<2>がむしゃらにもがいていたものは、全部繋がっている
――ここで改めて宮本監督がCGをに興味を持った最初のきっかけについて伺いたいのですが。
宮本:実ははじめは全然興味がなかったんです。ゲームも全然やらなかったし、アニメも映画も全くだったんです。ただ、イラストは描いていたのでCGというものがあるらしいと知って、親に「これからはCGなんだよ!」と言って、それを口実に上京して一人暮らしをさせてもらうという、非常に不純な動機からでした(笑)。それで専門学校に入ってしばらくしてから友達に『ロード・オブ・ザ・リング』のDVDを借りたところ、「CGって素晴らしい!!」と思ったんです。だいぶ遅いですよね(笑)。『CGWORLD』を読み漁るようになったのもその頃からでした。
――先入観がなかったぶん、ある意味でジャンルをフラットに見られたのでは。
宮本:何でも目についたら手を出したくなるという感じですかね。「CGとはこうあるべき」とか、「フォトリアルでなければいけない」、といった妙なこだわりがなかったので、いろんなところに手を出してフラットに学んできたことは人と違うところなのかなと思います。当時、「フォトリアルなものしか興味ない」とか「クリーチャーしか作りたくない」とか言っていたのに、スクウェア・エニックスに入って『キングダムハーツ II ファイナル ミックス+』(2007)を経験したら「アニメを作りたい!」って言い出すくらいブレまくりでした(笑)。本当に良いものを作りたいとか、キャラクターを魅力的に見せたいという芯は持っていたんですけど、逆に「こうじゃなきゃいけない」という変なこだわりはなかったですね。
――いつかは監督になりたいという思いは強かったですか?
- 強かったと思います。スクウェア・エニックスでキャラモデラーをやっていたときはキャラクターを魅力的に見せるにはとにかくモデリングが重要だろうと思っていたんですけど、『ホッタラケの島 ~遥と魔法の鏡~』をやるなかで切磋琢磨し、キャラクターを魅力的に見せるには仕草だったり演出だったりトータルだろうところを含め、全部やってみたいという気持ちがでてきました。その頃からですね、自分は監督になるとずっと言い続けたのは。結局そこから6年かかっちゃったという感じなんですけど(笑)。
――それでも早いように思えますが、ご自身としては思ったよりかかった感覚ですか。
宮本:というか、当時は東映アニメーションなんて規模の会社で監督ができるとは思っていなかったんです。新海誠監督(代表作:『言の葉の庭』など)とか吉浦康裕監督(代表作:『サカサマのパテマ』など)とか、個人制作の発展形で小規模に作られている方のようになろうと思っていたんです。フリーランスでやっていたときも、プログラミングもリグの開発もやっていて、いつかひとりで映画を作ろうと思っていろんな準備をしてきました。結果的に氷見(武士)プロデューサーに誘っていただいて、東映アニメーションに来たのですが、先ほどの『麦わらチェイス』のリグなどもその当時に作っていたのものが土台となっています。なんとか自分でやろうと、がむしゃらにもがいていたものは全部繋がっているなとすごく感じますね。
――今回、中編を監督したのはどんな経験になったと思いますか?
宮本:今まで、監督というのはCGディレクターの延長でできるんじゃないかと思っていたのですが、今回分かったのは、それはまったくの別物ということでした。業務内容も別ですし、必要なスキルも違いますし、持っていなければならない情熱も違うのだと改めて思いました。自分は監督になりたいと思ってコンテの勉強もやってきましたし、その上で作画の勉強もしてきたのですが、CGだけだったら監督になったとしてもCGのエゴ丸出しな作品を作ってしまっただろうなと思います。言葉は悪いですが、手段が目的化した作品をCGは作りがちというのは歴史が証明していますし、そこに対して作画などを学んできたところを活かせるのが自分の強みかなと思います。伝えたい物語や見せたい演出から逆算しての技術を考え、それを作ることもできるというところを自分は目指したいと思いますし、今までもそうやってきたつもりです。
――今回の制作中にそれを強く実感した部分は?
宮本:自分の作り上げてきたものが技術と表現の両面において、抜群に評判が良かったのは嬉しかった部分ですね。表現面でいうと、「ぴあ」の満足度アンケートで『プリキュア』シリーズ歴代1位だったというのもあり、ファンの方からも面白いとか可愛い感動したとかすごくいい評判を頂きました。技術的なところでいうと、社内的なことで恐縮ですが、自分が新しく作ったものに関してアンケートを取ったところ、アニメーターからほぼ全員一致で今後も使いたいという意見をいただきました。技術的なディベロップメントと作品内容の両方の部分で良い評価をいただけたというのは、CGに偏りすぎずに努力してきたものが結びついたのかなと思います。
――お客様の意見で嬉しかったものは何でしたか?
宮本:いろいろな親御さんから「娘が夢中に見ています」といったお手紙を頂きました。なかでもひとつ嬉しかった話がありまして、大きな手術を控えているお母さんに、娘さんがずっと泣いていたそうなんです。でも、レフィを見てからそれを受け入れて泣かないように強くなった、というメッセージを親御さんからいただきました。その時、本当にやってよかったなと......。現場が本気でがんばった熱量というものは作品に焼き付いたと思っていたし、その熱意が実際にお子さんたちに伝わって共感してもらえたのは本当に嬉しかったです。
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