カナダ投資局主催のメディアツアーが3月19日から23日まで開催され、筆者を含むデジタルコンテンツならびにICT(以下、ゲーム・CG・IT)関連のジャーナリスト10名が参加し、トロント・ケベックシティ・モントリオール・バンクーバーの主要企業を訪問した。本稿ではバンクーバー・フィルム・スクール/Vancouver Film School(以下、VFS)とシェリダン・カレッジ/Sheridan Collegeという、2つの教育機関のレポートをお届けする。そこで見えてきたのは、映像系の名門校におけるゲーム分野への進出という新しい潮流だった。
TEXT & PHOTO_小野憲史 / Kenji Ono
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada
<1>北米で高い評価を受けるVFSのゲーム人材教育〜VFS(Vancouver Film School)〜
繁華街の建物の中にVFSの校舎がある。学校と言われなければ素通りしてしまうほどで、校庭や体育館といった施設も存在しない。日本の専門学校のイメージに近い
カナダにとってアジアの玄関口であり、ノース・ハリウッドの異名ももつバンクーバー。ICT関連だけで市内に8,900社、約8万人のクリエイターが活躍中だ。地域企業の代名詞とも言えるのがスポーツゲームで有名なEAカナダ。カプコン(Capcom Vancouver)、セガ(Relic Entertainment)、マイクロソフト(The Coalition)なども傘下のスタジオを抱える。映像業界ではVFXスタジオのDouble Negativeが有名だ。1987年に開校したVFSは過去30年にわたって、これら地元企業をはじめ、全世界に優秀な人材を輩出してきた。
映画制作を学ぶ12名の学生と共に開校したVFS。その後、地域のICT産業と共に急成長し、現在は市内に8つの校舎を抱え、CG・映画制作・ゲーム・オーディオ・脚本・演劇など13の専門コースをもち、フルタイムの学生数が1,000人を越えるマンモス校に成長した(これ以外に短期コースで学ぶ学生が2,000人いる)。最大の特長は1年制のカリキュラムを採用し、2ヶ月ごとにコースがスタートすること。校舎は24時間開放されており、夏休みなどの長期休暇も存在しない。学生は授業漬けの毎日を送ることになる。
廊下には卒業生が携わった映画がクレジットと共に展示されている。いずれもハリウッドの大作映画ばかりだ
卒業生が映像制作のメインスタッフを務めた本三作は別各扱いで飾られていた
取材陣が訪問したのは「3D Animation + Visual Effects」、「Classical Animation」、「Animation Concept Arts」の3コースが学べる、市内中心部に位置する新設校舎だ。「3D Animation + Visual Effects」はその名の通り3DCGを中心としたコースで、学生数は300人。「Classical Animation」は伝統的な手描きアニメーターの養成コースで、学生数は75人。「Animation Concept Arts」はキャラクターデザインやコンセプトアートなど、映像制作の上流工程に特化して学ぶコースで、学生数は24人となる。
VFSの歴史(簡略版)
1987年 映画製作コース(学生数12名)で開校
1994年 Classical Animationコース開設
1995年 3D Animation + Visual Effectsコース開設
2004年 Game Designコース開設
2006年 Youtubeチャネル開設
2014年 Programming for Games, Web, and Mobileコース開設
2015年 Animation Concept Artsコース開設
3コースの部門長をつとめるバネッサ・ジェイコブス氏は「学生は半年間で基本的なツールの使い方を学び、自分の専門を見極めていきます。後半の半年間はデモリールやポートフォリオの制作が中心で、就職活動も並行して行います。学生は作品制作を行う上で、プロのアーティストから直接さまざまな指導を受けられます」と説明した。もっとも、1年間でこれだけのカリキュラムをこなすのはかなり大変で、学生からはしばしば「長期休暇がある分だけ、社会人の方がまし」だという声も聞かれるほどだという。
学生は大きく3種類に分けられる。高校卒業後、すぐに企業で働くための実践的なスキルを身につけたいグループ。大学を卒業したり、すでに異業種で働いたりした経験があり、そこからキャリアをチェンジしたいグループ。そしてバンクーバーや北米で働きたい留学生のグループだ。カナダ人以外の学生比率は47%で、学費はコースによって異なるが、年間3万〜5万カナダドル(300〜500万円)。日本に比べるとかなり割高で、カナダでも他校に比べて高めだ。そのため奨学金を活用する学生も少なくない。
