続いて、ベストアメニティスタジアムの測量手順がひとつずつ解説された。まず、基準点の測量には、GPS衛星から送信される電波を利用する測位方式のGNSS測量機を利用。カーナビの超高精度版と考えれば良いだろう。カーナビは数mの精度だが、GNSS測量機は数cmから数mmの精度だという。ただし計測するまでに1箇所に1時間以上置き、調整した上で計測する必要がある。GNSS測量機では水平位置は10cm、高さは20cmの誤差まで許されており、これは今回設定した誤差の許容範囲内に収まる。こうしてスタジアム周辺に8点の基準点が作成された。
基準点を作成したら、次は計測のための標識となる「標定点」を設置する。標定点は、白黒の板を用いたもので位置合わせを行う。「トータルステーション」という測量専用機器でレーザー照準を使い、人が覗き込んで目標の角度と距離を計測する。「実は伊能忠敬も同じことをしていて、1800年当時はレーザーがなかったので、代わりに人の歩幅で距離を測っています」(林氏)。
●2:UAV(Unmanned aerial vehicle:ドローン)を利用した大縮尺の測量
標定点の設置が完了したらいよいよ計測に入る。詳細な計測を実施する前に、ドローン2機種にレーザースキャナを積んで、屋根の上など人が入れない場所を空中から計測。ドローンにもGNSS測量機を搭載し、そのデータも利用して全体的に座標付きのデータを600枚ほど撮影した。データ的にはまだまだ穴が多いが、屋根の上の計測データは何とかモデル作成に使えそうな結果となった。なかにはドローンにレーザースキャナが搭載されている機種もあるが、今回のような大規模なモデルには密度が少なすぎて適さないため利用しなかったとのこと。
●3:地上レーザーを利用した小縮尺の測量
空中計測の後、地上からレーザースキャナによる詳細な計測を行う。この計測はスタジアム全体で428回にも及んだという。レーザースキャナには三角法方式、位相差方式(フェイズ・シフト)など様々な計測方式があるなか、今回はタイム・オブ・フライト方式の機器が採用された。1秒間に多量のレーザーを照射し、レーザーが対象物とセンサの間を往復する時間とレーザーの照射角度から座標を算出するしくみ。
タイム・オブ・フライト方式による計測の模式図
●4:標識点を利用した位置合わせ地上レーザースキャナで観測した点群に対し、標定点座標を用いて位置合わせを行う。既知点である標定点の座標から、スキャナの位置を逆算して点群の座標をあてはめていく。作業量としては1日に50スキャン程度。それらを全部合成してできたものが300億点のデータとなる。取得した点群データは、それぞれの高さ情報も保持しているため高さごとに色分けすることも可能だ。
標定点座標を用いた位置合わせ
これらの作業を経て、基準点の誤差が最大7mm程度、全体のデータ取得精度が約5cm以内と、当初の目標の誤差範囲内に収まる高精度の点群データを得ることができた。一度点群を取得してしまえば、何度も現地に赴く必要がなく、スムーズに作業を進めることが可能だ。
その後各種資料から図面を起こし、スタジアムのソリッドモデルを作成。テクスチャは現地で撮影した写真、レーザースキャナの360度画像やドローンの計測データから補完しつつ作成された。
完成したソリッドモデル
そうして完成したソリッドモデルを基に、リニューアル後の新しいカラーの動画用モデルに調整。スタジアム周辺の街並みについても、空撮データから3Dモデルを起こしている。「3Dで確認することにより、塗り直し後の全体のイメージを把握することができ、詳細なデザインの調整なども容易に行えました。異なる技術、異なる業種での知見の組み合わせで、様々な問題を解決することができたと思います。全体のデータがしっかりしていたので、映像のクオリティの追求に時間を使うことができました」と、國府氏は今回の取り組みを総括した。
完成した動画用モデル