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映画『海獣の子供』公開記念! STUDIO4℃のCGスタッフが語る制作の舞台裏:第3回~宇宙を始めとする神秘的な表現篇~

映画『海獣の子供』公開記念! STUDIO4℃のCGスタッフが語る制作の舞台裏:第3回~宇宙を始めとする神秘的な表現篇~

STUDIO4℃の真骨頂~精鋭スタッフたちの祭り~

秋本:『海獣の子供』は工程ごとに、様々な工夫をしていますよね。例えば、タンクローリーのCGひとつをとっても、プリプロの段階とプロダクションの段階で様々な工夫をしてもらいました。

海老原:モデリングの段階からわざと3Dモデルのシルエットを崩して、漫画的なラインになるようにしています。タンクローリーの3Dモデルをつくったときに、そのまま綺麗にモデリングした状態でラインを出したら、漫画みたいな見え方にならなかったんですよ。そこでわざと歪ませてラインを出しました。

中島:そうやってつくられた3Dモデルを、カット作業時にさらにデフォーム系のエフェクトで歪みやわずかなブレを加えて、極力CGの硬さが出ないように調整を繰り返しました。

▲歪みあり(左)と歪みなし(右)の比較。わずかなちがいに匠のこだわりが光る

平野:その処理は探査機でもやっていましたよね。冒頭の一瞬だけ見える、1カットしか出てこないものでしたが。

海老原:やりましたね!

秋本:そこで得た見地を海洋生物でも活かしてもらって、手描きの海洋生物とCGの海洋生物を合わせても違和感のない画にしてもらいました。それから、撮影処理でもCGが用いられています。例えば、洋上で風を感じてもらおうと、ほとんどわからないような微妙に薄い処理ですが、たまにふっとパーティクルみたいな、通り過ぎる凪を入れました。(安海)琉花ちゃんが空くんと初めて会う海辺の夕日も、風に3%くらいのオーバーレイ処理のエフェクトを入れています。視認はできないけど、肌触りとして感じてもらえたら良いな、と。

平原:これ見よがしにはならないように気をつけつつ、要所要所で撮影処理を入れていますね。部屋の中のホコリなんかもそうです。

秋本:決して汚くは見えないように、効果的に見えるように意識しました。多くの魚が打ち上げられるカットの雨は、Alex(BOIL)さんが撮ってくれたんですが、コンクリートに落ちたしずくが垂れるところまはAEでやっていましたよね?

BOIL:やりました!

平原:あれはとても良かったです。

秋本:あの雨の処理はすごい。こんなことができるかと。

CGIデザイナー・中島隆紀氏(以下、中島):焚き火のシーンもすごく綺麗でしたよね。近年稀に見る火!

稲葉:火のCG素材は使わずに、作画のみで描いているんですよ。

秋本:ブラーとか、伸ばした具合が抜群ですね。

稲葉:色味も絶妙です。

平原:煙が黒くなかったのも良かった。

稲葉:火の粉も大変でした......!

秋本:本作で最初に打ち当たったのが、入射光でしたね。画面の中に光の筋が入ってくるあの手法は、日本の作画アニメ独特です。現実世界では入らない光だけど、昔から続くアニメの伝統的な撮影技法と言いますか。渡辺監督の中でそのイメージが強くあって、光の素材からつくりました。

稲葉:入射光は難易度が高くて大変でしたね......。

中島:同じように処理したつもりでも、カットによって最適解が異なるので「このカットはここだけ良くない とリテイクがあり......今ふり返っても難しいと感じます。

秋本:背景とのバランスもありますし、正直、入射光については、まだ完全にはマスターできていません。制作の最後まで、すぐには答えにたどり着きませんでした。

平原:光、風、気流、波とか、様々な要素が絡むんです。

稲葉:作画の波も、クジラの波も素晴らしいですよ。

平野:本当に素晴らしいですね! 自分が担当したヴィーナス(シロナガスクジラ)にまとわりつく水の作画が上がってきたときにも、カッコ良い! 感動しました。完全に作画にもってかれたなと(笑)。悔しいけど、圧倒されました。

秋本:波を描ける嶋田真恵さんというアニメーターの方が描いてくださったんです。

平野:海獣チーム内では「水の女王」と呼ばれていました。おかげで、とんでもない画になりました。

BOIL:本作を通して、やっぱり作画は素晴らしいと感じました。CGは寒い感じがするけど、手描きは温かい感じがします。

平野:全く音色が同じでも、自動演奏のピアノより、ピアニストが弾いたピアノに感動するような感じですかね......。

中島:CGは自動演奏みたいなイメージで、大変じゃないイメージというか、「CGなんでしょ?」と思われちゃう。

平野:CGも大変なんですけどね(笑)。けど僕自身もハリウッドのCG大作を見ても感動があまりなくなってきて、見慣れた感もありますね。作画はいつまでもワクワクするものがありませんか?