日本の専門学校では多くの場合、入学志望の学生が専門スキルを持たないことを念頭にカリキュラムが組まれる。VFSでも同様に、入学時に特別な選考試験が存在せず、準備コースという位置づけのFoundation Visual Art + Designコースもある。しかし、多くの学生は(学費がかかることもあり)、それ以外のコースを履修する。そのためには、入学時から相応のスキルセットが必要だ(またはFoundationコースの卒業証明が必要)。卒業制作を重視するカリキュラムからも、その意味が理解できるだろう。
CGとアニメーションの3コースを統括するバネッサ・ジェイコブス氏
次ページ:
1−2.3D Animation + Visual Effectsコース〜VFS〜
3D Animation + Visual Effectsコースの教室風景。卒業生の作品がパブリックモニターでループ再生されており、モチベーションを高める効果を果たしている。使用ツールはMaya、ZBrush、NUKE、Photoshop、After Effectsなどで、モデリングだけでなくライティングやコンポジットも学ぶ
学生はカリキュラムを通して、徐々に自分の専門領域を決めていき、卒業制作では個人又は3〜4人で短編アニメーションを制作する。卒業生の職種はモデラーやアニメーター、マットペインター、コンポジターなど。就職先もDigital Domain、Rhythm & Hues、Industrial Light Magic、Pixarなどの著名スタジオや、テレビ局、CM制作会社など多岐にわたる
3D Animation + Visual Effectsコースのメンター(指導者)陣。いずれも地元のCGや映像制作スタジオで働くプロフェッショナルばかりだ
メンター陣の来校予定表。制作中の課題や作品について実践的な指導が受けられる。中には授業についていけず、落ちこぼれてしまう学生もいる。そうした学生に対しても、できるだけフォローアップするように努めているという
メンター陣の予約シート。人気のメンターほど早い者勝ちで予定が埋まっていく
Animation Concept Artsコース従来のClassic Animationコースから分かれて、2015年に新設されたAnimation Concept Artsコースの教室風景。手描きアニメーションの歴史を踏まえつつ、デジタル機材が多用されている。卒業後の進路はストーリーボードアーティスト、カラーアーティスト、キャラクターデザイナーなど。中には社会人から学び直す学生もいる
はじめにデッサンや手描きアニメーションの技術を一通り学んだ後、デジタル技術を用いた制作に進んでいく。後半の半年間は卒業制作に当てられ、チーム制作を進めつつ、個人のポートフォリオも充実させていく。車両デザイン・背景デザイン・キャラクターデザイン・コンセプトアートなどが主な成果物となる
ハングルで埋め尽くされたホワイトボード。アジアの玄関口だけあって、中国・韓国からの留学生も多い
Classical AnimationコースClassical Animationコースの教室風景。ストーリーボードやコンセプトアート、キャラクターデザイン、アニメーションなどを学びながら、1本の短編アニメーションをつくり上げていく。すっかり3DCGに移行したかのように見える海外のアニメシーンだが、手描きアニメーションの作品も数多く制作されており、アニメーターの需要もある
手描きの動画をスキャンしてデジタル化し、彩色とコンポジットを行っていく。カリキュラムの終盤では手描きアニメだけでなく、FlashやHarmonyを使った2Dデジタルアニメの制作についても学ぶ。卒業後のキャリアは手描きアニメーター、2Dデジタルアニメーター、レイアウトアーティストなど
「読書をすると命を落とす」というブラックでシュールな世界を描いた短編アニメ『Reading Kills』の制作メモ。2012年度の学生作品だ
『Reading Kills』
[[SplitPage]] 1−3.VFSの学内風景約半数の学生が留学生だけに、国際的な雰囲気が漂う昼食風景。英語が母国語ではないもの同士が食事を通して仲良くなっていく。食費節約のためにランチボックス(弁当)持参の学生も見られる
著名アニメーターによる直筆サインの数々。中央のサインは映画『The Book of Life』の監督で、アニメーターのジョージ・グティアレス氏のもの。同作はゴールデングローブ賞の2014年度ベスト映画賞部門にノミネートされている。アニー賞やエミー賞で複数回の受賞経験をもつ著名な人物だ
