<3>写実性と映画的な画づくり
続いては、インタビューの翌日にオートデスクによる"Blockbuster Sessions "として催された、清水氏の講演『Image Engine present : Taming a gigantic pipeline for Jurassic World』について紹介したい。
講演はまずImage Engineの会社紹介からスタート。先述したとおり、現在は230名規模でクリーチャーとロボット(メカ)表現に定評があるとのこと。環境としては、メインツールは、Maya、Houdini、NUKEで、レンダラは3Delightを基本的に用いているという。ハイエンドなVFXを制作するためレンダーファームは約13,000コア規模だというから驚かされる(6コアあたり2,100フレームを描画することが前提とのこと)。
繰り返しになるが、『ジュラシック・ワールド』プロジェクトはILMとの共同制作であり、Image Engineは280ショットを担当。主となるヴェロキラプトルのVFXは、クライマックスの格闘シーン以外は全般的に手がけており200ショットに達したとのこと。また、制作期間は10ヶ月で、スタッフ数は最大で120名規模に達したが、基本的にはアニメーター20名、クリーチャーFX(恐竜の筋肉表現など)アーティスト6名、ライティングアーティスト9名という体制とのこと。また本プロジェクトでは、社内のレンダーファームのうち約5,000コアが割り当てられ、6コアあたり850フレームを描画する換算だったそうだ。
Maya at SIGGRAPH 2015: Catching up with Image Engine
パイプラインについて。本プロジェクトでは「Bundle」という概念に基づいたワークフローが採られた。これはその名のとおり、各工程や作業内容ごとに必要となるアセットをバンドル(パッケージ化)するもので、例えばマッチムーブ用のバンドル(Matchmove Bundle)は、カメラ情報とセット内のジオメトリ情報(ショットごとに複数種類)が内包される。このMatchmove Bundleを用いるアニメーション用のバンドル(Anim Bundle)の場合は、Matchmove Bundleとアニメーションのジオメトリ情報を内包。そしてライティング用のバンドル(Lighting Bundle)には、マッチムーブとアニメーションのBundleに加えて、レイアウト、クリーチャーFX、そしてエフェクトのBundleが内包されるといった具合だ。
これらのBundleなどのアセットをSHOTGUNとインハウスツールJabukaを組み合わせて管理することで、日々のデイリーチェック用のレンダリングも自動的に実行できるワークフローを構築。このパイプラインが、清水氏の言葉を借りれば「比較的上手く機能していた」ことで、『ジュラシック・ワールド』の魅力的なVFXが誕生した。
Universal Pictures and Amblin Entertainment
ヴェロキラプトルのアセットについて。1体あたり30万フェースで、ディスプレイスメント処理後は480万フェースに達したとのこと。さらにUDIMは50、テクスチャも900枚(データとしては約30GB)、その上にベクターディスプレイスメントマップにテッセレーションを2回加えた上で適用したというから、さすがはハリウッド映画のVFXと言ったところか。講演では、ヴェロキラプトル(リーダー格のブルー)のチェック用画像が披露されたが、非常に高精細であった。
ちなみにアセット(モデル)の数としては、ヴェロキラプトルやアパトサウルスなどの恐竜に加え、背景セット、ジャングル(植生)、デジタルダブル、エフェクト用のエレメントなど100点を制作したそうだ。
川上から川下へと、各工程ごとにメインツールと使用した機能が順に紹介されていったが、市販プラグインは用いずに必要に応じてスクリプトやカスタムツールを作成するという方針が徹底されているように感じた(優れたR&Dの裏付けと言える)。
Universal Pictures and Amblin Entertainment
制作時のエピソードもいくつか披露された。印象的だったのは次の2つ。
序盤に登場するガリミムスの群れがツアーバスの脇を走り抜けていくカット。予告編にも登場する本カットは、シリーズ第1作目の同様のシーンへのオマージュ(のはず)である。こうした群衆表現も全て手付け(キーフレーム)で作成されているそうだが、当初は8体というオーダーだったが、チェックを重ねるにつれ頭数が増えていき、最終的に60体の動きを全て手付けて仕上げたそうだ。清水氏によると、終盤は担当アニメーターもさすがに辛そうだったとのこと。
もうひとつは、上に場面写真を載せたバイクに乗るオーウェンたちとヴェロキラプトル4頭が夜のジャングルを走り抜けていくシーンのライティングについて。
清水氏が語ったように、本プロジェクトでは物理的に正しいライティングは第一段階に過ぎず、そこから映画的なダイナミックなビジュアルに仕上げるための創意工夫が重ねられている。このナイトシーンも同様で、第一段階のルックでは、ヴェロキラプトルたちが完全に暗闇に溶け込んでしまったため、CGのスポットライトなどを適宜加えながら表情や筋肉の動きがしっかりと見えるように、なおかつ全体として自然な見た目に仕上がるように調整された。
また、下に載せた撮影風景の動画と本編を比較するとよくわかるが、遠景以外のジャングルの草木はHoudiniによるエフェクトワークによるものであり、それらに応じた落ち影(講演では"GOBO"(スポットライトに装着する演出照明用のガラス板を意味する)と表していた)もコンポジットワークで丁寧に施されたそうだ。
「本プロジェクトでは、レンダリングの99%を3Delightで行いました。残り1%というのは1ショットだけなのですが、担当していたFXアーティストの希望でHoudiniのMantraでレンダリングを行いました」(※講演における清水氏のコメントを意訳)。
Chris Pratt's Jurassic World Journals: Motorcycle (HD)
最後に今後の展望を語ってもらった。
「『ジュラシック・ワールド』は150億円の制作費で、世界興収16億ドル以上という歴代興収第3位(※ちなみに第1位は『アバター』(2009)の約27.8億ドル、第2位は『タイタニック』(1997)の約21.8億ドル)もの大ヒットを成し遂げました。正直、これほどヒットするとは思いませんでした(笑)。最近はビッグバジェットで製作できるのは続編や前日譚に限られているとも言われますし、映画産業の未来は誰にもわかりません。ですが、当面は映画VFX制作の需要がありますし、バンクーバーでは人手不足が続いています。ありがたいことに、Image Engineにはとても良い職場環境を提供してもらえているので、それに甘えることなく腕を磨いていきたいと思います」。
JURASSIC WORLD BREAKDOWN REEL from Image Engine 本メイキング動画は、清水氏の講演『Image Engine present : Taming a gigantic pipeline for Jurassic World』でも披露されていた
北米のVFX業界では「アーティストは電球だ(=切れたら取り替えるだけ)」というブラックジョークがあるそうだ。この言葉が意味することは、高度なパイプラインが確立されていることの裏返しとも言えるが、だからこそアーティスト個人としてのスキルアップに対する努力も欠かせないのだと清水氏は語る。
ゼネラリストとしてキャリアをスタートさせたことに加え、生来の気質からプロデューサー業やコンテンツビジネス全般に対しても興味があるという清水氏がどのようなキャリアを重ねていくのか興味はつきない。
TEXT_沼倉有人(CGWORLD) / TEXT_Arihito Numakura(CGWORLD)
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映画『ジュラシック・ワールド』
大ヒット上映中! 3D/2D/IMAX 3D
監督・共同脚本:コリン・トレボロウ
製作総指揮:スティーブン・スピルバーグ、トーマス・タル
製作:Amblin Entertainment、Legendary Pictures
配給:東宝東和
www.jurassicworld.jp