>   >  スマホ"インディーズ"にも波及しはじめた3Dビジュアル  Vol.2 中高生の心を捉えた『おじぽっくる』シリーズ 450万ダウンロード超えの3Dカジュアルゲームが産まれた背景
スマホ"インディーズ"にも波及しはじめた3Dビジュアル  Vol.2<br> 中高生の心を捉えた『おじぽっくる』シリーズ<br> 450万ダウンロード超えの3Dカジュアルゲームが産まれた背景

スマホ"インディーズ"にも波及しはじめた3Dビジュアル  Vol.2
中高生の心を捉えた『おじぽっくる』シリーズ
450万ダウンロード超えの3Dカジュアルゲームが産まれた背景

常に挑戦し続ける姿勢は
"心配性"だから

こうして狙い通り、若年層の女性を中心に幅広くダウンロードされると、キャラクターをコレクションするゲームシステムも活き、継続的に遊んでもらえるゲームとして、続編を作って横展開をするにも十分な下地が出来上がっていった。人気の広まりを受けて、アップデートやTwitterの公式アカウント開設など、コンテンツとしてのサポート、マネージメントを行うなかで、次回作となる『おじぽっくる育成BOX』のコンセプトも固められていった。

「やっぱりキャラクターだから育成は合うよね、という漠然とした思いはありましたし、サポートをしていて"かわいい! 飼えたらいいのに!"なんて声もあったので、そこでキャラクターものとして愛着が持てるものを出したいなと。その結果、かなりボリュームのある内容になってしまったんですが(苦笑)」。

そうしてとことんこだわりぬいて作り上げられた『育成BOX』は、開発に9カ月を要した、カジュアルゲームと呼ぶにはかなりボリューミーな内容としてリリースされることになる。

▲最新作の『おじぽっくる育成BOX』。育ててキャラクターが変わっていく、増えていく、というだけでなく、おじぽっくるの部屋を小物でレイアウトしてあげたり、自室でかくれんぼや鬼ごっこをしてあそんであげる、といった要素まで盛り込まれた、とても小規模開発とは思えないボリュームのタイトルになっている

しかも貝森氏は、"新しいゲームの開発にあたっては常に技術的にも何かしら新しいチャレンジをする"という命題を掲げていて、Unityの"アセットバンドル"(サーバーを通じてアプリの部分アップデートを可能にする技術)の導入までも行われている。これは実装さえできれば、ストア上でアプリそのものをアップデートしなくても随時ゲーム内のアイテムを追加/更新ができるようになるため運用的な自由度が大きく広がるメリットがある。が、まだまだ技術そのものの情報が少なく、小規模開発の、しかも本職がプログラマーではない人が取り入れているような例は珍しいと言えるだろう。

「これはおじぽっくるの反省でもあって。広まりはしたけれども、更新性の乏しいアプリになってしまったんですね。もっといろいろ運用のかたちで随時コンテンツが更新できれば、いろいろな可能性も広がったはずなんです。カジュアルゲーム開発だと、運用をあまり考えない人が多いですが、自分はどうしてもこれだけは実現させたかった。わからないなりに英語のサイトを巡って調べて、どうにかこうにかとりあえず動くようにはできました」。

▲Unityでのアセットバンドル設定画面とそれが追加されるゲーム中のショップ画面。この機能はいわゆる大手のソーシャルゲームなどで、アプリの初回起動時や、何かイベントが行われるときなどに行われる"追加ダウンロード"のしくみと同じだ。『育成BOX』では、家具などのアイテムを随時追加更新できるようにしているが、たとえばステージの追加などといった大掛かりなことも、やろうと思えば行える

実装されているアセットの数そのものも膨大だ。おじぽっくるのキャラクターバリエーションは50種類以上にも及び、部屋や装飾品、インテリア、食事、などなどオブジェクトの総物量は、一体いくつつくったのかと思うほどのボリュームとなったという。それでも貝森氏は、「そのときそのときやりたいことが明確に決まっているので、それを実現するために黙々とやるだけ」だと、淡々と語る。

「オブジェクトのデータ量とかも、やりたいことベースでまず作っちゃってから考えますからね。クオリティは細部に宿る......って信じているので、そのために必要なこと、やりたいことをまず実現してから、どうやって落とし込むか考える。全部やりたいことベースなんですよ。アセットバンドルもそう。どうしてもやりたい機能だから実装する方向で決めて進めてしまって、それで後でなんとかするんです(笑)。仕事を辞めた時と同じですね、退路を断って前に進むだけ(笑)」。

▲膨大に作られたインテリアオブジェクトの一例

▲アンビエントオクルージョンによるテクスチャの焼き込みについては、どうしてもBlenderでは思うようなビジュアルにならなかったため、専用の「Faogen」というツールが用いられた

貝森氏曰く、アプリの開発はいろんなスキルを要求されるがゆえに、その延長線上で必要な技術を身につけていけば、どんどんできることが広がっていくことが実感できるのだという。

「最初は、デザインとプログラムを少し覚えて脱出ゲームが形になった。次はシナリオが組み合わさって、コナンのゲームができた。その次はキャラクター制作を覚えておじぽっくるが、次はサーバー技術へのチャレンジで育成BOXができた。こうして、今できることの強みを生かして作りながら、少しずつの挑戦を掛け合わせて、自分ができることの幅をどんどん広げていきたい。要は心配性なんですよ、常に何かに挑戦して、自分が活き残るための方法を少しでも増やしたいんです。心配性で、このままの場にいるのが怖いから会社を辞めた、って言うといつも逆だろって突っ込まれるんですけど、自分としては本気でそう思ってるんですよ(笑)」。

習得した技術は裏切らない------ドラゴンクエストで転職を繰り返して複数のスキルを身につけていくことに似ていますね、と笑う貝森氏は、今は『育成BOX』のマネージをしつつ、次の一歩をどこに踏み出すかをまた考えている。キャラクターものをシリーズとして作ってきた流れでアニメーションの面白さに惹かれ、映像作品づくりにも興味が沸いている、とも語る貝森氏。ひょっとするとその一歩はまた、ジャンルや業界を飛び越えたものになるのかもしれない。

TEXT_SADAMU TAKAGI(@zetto_san

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Profileプロフィール

貝森 援/Tasuku Kaimori

貝森 援/Tasuku Kaimori

アプリス株式会社 代表取締役/クリエイター
多摩美術大学でプロダクトデザインを専攻。卒業後、メーカーでのデザイナー勤務を経て2012年に独立。
独学でプログラミングを習得し、スマートフォンゲーム『脱出ゲーム CUBIC ROOM』シリーズや『おじぽっくる』シリーズをリリース。2015年にアプリス株式会社を設立。

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