地下にはブルーバック合成が可能な巨大スタジオを備える
校舎見学のハイライト。もともと本校舎はカナダの歴史博物館を改装したもので、地下にはその名残が見られる。学生数やコースの拡大と共に、これらの部屋も順次、教室や施設に改装されていく予定だ
このように映像業界で高い評価を受けているVFSだが、近年はゲーム業界の人材教育にも力を入れている。同校でゲーム制作を包括的に教えるGame Designコースが開設されたのが2004年。2014年にはゲームプログラムを包括的に教えるProgramming for Games, Web, and Mobileコースが開設された。背景にあるのが2008年のリーマンショックだ。バンクーバーの大手ゲームスタジオが閉鎖されていく一方で、KABAMなどの新興モバイルゲームスタジオが成長し、そうした動きにあわせた形となる。
クリス・ミッチェル氏は両コースを担当し、業界歴15年を数えるシニアインストラクターだ。バンクーバーのゲーム開発会社でゲームデザイナーやシナリオライターとして働いた経験があり、日本でも1997年から2001年まで外国語教師をつとめた。現在もGDCやCESで最新技術や教育事情について情報収集を行い、VRゲーム開発を授業に取り入れるなど、最新トレンドへの追随に余念がない。そのミッチェル氏はVFSでゲーム開発者教育がスタートしたのは「産業界からのニーズに答えた結果だった」と説明した。
当時はPlayStation2の全盛期で、リアルタイムCGの表現力が飛躍的に高まっていった時期だった。映画『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズをはじめ(監督のピーター・ジャクソンはアクションゲームのマニアでもあった)、映画とゲームが共同制作される例も増加した。その一方で本格的なゲーム開発者教育は北米でも始まったばかりで、多くの企業で映画産業やアニメ産業のCG技術や脚本術などが流用されていった。こうした背景から「VFSでGame Designコースが新設されたのは論理的な決断だった」という。
ゲーム関連の2コースを担当するシニアインストラクターのクリス・ミッチェル氏
Game DesignコースとProgrammingコースは映像系のコースと同じく2ヶ月おきに開校し、カリキュラムは1年間で構成されている。Game Designコースは1クラス30人、Programmingコースは20人で、それぞれ年間3クラスずつだ。そのため全体では年間150人の学生がゲーム制作を学ぶことになる。双方のカリキュラムは4ヶ月ごとに分かれており、Game Designコースでははじめにグラフィック・レベルデザイン・プログラムの基礎を学ぶ。そこから徐々に各専攻に分かれていき、最後に卒業制作に挑んでいく。
Game Designコースがアート教育の文脈に接ぎ木されているのに対して、Programmingコースは徹頭徹尾プログラミングについて学ぶ、VFSでも異色のコースだ。C#とC++を中心に、Windows上でのプログラミングやOpenGL、モバイルゲーム開発、JavaScriptやネットワークインフラの基礎も学ぶ。AWS上でオンラインゲームを開発する授業も用意されている。入学には自作プログラムの提出か、Game Designコースなど関連コースの卒業証明書が求められるなど、他のコースに比べて敷居が高く設定されている。
ミッチェル氏は「平均的な学生は1週間で60時間勉強する」と説明した。授業で30時間、課題をこなすのに30時間だ。週末を休むと仮定すると、1日に授業で6時間ずつ、12時間勉強することになる。前述の通り長期休暇もないため、インターンシップは卒業後に就職活動を兼ねて、希望する学生が個別に行うのが一般的だ。カリキュラムにはゲームジャムやハッカソン形式の授業も組み込まれており、産業界からゲストを招いてのピッチイベントも定期的に開催。希望する学生は学校で作成した作品を手に参加できる。
学生の多くは卒業が近づくとデモを抱えて就職活動に奔走するが、中には起業する学生も存在する。パズルアドベンチャー『PULSE』がUnity Student Award 2012を受賞したのをきっかけに、バンクーバーでインディゲームスタジオを立ち上げたPixel Pi Gamesは好例だ。『PULSE』は在学中に開発されたプロトタイプをベースに、キックスターターで8万ドル(約800万円)の資金調達を経て本開発が行われ、2015年10月にSTEAMでリリースされた。同社は現在も市内で活動中だ。
学生作品『PULSE』はUnity Student Award 2012などを受賞し、インディゲームスタジオPixel Pi Gamesが起業するきっかけにもなった
