>   >  2Dを超えた"3D視点の制作環境"へ―VR空間でのドローイングの実現を目指すワコムによる「Wacom Creators' Symposium」レポート
2Dを超えた"3D視点の制作環境"へ―VR空間でのドローイングの実現を目指すワコムによる「Wacom Creators' Symposium」レポート

2Dを超えた"3D視点の制作環境"へ―VR空間でのドローイングの実現を目指すワコムによる「Wacom Creators' Symposium」レポート

<4>FINAL FANTASY XV クリエイティブの解放
by Luminous Productions

上野功士氏(株式会社Luminous Productions シニアエンバイロンメントアーティスト)

続いては、3月末に発足したばかりのスクウェア・エニックスグループの新スタジオLuminous Productionsより、上野功士氏が登壇。冒頭ではPSVR対応タイトル『MONSTER OF THE DEEP: FINAL FANTASY XV(以下、MOTD FFXV)』(2017)についての紹介動画が再生された。

『モンスター オブ ザ ディープ: ファイナルファンタジーXV 』ローンチトレーラー

同作は『FINAL FANTASY XV(以下、FFXV)』(2016)本編内にも登場した本格的な釣りのミニゲームをVRコンテンツとしてパワーアップさせたもので、FFXVの世界でお馴染みのキャラクターたちとともに釣りを楽しむ内容になっている。実際にリールを巻く動作をモーションコントローラーによる操作に置き換えたことで、可能な限りリアリスティックな体験を与えられるコンテンツに進化した。上野氏は「VRは体験していただかないと良さがわかってもらえない。『MOTD FFXV』も複数のイベントでたくさんの方に遊んでいただいて、多くのフィードバックを得た」と述べ、その分析結果を次のように分析した。

普段からゲームを遊ぶ人は、ボタン操作などの導入部分の説明は問題なくクリアしたが、その後の釣りパートが始まると途端に苦戦していたという。一方で普段釣りをする人は、導入部ではボタン位置もわからないほどの理解度でも、いざ釣りパートに入るとハイペースに魚を釣り上げていくことが可能だった。このことから、上野氏は「まったく同じゲームをしているのに、その人の過去の体験によってちがいが出る」ということに気付き、VRという表現手法について可能性を見出したという。

『MOTD FFXV』は現実の釣りシミューレーターをねらってつくったわけではなかったものの、一番参考となったのは「本物を体験すること」だと語る上野氏。しかし、本物の体験の熱量をゲームに反映する段階で、既存の2D的な制作手法が熱を冷ましてしまうという問題も指摘された。「VR/AR/MR思考でものづくりを行う上では、制作現場の3D/4D化が絶対に必要。普段からVRに慣れ親しむことで、2D的な発想から脱却ができる」(上野氏)。リアルな熱量を失わずにVR体験に直結させたいと語った。

「VR」は本来ヘッドマウントディスプレイなどハードウェアの話ではなく、仮想空間で人間が過ごすことそのものを指すものの、どうしても現段階ではハードの性能などの話題に帰結しがちだ。「例えば駅で上を見上げたとき、看板がたくさん見えますよね。自分が必要なものだけが情報として見えていて、他は背景になっています。自分の欲しい情報だけが目に見える世界なら、景観も変わってくるはずです」というたとえも交えながら、あるべきところにあるべき情報がある「Just in Time」という概念についても説明された。

VR黎明期は「見ること」が全てだったが、最近は空間アプローチも増えてきているため、この先ツールが発展することによって3D/4D的なアプローチが誕生するのではないかと期待する上野氏だが、「複雑なことを簡単に、楽しく能動的に変える」というゲーム的なスタイルで様々なものの具現化を追求したいと講演を締めくくった。

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<5>登壇者全員によるパネルディスカッション

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