの提出か、Game Designコースなど関連コースの卒業証明書が求められるなど、他のコースに比べて敷居が高く設定されている。

ミッチェル氏は「平均的な学生は1週間で60時間勉強する」と説明した。授業で30時間、課題をこなすのに30時間だ。週末を休むと仮定すると、1日に授業で6時間ずつ、12時間勉強することになる。前述の通り長期休暇もないため、インターンシップは卒業後に就職活動を兼ねて、希望する学生が個別に行うのが一般的だ。カリキュラムにはゲームジャムやハッカソン形式の授業も組み込まれており、産業界からゲストを招いてのピッチイベントも定期的に開催。希望する学生は学校で作成した作品を手に参加できる。

学生の多くは卒業が近づくとデモを抱えて就職活動に奔走するが、中には起業する学生も存在する。パズルアドベンチャー『PULSE』がUnity Student Award 2012を受賞したのをきっかけに、バンクーバーでインディゲームスタジオを立ち上げたPixel Pi Gamesは好例だ。『PULSE』は在学中に開発されたプロトタイプをベースに、キックスターターで8万ドル(約800万円)の資金調達を経て本開発が行われ、2015年10月にSTEAMでリリースされた。同社は現在も市内で活動中だ。

学生作品『PULSE』はUnity Student Award 2012などを受賞し、インディゲームスタジオPixel Pi Gamesが起業するきっかけにもなった

『Pulse』Game Trailer

こうしたVFSのゲーム開発者教育は北米で高く評価されており、ザ・プリンストンレビューによる2017年度の北米大学ランキングでは、ゲームデザイン(=ゲーム開発者教育)コースをもつ教育機関で11位にランクインされた。同じカナダから8位にThe Art Institute of Vancouverがランクインしているが、こちらは18〜36ヶ月の長期カリキュラム。1年制の職業訓練校としては唯一の存在で、快挙と言って良いだろう。日本とは学生や教育を巡る状況がちがいすぎるのも事実だが、学べる点は多々あると感じられた。

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<2>「アニメーション界のハーバード」もゲームコースを開設〜Sheridan College〜

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