『Pulse』Game Trailer
こうしたVFSのゲーム開発者教育は北米で高く評価されており、ザ・プリンストンレビューによる2017年度の北米大学ランキングでは、ゲームデザイン(=ゲーム開発者教育)コースをもつ教育機関で11位にランクインされた。同じカナダから8位にThe Art Institute of Vancouverがランクインしているが、こちらは18〜36ヶ月の長期カリキュラム。1年制の職業訓練校としては唯一の存在で、快挙と言って良いだろう。日本とは学生や教育を巡る状況がちがいすぎるのも事実だが、学べる点は多々あると感じられた。
次ページ:
<2>「アニメーション界のハーバード」もゲームコースを開設〜Sheridan College〜
<2>「アニメーション界のハーバード」もゲームコースを開設〜Sheridan College〜
日本と異なり連邦制をとるカナダでは、州政府の自治権が強く、地域ごとの特性が出やすい。カナダ最大の都市、トロントを州都とするオンタリオ州もまた、他州と並んでICTやクリエイティブ産業が盛んな地域だ。VFX業界ではHoudiniで知られるSideFXが好例。ただし、ゲーム業界ではスタートアップやモバイル向けの中小スタジオが中心だ。その一方で教育機関ではカナダ最大規模のトロント大学を筆頭に他州を圧倒している。こうした非対称性も手伝って、税控除を始めとした企業誘致策が積極的にとられている。
教育機関の中でも22,000人の学生を抱える、カナダ有数の工芸・応用化学系大学がシェリダン・カレッジだ。中でも1971年に開設されたHonours Bachelor of Animation(=アニメーション学科)は「アニメ界のハーバード」と呼ばれるほどレベルが高く、アニメーション・キャリア・レビューの2012年度ランキングで1位を獲得している(VFSは17位)。カリキュラムは4年制で学士号が取得でき、Computer Animationなど1年制の上級コースに進学もできる(現在は2コースで、近年中に3コースに増加予定)。
特に2015年はシェリダンの当たり年だった。第87回アカデミー賞で長編アニメ映画賞部門に輝いた『ベイマックス』共同監督のChris Williams氏。ノミネート作『ボックストロール』の共同監督Graham Annable氏。同じく『ヒックとドラゴン2』の共同監督Dean DeBlois氏が、いずれもシェリダンの卒業生だったからだ。在校生のレベルも高く、3年生が制作した短編映画『Feathers』が、エアカナダ主催のenRoute Film Festival 2016や、トロント国際映画祭2017で学生アニメーション賞を受賞するなどの活躍を見せている。
『Feathers』
シェリダン・カレッジは3つの校舎に分かれており、写真はアニメーションとゲーム関連のコース(学科に相当)を学ぶ学生が通うトラファルガー校舎。大学全体ではフルタイムの学生が2万2000人、短期コースで学ぶ学生が1万7000人を数える。カナダの総人口が350万人であることを考えると、そのうち約1%が学んでいることになる
アニメーションとゲームデザイン関連で副学部長をつとめるアンジェラ・スタケーター氏
アニメーションとゲームデザイン関連で副学部長をつとめるアンジェラ・スタケーター氏は、「本学のアニメーション学科は、アニメーション制作を学んで学士号がとれるカナダで唯一の大学」だと胸を張った(ゲーム学科に相当するHonours Bachelor of Game Design=GD、ゲームデザイン学科でも同様)。アニメーション学科は手描きアニメのアニメーター教育を行う職業訓練コースからスタートし、1981年には早くも3DCGアニメーションの教育を開始。2003年に現在の形となり、学位を制定するまでにいたっている。
カリキュラムの特徴は手描きアニメーション・3DCGアニメーション・ストップモーション(コマ撮りアニメ)の授業科目が融合している点だ。学生は最初の1年間でデッサンや手描きアニメーションの基礎的な授業を受け、2年目でレイアウトや演出などの上級コースを選択。それと並行してデジタル技術を学んでいく。3年目でグループワークを行い、最終学年では卒業制作とインターンシップを体験する(インターンシップは必修科目)。2011年からは中国の大学と提携し、14週間にわたる交換留学プログラムも存在する。
Honours Bachelor of Game Designの授業風景。はじめにUnityで2Dゲームをつくりながらゲームデザインの基礎を学び、次第に3Dゲームなど複雑な内容にステップアップしていく
