>   >  『ジュラシック・ワールド』におけるImage Engineの画づくり〜清水雄太(ライティング・スーパーバイザー)〜
『ジュラシック・ワールド』におけるImage Engineの画づくり〜清水雄太(ライティング・スーパーバイザー)〜

『ジュラシック・ワールド』におけるImage Engineの画づくり〜清水雄太(ライティング・スーパーバイザー)〜

<2>アニメーションはイチから手付け

SIGGRAPH 2015に参加していた方ならご存知かもしれないが、Electronic Theaterにおける『ジュラシック・ワールド』のVFXメイキング上映や、先述したILMのメイキング講演では、本作の恐竜アニメーションがモーションキャプチャをベースにしているという印象を受けたことだろう。しかし、その認識は誤りのようだ。

「他のスタジオがどうしていたのかは知りませんが、Image Engineの担当分については、恐竜のアニメーションは全て手付けのはず。確かに、ILMからはモーションキャプチャデータが提供されていたので試しに流し込んではみるのですが、生身の人間と恐竜ではプロポーションが大きく異なるため、迫力が足りなかったり、ポージングが不自然になってしまいます。恐らく、うちのアニメーションSVに聞いたら完成形では(モーキャプデータは)1ショットも用いていないと答えると思います」。
あくまでも推測だが、ILMでは自前でキャプチャスタジオを擁していることから、人間以外のアニメーションについてもまずはモーションキャプチャ収録を行うというワークフローが確立されているのかもしれない。

映画『ジュラシック・ワールド』のVFX:清水雄太(ライティングSV、Image Engine)

Universal Pictures and Amblin Entertainment

また、プロダクション・マネジメントについてだが、Image EngineではSHOTGUNを独自にカスタマイズした上で活用しているという。
Jabuka(クロアチア語で林檎)という、インハウスのアセット管理ツールと組み合わせて利用しています。例えば、SVがSHOTGUN上でアニメーションのチェックをしていて、あるショットをアプルーブ(承認)したとします。すると、『このショットのアニメーションは承認された』という情報が、瞬時に全部門で共有されるといった感じです。また、SHOTGUNの機能ではタグを重宝しています。よくあるのが、本編とトレイラーでルックを作り替えなければいけないということなのですが、そうしたときも該当するショットに『使用するマテリアルは○○、メモリやスレッド数は××」といった情報をタグ付けし、本編とトレイラーの各レンダリング設定をPythonで書いて半自動化させます。これによりアーティストはレンダリング設定をイチから手動で切り替えるといった手間が軽減されます。同様にバージョン管理(トラックダウン)の際もタグが便利ですね」。

映画『ジュラシック・ワールド』のVFX:清水雄太(ライティングSV、Image Engine)

Universal Pictures and Amblin Entertainment

ちなみにCaribouは、『チャッピー』プロジェクトを進めていた頃から実用化の目処が着いていたそうだが、同作はメカ表現が主体であり、恐竜のVFXに対して比較的シンプルなアプローチで制作できたことから、確実性や堅牢性を重視した結果、既存のパイプラインを採用したという。
「CGスーパーバイザーとひとくちに言っても、エンジニア上がりかアーティスト上がりかで、新しい技術や技法に対するスタンスは変わってくるのでパイプラインは十人十色ですね」。

CaribouやJabukaに加え、Grizzly(グリズリー)という、HairならびにFurを生成するインハウスツールも新たに導入されたとのこと。これらのインハウスツールは、Image Engineがオープンソースで開発しているノードベースのアプリケーション開発ツール「Gaffer」に基づいているため、ノウハウを効率的に蓄積できているようだ。
近年、ILM案件をはじめ大規模プロジェクトを立て続けに手がけているわりには比較的小規模な組織で成り立っている背景には、こうした優れた研究開発力も支えになっているにちがいない。実際に、Caribouを開発するきっかけは、同様の機能を有するKATANAでは、Image Engineの組織規模には不釣り合いだったことだという。

「個人的な印象ですが、Image Engineは上手く事業を営んでいるように感じます。R&Dについてもカナダ連邦やブリティッシュコロンビア州政府の助成制度を積極的に利用しています(Gafferの場合は、オープンソースで開発することが条件に課せられているとのこと)。R&Dには3カ年のマイルストーンが掲げられ、その下に具体的なアクションプランが設けられています」。

『ジュラシック・ワールド』 フューチャレット "NewVision"

優れたR&D力を武器に、着実に発展中するImage Engine。新たなテクノロジーという意味では、昨今リアルタイムCGへの関心が高まっているが、そちらへのスタンスを聞いてみた。
「Unreal Engineなどのデモ動画がYouTubeにアップされる度に見てますよ。同僚たちと『リアルタイムでこのクオリティが表現できるとは驚きだね!』と盛り上がったり。ですが、映画の場合は必ずしも物理的に正しい表現が正解とは限りません。事例が出てくれば状況は変わってくるはずですが、『ジュラシック・ワールド』ようなアートディレクションを、リアルタイムCGで行うのはまだ難しいと思います。もちろん、ひとりのアーティストとしてはリアルタイムに処理できることは大歓迎です(笑)」。

映画『ジュラシック・ワールド』のVFX:清水雄太(ライティングSV、Image Engine)

Universal Pictures and Amblin Entertainment

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Profileプロフィール

清水雄太/Yuta Shimizu

清水雄太/Yuta Shimizu

1982年、滋賀県生まれ。2004年に京都産業大学 経営学部経営学科在学中に、デジタルハリウッド 京都校VFXクリエイターコースへダブルスクールで通学。両校卒業後は、カナダのVancouver Film Schoolへ留学し、VFX & Animationを専攻。同校卒業後は、ロンドンのFinishや、ドイツのBlack Mountain VFX Studios等でゼネラリストとしてCMやTV作品のVFXを手がける。 2010年からImage Engineに移籍。ライティング・アーティストとして、『遊星からの物体X ファーストコンタクト』、『トワイライト・サーガ/ブレイキング・ドーン Part1』、『インモータルズ -神々の戦い』、『バトルシップ』、『ミュータント・タートルズ』などに参加。『ジュラシック・ワールド』では、ライティング・スーパーバイザーとしてプロジェクトを牽引するなど、Image Engineの中核スタッフとして活躍中。

個人ブログ「Hat and Puddle」

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