カメラアングルとその裏側
動画コンテを基に完成イメージを目指す
本作は紙のコンテは使わずに、AE を用いて感覚的に作られた動画コンテを基に制作された。ミュージックビデオの制作経験を多く持つ神風動画だけあり、楽曲に合わせた映像制作はお手のもの。制作開始時点ではまだ仮歌であったものの、曲に合わせて動画コンテを作成することで、必要なカットをあらかじめ洗い出すことができたという。また演出面では、『ジョジョ』のストーリーをテーマに書かれた歌詞が参考にされた。
原作の魅力をいかにして映像に落とし込み、視聴者に伝えるか......求める表現を実現するため、様々な工夫が凝らされた。「荒木先生は、普段は緻密な絵を描いているのに、大事なシーンでものすごい顔になったりするんです。そういった原作の味を 3DCG でも要所要所に採り入れました」(永田氏)。画面で見たときにどのように見えるのか、完成映像を最優先に考え、キャラクターの頭をうしろに伸ばして変形させることで悲壮感を醸し出したり、膨張や伸縮を伴う細やかな演技でキャラクターの感情を伝えたり、画面から見えない部分では様々な試みがなされている。ここでは3つのカットを例に紹介していこう。
第1部では、「ズキュゥゥゥン」という有名な擬音を採り入れようと、ディオとエリナ・ペンドルトンのキスシーンが制作された。このカットのためだけにエリナを 3DCG でモデリングしたというスタッフの情熱には驚かされる。望まぬ口づけに対するエリナの悲壮感を、後方にしぼむ背景と、頭部が後ろにすっと引かれていくエリナで演出。このカメラのドリーのような効果は、エリナの頭部を大きく変形させることで表現された
「ズキュゥゥゥン」の擬音は、単に文字を画面に貼り付けるのではなく、1文字ずつ 3D 空間内に配置してバランスやタイミングを整えている
第2部終盤に登場する、思いを堪えながら耐えるように叫ぶジョセフ・ジョースターのカット。カメラアングル①②からは気付かないが、二の腕や肩、上半身を膨らませてジョセフの忍苦を表現している④⑤。さらに、叫びに合わせて今度は二の腕のボリュームを戻して顎と首を伸ばすことで⑥、視聴者にジョセフの感情をより強く印象付けている③
続いても第2部より、シーザー・アントニオ・ツェペリとジョセフの決めポーズ。荒木氏が描く原作のポーズは物理的に再現できないこともあるが、そのポージングこそが『ジョジョ』の魅力のひとつでもある。画面上から迫力が伝わることを重視し<上>、画面に映り込まない部分の造形は気にせず大胆に変形させて<下左><下右>独特のポーズがとられた。角度を変えて見るとシーザーの腕が激しく変形していることがわかる
©荒木飛呂彦/集英社・ジョジョの奇妙な冒険製作委員会