最大のポイントは、このカナダで最も有名なアニメ/CG教育を行う名門校が、2012年にゲーム開発者教育をスタートさせたことだ。EAトロントやUBIトロントといった地元企業と連携してカリキュラムを制作。4年制のGDと、上級コースにあたる1年制のGame Level Design(GLD)&Game Development - Advanced Programming(GDAP)を開設した。学生数はGDが100名(男子65名、女子35名)で、そのうち留学生は15名となっている。GLDとGDAPは12名ずつだ。
職業訓練校的なVFSとちがい、シェリダンを志望する学生の大半はゲーム業界を志す一般の高校生だ。入学時にゲーム制作に必要なスキルをもつ学生はほぼ皆無で、ゲームデザイン・アート・プログラミングの各スキルを、4年間かけて教えていく。1〜2年目は全課程を学び、3〜4年目で専門に分かれつつ、グループ制作でゲームをつくり上げるイメージだ。ハイライトは5日間かけて行われるゲームジャム「スプリント・ウィーク」で、優秀作は地元の子ども向けリハビリ施設でプレイされている。
グラフィック系の授業の様子。ゲームデザイン・プログラミング・アートを一通り学んだ後に、自分の専門に進んでいく
課題で制作されたゲームを発表し合い、皆で講評し合う
スタケーターはゲーム開発者教育を開始した理由に「ツールをはじめ、ゲームと3DCGアニメーションで重複分野が多いこと」、「アニメーション学科の学生で技術的な素養があり、ゲームに興味がある学生がゲームデザインについて学びたがる傾向にあったこと」などを理由にあげた。その上でゲーム・映画・Web・アニメーションとコンテンツのトランスメディア化が進む中で、学生により多くの選択肢を与えることを目的に設立されたという。こうした理由から同校のカリキュラムは「(ゲーム)デザイン」に焦点を当てている。
卒業制作ではグループワークでゲームを一本制作する。授業内容自体は日本のゲーム専門学校などと大きくちがわない。ただしマニュアルや教科書、ネット上で検索できるゲーム開発のTIPSといったドキュメントの量が大きく異なる。これらが成果物のクオリティに間接的ながら大きな影響を与えている
学費についても補足された。年間の授業料はGDが約9,000カナダドル(約100万円)で、GLDとGDAPが約1万4,000〜1万6,000カナダドル(約140〜160万円)。留学生はこの約2倍となる。日本の私大理系と同じレベルで、アメリカの大学に比べると割安だ。もちろん、奨学金を活用することもできる。ただし留学生の比率は15%と、それほど高くはない。卒業生の多くはレベルデザイナーやゲームデザイナー、テスター、アーティストなどの職に就き、EAやUBIといった大手企業の採用実績がある。
中身はPCでも、アーケードゲーム型筐体でプレイすると雰囲気がかなり変わる。立ってプレイする、不特定多数のギャラリーが存在するなど、ゲームデザインに与える影響も大きい。これらを実体験で学んでいく
アニメーション学科と異なり、ゲームデザイン学科はまだ、大学ランキングの上位に上がってはいない。しかし、着実に成果を見せ始めている。2014年に上級コースの学生が開発したパズルアドベンチャー『Little Miss Aligend』はCG Student Game of the Year 2015などを受賞した。2016年にはゲームデザイン学科の学生が制作した、マルチ対戦シューティング『ArrowHeads』は複数のアワードを受賞し、E3とPAX EASTで正体出展されるまでにいたっている。
アナログゲームをプレイしながらゲームデザインについて学ぶ。日本の学校でも良く見かける一コマだ
Oculus Riftを使ってのVRゲーム開発実習も行われている
筆者は2007年にも在日カナダ大使館主催のツアーでカナダの主要都市や教育機関を取材した経験がある。しかし、当時はこのように映像系の学校がゲーム開発者教育を行う動きは見られなかった。アメリカの大学でゲーム開発者教育が本格的に始まったのが2000年代前半で、ゲームエンジンやモバイルゲームの普及でゲーム開発が身近になったのが2000年代後半。ゲームジャムなどのゲーム開発イベントが普及したのが2010年代だ。両校におけるゲーム開発者教育のながれも、こうした潮流と無関係ではないだろう。
一方でCGとインタラクティブ技術に関する国際学会SIGGRAPHでも2000年代後半からゲーム産業との結びつきが進展。2009年にはゲーム専門の論文発表の場「GAME PAPER」が設けられ、『ザ・シムズ』で有名なウィル・ライト氏が基調講演をつとめた。その後もゲームはSIGGRAPHで主要ポジションの一角を占めており、VR/ARをはじめとしてゲームとCGの領域融合が進んでいる。北米のゲーム・CG教育もこうした現状をふまえて、ますます接近と融合を深めていくと言えそうだ。