ゆとりある制作スタイルが
ディテールへのこだわりを実現
第1部と第2部でスタッフも演出も変える
原作のツボをきちんと押さえた"アニメの王道"であることが求められた本作。神風動画では、原作の理解を深めるために、原作を知らないスタッフにコミックスを購入して読んでもらい、制作スタッフを交代することで第1部と第2部の世界観のちがいを表現した。
「当時は『ジョジョ』を読んだことのないスタッフもいたので、会社で第1部のコミックスを購入して読んでもらったところ、自分で全巻揃えてしまったスタッフもいました。それだけ魅力のある作品なんでしょうね」と水崎氏。第1部では、原作のどのシーンを抜き出すか、原作のコミックスに付箋を貼って検討が重ねられたという
<左>第1部、<右>第2部
スタッフの交代や制作スタイルを変えることで、第1部と第2部の世界観のちがいが表現された。
第1部
第1部では水崎氏が OP ディレクターを務め、吉邉尚希氏が演出を、永田 奏氏が 3DCG アニメーションを、鈴木理恵氏がデザインワークを担当。TV アニメ『ジョジョ』のはじまりを世間に知らしめるため、インパクトを与えることを目標とした、熱くて自由度の高い画づくりがされた。「ジョジョの血縁」、「DNA」をテーマに、ジョースター家の螺旋階段を舞台としてカメラワークなどに「回転の演出」が盛り込まれ、ジョナサン・ジョースターとディオ・ブランドーという因縁の2人がお互いを呼び合う場面を中心として、嫉妬と確執が渦巻くドロドロした世界観を感じさせる構成になっている。ところが、回転の演出を採り入れたことであらゆるものを 3DCG 化せねばならず、膨大な作業量になってしまい、制作現場でもドロドロした雰囲気が出ていたそうだ。しかし「その雰囲気が作品に吸収され、結果として良い感じにダークな映像に仕上がったと思います」と水崎氏は語った。
第1部の OP では、「ジョジョの血縁」や「DNA」の二重螺旋とジョースター家の螺旋階段を結び付け、回転の演出が多く盛り込まれた。キャラクターのモデリングは中村麻衣氏に依頼。美術設定や壁画、テクスチャなどは鈴木氏が担当している。外注も含め、全ての作業を日本国内で完結することにもこだわったそうだ
螺旋階段の中央に配置された慈愛の女神像。舞台が回転する際の流線エフェクトは作画で描くとなると至難の業だが、3DCG を用いることで奥行きとスピード感のあるエフェクトに仕上がった
第2部
第2部では時代背景が変わり、主人公も世代交代して軽快な世界観へと一転する。そこで、主人公に合わせて制作チームも世代交代させることになった。OP ディレクターと作画を吉邉氏が、3DCG ディレクターを永田氏が、デザインワークを中野友愛氏がそれぞれ担当。原作の表現の広がりと柔軟さを見せることを目標に、配色をガラリと変え、モーショングラフィックスを多用してオシャレな感じを押し出している。また第1部の膨大な作業量の反省からワークフローを見直し、「気持ちのゆとりが画面に反映される」という信念の下、原作の制作スタイルに合わせて徹夜作業や休日出勤を禁止し、定時に来て定時に帰るという、日本の映像業界ではなかなかできない「通常勤務時間内での健全な制作」をやってのけた。気持ちにゆとりが生まれたことによって、最後の一筆一色のディテールにまでこだわりぬくことができたそうだ。
スタッフの世代交代が図られた第2部のディレクターを務めた吉邉氏<左>とデザインワークを担当した中野氏<右>。神風動画の作品で、水崎氏の手が完全に離れたのはこの『ジョジョ』OP 第2部が初めてだという
第2部ではグラフィックデザインを前面に押し出した、原作が描かれていた時代のアニメコンテンツを彷彿とさせるようなシルエットの表現が多用された。シルエットだけで、どのキャラクターがどんな動きをしているのか表すのは難しかったという。また、ストーリーの舞台がアメリカからイタリアやメキシコなどに変わり、配色でもカラフルでオシャレな感じに仕上げられた
スタッフ間で「永田祭り」と呼ばれている第2部の 3DCG による演武。「動きも表情も細部まで作り込んだことで、1枚として同じ絵はなく、キャラクターが生き生きと動いています」と永田氏。コマ送りで見ても1枚1枚が単体の絵として成立する、神風動画史上最高レベルのクオリティを成し遂げた
同じく第2部より、永田祭りに対して吉邉氏が作画での表現を追求した「吉邉祭り」。シルエットによるスタイリッシュな主人公の演出とは対照的に、敵のキャラクターは荒々しい作画で描かれた。鉛筆で描いた原画をスキャンし①、アナログ感のある色味を出すための水彩風のマスク②③や目のマスク④、エフェクトなどの素材⑤を作り、これらを重ねて撮影している⑥。さらにブラーなどを追加して完成
©荒木飛呂彦/集英社・ジョジョの奇妙な冒険製作委員会