>   >  スマホ"インディーズ"にも波及しはじめた3Dビジュアル  Vol.2 中高生の心を捉えた『おじぽっくる』シリーズ 450万ダウンロード超えの3Dカジュアルゲームが産まれた背景
スマホ"インディーズ"にも波及しはじめた3Dビジュアル  Vol.2<br> 中高生の心を捉えた『おじぽっくる』シリーズ<br> 450万ダウンロード超えの3Dカジュアルゲームが産まれた背景

スマホ"インディーズ"にも波及しはじめた3Dビジュアル  Vol.2
中高生の心を捉えた『おじぽっくる』シリーズ
450万ダウンロード超えの3Dカジュアルゲームが産まれた背景

スタイリッシュなアプリからガラリ、コミカルなキャラクターものへ

「正直なところ、無料アプリだとApp Storeで一位になってもこんなものなの? っていうくらいお金については厳しくって......。もちろん、いま思えばいろいろとマネタイズの手法なんかができてなかったこともあるんですが。一位でこれならこの先どうしたらいいんだ?って当時は思いましたね(笑)」。

シンプルなしくみで、スタイリッシュなデザインで、キッチリつくられた脱出ゲーム。固定ファンがいるためランキング入りしやすくダウンロードも伸びやすいが、収益性が厳しい。それを4作品続けてきた貝森氏は、そこからはもう学ぶべきことは学んだ、と判断する。そして反動としてもっと"ユルいもの"、"キャラもの"が作りたい、そしてそれを横展開したい、という思いで開発されたのが、前述の大ヒットアプリ、『みつけて! おじぽっくる』になる。

「スタイリッシュっぽいものを立て続けに作ってきた人が、なんでいきなりおっさんだったの? とは良く聞かれます(笑)。一応考え方としては、誰でも知っていそうなキャラだけど、既に商業的な固有のキャラが確立されていないっていう、なんかそういうものは無いだろうか、というアプローチなんです。キャラクターものとして横展開したい、というのも最初からあったんですよね。それで一人で悶々と考えていて息が詰まるし、何気なく妻に聞いたら、ポンと"ちっこいおっさんは?"って出てきて。確かに! 引きがあるし、それらしい有名キャラもいない! と」。

▲『みつけて! おじぽっくる』のキャラクターたち。このデザインと、コレクション性のあるバリエーションの数々が、ゆるくて、よくわからなくて、カワイイ、と主に若い女性層に人気を集めた。ちなみに効率性も考えて、モデルは1パターンのみで、バリエーションはテクスチャだけで増やしていったとのこと

しかしキャラクターもののゲームを作るとなると、これまでに貝森氏が作ってきた作品とは異なり、プロダクトデザインの作法はもうそのままには通用しなくなる。ゲームの企画や作り方もそうだし、ツールからまるで変わってくる。そこまでのメインツールのRhinocerosでは、アニメーションまで想定したキャラクターオブジェクトを制作するにはあきらかに不向きと言わざるを得ない。貝森氏は、そのタイミングでCGソフトをNURBSベースのものからSculptris、Blenderといった無償系のポリゴン系CGツールに移行しつつ、アプリの開発環境もまたMacのXcodeからUnityへと移していく。

「一つの光明が、Unityでした。今までは、プログラムコード見ながら想像しつつ動かしていたものが、ビジュアルで見ながらできる。実際、Unityを導入してみてその日じゅうにキャラクターが動かせたんですよね。これなら作れる! と思いました」

もちろんUnity以前に、NURBSモデリングしか行ったことがない貝森氏がBlenderのポリゴンモデリングに慣れるまでには、それなりの苦労もあったという。たとえばポリゴン分割をしたいだけでもその機能の名前がわからない、ゆえに検索の仕方もわからない、面を滑らかにする機能はどう調べるのか......等々。最初は1ポイント1ポイント打って繋げていくしかないのかと、やり続けていたりもしたそうだ。

「結局、やりたいことが書かれている本を見つけて買って、それに習ってやっていく方向で習得していきました。そしてこれが大事で、"それ以外"のことはやらないことにしたんです(笑)」

曰く、CGツールそのものを覚えようとしないことがポイントだった、と貝森氏。特に統合型CGツールであるBlenderはその汎用性の高さゆえ、ゲーム用モデルやアニメーションの制作だけに使うなら、触らなくて良い機能も数多くある。それらすべてを解明していく必要はなく、要は"やりたいものがつくれればOK"。やりたいことベースの考え方で接していったほうが、結局のところ使えるようになるということだ。

▲Sculptlisでつくられた素体
<画像はSculptrisで作られたおじぽっくるをBlenderにて表示させたスクリーンショット>


▲メインのCGソフトとしては無償で使えるBlenderが選ばれた
<画像はBlender上で展開されたおじぽっくるのモデルとUV展開されたテクスチャのパターンのスクリーンショット>



▲「すぐに動きを視認できるUnityは、元デザイナーにとってはまさに"魔法の杖"」と貝森氏
<画像はBlender上で設定されたリグ構造と、Unityでアニメーション設定を行っているところのスクリーンショット>

『おじぽっくる』の開発の流れとしては、キャラものなので当然キャラクターありき。まず作って動かしてみて、面白いと思えたところでこれを活かしてどういう仕組みにすれば楽しく、継続して遊んでもらえるものになるかを考えたという。結果、時間経過ごとに出てくるさまざまなおじぽっくるたちを見つけて収集する、というゲームシステムに落ち着いた。そうして完成した『おじぽっくる』だが、リリースのタイミングが学生の夏休み中だったということもあり、しばらくは伸び悩みが続いたという。しかし、休み明けになると学校等での口コミで広まるのか、突然爆発的にダウンロードされるに至り、SNS等でも目に見えて普通のユーザーたちの話題にのぼるコンテンツになっていった。

「この流れもおもしろかったですね。以前作っていた脱出ゲームなら、ジャンル自体が人気なのでリリースしたらすぐにほぼ間違いなくランキングに入っていた。クリアしたらすぐ辞められちゃうんですけどね(笑)。その点、このおじぽっくるはキャラクターもののいわゆる放置ゲームというジャンルで、これは逆で見つけてもらえたらそのまま長く遊んでもらえるけど、見つけてもらって広まるまでが大変。そうなるような、ユーザーさんに対してのネタ的なつかみが提供できるかっていうことがいかに大事かよくわかりました」

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Profileプロフィール

貝森 援/Tasuku Kaimori

貝森 援/Tasuku Kaimori

アプリス株式会社 代表取締役/クリエイター
多摩美術大学でプロダクトデザインを専攻。卒業後、メーカーでのデザイナー勤務を経て2012年に独立。
独学でプログラミングを習得し、スマートフォンゲーム『脱出ゲーム CUBIC ROOM』シリーズや『おじぽっくる』シリーズをリリース。2015年にアプリス株式会社を設立。

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