秋本:映画『風の谷のナウシカ』(1984)は今観てもすごいと思います。

平野:まだまだCGは作画に勝てないんだな、というのをどうにかしたいですね。コマ数で考えても、作画の3コマは違和感なく滑らかに動きますが、CGで3コマだと滑らかに見えないんですよ。

平原:CGはテクスチャの情報量が多いので、ただコマ数を落としても、コマが落ちてカクカクしただけになりがちですね。

平野:作画が2コマでも3コマでも滑らかに見えるのは、線だからだと思うんです。CGは面だから、目で追える情報量が多すぎて、コマを抜くとカクカクして見えちゃう。そこで8Kでつくったテクスチャも、ほとんどのカットで情報量を減らしました。......ほんとCGって何なんでしょうね(苦笑)。

稲葉:......(苦笑)。

平野:僕もひとりのCGIとして、今まではCG「で」頑張らなきゃって想いがありましたけど、『海獣の子供』では、そういった悩みは取っ払って手描きとCGの「両方を使って」何か見たことのない面白い表現をしたいという想いに変わりました。この作品で、アニメの高みのひとつに到達したと感じています。

稲葉:ぼくはAfter Effectsで表現できることってまだまだあったんだなと思いました。要は使い方です。AEのなせる限界を見てみたくなりました。そこまでいじり倒せたら......。

中島:もっとポジティブなこと言ってくださいよ(笑)。

稲葉:ポジティブですよ(笑)。

平原:私はCGで主張しすぎず、けれども渡辺監督の原作愛を引き出すための忠実な道具に徹したつもりです。

秋本:スタッフの皆がすごく高いモチベーションでやってくれたおかげで、これだけの作品ができたのだと強く感じますね。

平原:原作愛ですね。

秋本:昨日(取材前日)は完成の打ち上げをしていたけど、この作品に関われてラッキーだったと言ってくれる人ばかりでした。仕事は仕事と割り切る人もいるし、それは悪いことではないのですけど、お願いした以上に「こうしたら良い」と工夫したものを上げてくれる方が多かったです。「原作者の五十嵐(大介)さんだったらこうなんじゃないか」と、それぞれが提案してくれる精鋭のスタッフ陣でした!

中島:アニメになって初めて気付く原作の良さもあります。映像で観ると改めてわかる町の景色の良さとかがいっぱいあって、それを見つける楽しさもありますね。

平原:アニメとして漫画から出ることで、作品の良さに気付く感じがしました。

海老原:この迫力は、ぜひ劇場のスクリーンで観てほしいですね。

平野:僕は同士を求むと言いたいです! 作画の方はファンによるMADがつくられたり、原画さんの名前が認知されたりしていて、「かっけー」みたいになりますけど、CGのMADはまだあまり見たことがありません。アニメのスタッフロールで見ても、CGIって一般の人には何をしているかわからないんですよね。CGのアニメーターたちの個性が出てきて「○○さんのCGだ!」って言ってもらえるようになったら面白いです。そういうところで競い合いたいな、と。STUDIO4℃は作画の会社なので、なかなかCGのキャラクターアニメーションまでできる作品は少ないですが、もっとアニメーションをやりたいと言う人と一緒に仕事がしたいですね。『海獣の子供』を観て「自分もやりたい! と思ってくれたら嬉しいです。

秋本:今回のインタビューを通して、皆が「このカットはこんなことを考えてつくっているんだという話を聞けて面白かったです。一方で、制作期間中はひとりひとりそこまで詳しく見ることができなかったと反省もしました。原作のもつ魅力を、皆がわかっていたこともあって、どのスタッフもハードルの高さを感じていたと思います。それでも、1カットずつ根を詰めて、最後までブラッシュアップを続けたからこそ、本作のクオリティに仕上がったのです。そんな『海獣の子供』を、ぜひ楽しんでいただきたいです。

取材後期

全3回にわたってお届けした座談会も今回で最後だ。STUDIO4℃らしい、クオリティを一切妥協しない姿勢や先鋭的な取り組みの数々をお伝えしてきたが、デザイナー陣の作品愛を少しでも感じていただけただろうか。まちがいなく、日本アニメーション史に名を刻むことになる名作『海獣の子供』。しかし、大切なことは言葉にならない。どんなに言葉を重ねても、本作の全てを表すのには適していないだろう。どうか、あなた自身の目で、あなた自身の心で、あなた自身の言葉で、本作を感じてもらいたい。

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