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幼い兄弟が犯した禁忌と行く末を暗示する嵐~映画『鋼の錬金術師』シーンメイキング

幼い兄弟が犯した禁忌と行く末を暗示する嵐~映画『鋼の錬金術師』シーンメイキング

03 コンポジットワーク

エフェクトが出来上がると仮コンポジットしたものがコンポジターに渡され、人物プレートとエフェクトなどの素材を受け取って最終型が組み上げられる。このシーンは撮影時に照明を激しく明滅させていたため、プレートとCGのライティングの整合性を取らなければならない点が大きなポイントだったようだ。それゆえ今回素材を要素別に出力して明るさや色味などを個別に調整するAOVを使って、コンポジット側でリライティングをしてそのフラッシュ感の整合性を取っている。「ストロボ的な点滅をNUKEのカーブツールを使って解析し、エクスプレッションで稲妻と各光源のストロボが点いているかどうかを出力して、RAW LightやReflectionにライティングの強度として足すということをしています」とコンポジットスーパーバイザーを務めた吉川辰平氏。今回ディープ・コンポ ジットはかなり活用しているそうで「今まではキーイングでエッジを詰めた素材を待たないとコンポジットができなかったのですが、それがなくなったのですごく楽になりました。仮のプレートを差し込んだコンポジットに、後から本マスクのプレートを差し替えれば良いので。CGもレンダリングし直さなくて済みます。今回このカットに関してはディープ・コンポジットでないとできなかったと思いますね」とのこと。

待ち時間をゼロにしたディープ・コンポジット

深度情報をもった素材を使って合成を行うディープ・コンポジットに関してはちらほら事例が聞かれるようにはなってきているが、まだまだその取り回しの重さに躊躇している方も多いと思う。ただ、吉川氏いわく「いったんホールドアウトしてしまえば後は問題ないです」とのことで、今回様々な点で活用されている


手順としては撮影プレート【A】をマスキングして【B】NUKE内にカードを作成し【C】、人物プレートをトラッキングしたカメラを用いてプロジェクションマップすることで、深度情報を可視化する【D】。【E】の深度情報を用いてエドのアルファを抜き【F】、ホールドアウトノード【G】でホールドアウトする【H】【I】 。そうして背景【J】に【I】を合成して完成となる【K】。従来の工程ではマスク待ちが発生して作業が止まることもままあったが、この手法では仮の人物プレートで進めていても、後から本マスクで切られた素材と入れ替えるだけでコンポジットが成立するため、待ちの状態に入るということがなかったそうだ

AOVを駆使した複雑な光と影の構築

部屋の中央に描かれた錬成陣は、部屋のサイズそのものがカットによって調整されており、CG側で錬成陣を貼りつけるとサイズがかなり変わってしまうため、コンポジット段階で足されている


合成前のディフューズフィルタ



  • 錬成陣のテクスチャ



  • 合成後。ここにもディープ・コンポジットが活用されている


エドの床への映り込み素材

各要素は方向別、光源別にRGBで色分けされた素材(上の2画像)が出されているため、それとAOVを使ってリライティングを行なっている



  • 調整前



  • 調整後

中央の桶が稲妻で光るのだが、作業当初はどの程度光るのか確定していなかったため、同様の手法で調整された


さらに人物が床に落とす影に関しても、VRayLightに色を付けてレンダリングするとVRayMatteShadowというチャンネルにライトと同色のシャドウが出るので(上画像)、これをシャドウのRGBマスクとして使って調整するのだそうだ


NUKEのノード画面。①は錬成陣の合成、②は映り込み、③-aは人物のライティング、③-bは人物のシャドウの設定部分



  • 月刊CGWORLD + digital video vol.233(2018年1月号)
    第1特集:映画『鋼の錬金術師』
    第2特集:ゲームエンジン向けキャラクター制作

    定価:1,512円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:128
    発売日:2017年12月9日
    ASIN:B0783Z46XK

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