>   >  [CGWORLD大賞受賞記念]新たな表現に挑戦したフルCG作品『プリキュアとレフィのワンダーナイト!』宮本浩史監督インタビュー
[CGWORLD大賞受賞記念]<br>新たな表現に挑戦したフルCG作品『プリキュアとレフィのワンダーナイト!』宮本浩史監督インタビュー

[CGWORLD大賞受賞記念]
新たな表現に挑戦したフルCG作品『プリキュアとレフィのワンダーナイト!』宮本浩史監督インタビュー

<3>悔しい思いをしている人たちに楽しんでもらえる作品を

――2015年に刺激を受けた出来事は何でしたか?

宮本:『映画Go!プリンセスプリキュア Go!Go!!豪華3本立て!!!』で、一緒に作品をやらせてもらった『キュアフローラといたずらかがみ』の貝澤幸男監督と『パンプキン王国のたからもの』の座古明史監督とは、公開後にいろいろお話を聞く機会がありまして、そこでかなり刺激を受けました。技術的な部分というよりも、演出家としてのあり方ですね。自分自身がそこまで演出経験があるわけではないので、自分のやり方が正しいのかすごく不安を持っていたんですけど、人によって違いはありつつも演出家として共通する部分はあるのだなと。たとえば絵コンテを描いている時ってみんな絶対に見られたくないし、人にも話しかけられたくないんです。そこでは単純に枠の中に絵を描いているというだけではなく、脚本から得たものに対して自分が本当にその中に入っていって、キャラクターたちと会話してコミュニケーションを取った上でそれをフレームの中に落とし込んでいく作業なんです。そういう思いとか悩みは共通なんだなといったお話をしましたね。

――何か作品で2015年に気になったものはありましたか?

宮本:『マッドマックス 怒りのデス・ロード』ですね。自分が東映アニメーションに来る前に、この映画に関連する映像作品の案件に関わらせてもらっていたんです。その作品は途中で打ち切りになってしまったのですが、当時得ていた情報からどういう映画になるかなんとなく想像はしていました。でも実際に映画を見たらビックリするほどパワフルな映画になっていました。イメージボードを描いていた前田真宏さん(代表作:『巌窟王』ほか)とも終わった後でお食事をしたんですけど、「60歳になっても70歳になっても人を楽しませようという気持ちのアグレッシブさ。そしてバイタリティが全然尽きていないジョージ・ミラー監督には本当に頭が下がるよね」とお話しされていました。自分も70歳になっても80歳になってもパワフルな映画を作りたいなと思わされた作品でした。

――今回、レフィというキャラクターはご自身の20代を投影した人物だったそうですが、次の作品にはどんな心構えで臨もうと考えていますか?

宮本:まず、次の作品はそうしたタイプの案件ではないので、いろいろな人が納得できるように落としどころを探してまた違ったアプローチで監督経験が積めると思っています。そしてまた自分を乗せられるタイプの案件が来たら乗せていきたいと思います。骨になる部分から仕事をさせてもらうとなると、結局は自分のことを描くしかないんですよね。思ってもないようなことは描けないし、キャラクターにも言わせられない。自分の中にあるものを掘っていった時に出てくるものでしか、本質的には表現できないと思っています。演出家としての経験も少ないですから、テクニックも学んでいくことは重要だとは思いますが、表層的なテクニックだけで作品を作る演出家にはなりたくないなと思います。自分を込めて、それによって人が共感していくような作品を作りたいですね。

――ご自身の人生においてもさまざまな経験をされていくことが作品にも繋がる。

宮本:ええ。やっぱり人並みの経験をしていきたいなと思います。自分がいろんな人に共感してもらえる作品を作れた大きな理由として、やっぱりサラリーマンとしての経験が大きいと思います。東映アニメーションという大きなアニメーション会社であっても、会社員として悔しいことや辛いことに耐えてプロジェクトを進めなければいけないと思うことも日常的にあります。そういう経験やメンタルみたいなものが作品には絶対に活きると思いますし、共感してもらえるところもそこだと思うんです。仮にすごくゴージャスな暮らしをしていたとして、そこから得られる経験をもとに作品を作っても一体誰が共感してくれるのかと。悔しい思いをしている人たちに楽しんでもらえる作品を今後も作り続けたいですし、そう思ってもらうためには自分自身、たくさん酷い目に遭わないといけない。

自分自身、辛いとか悔しいと思うことだらけの20代だったんですよ。そこでスキルだけではなく、人間性や信頼関係を築けているかといったことを学べたのもまた、20代という時間でした。監督になるとまた業務内容だけでなく、仕事で話す相手も変わってきました。そのなかで今まで正しいと思っていたものを壊されることも相当あります。20代はプロダクションという部分でたくさん悔しい思いをしてきましたが、30代で監督になったらプリプロダクションやポストプロダクションというところで、たくさん苦労するんだろうなとは感じています。そういうところで折れずに、なにくそと思いながらがんばっていけたら、それもまた自分の作品の中に活かされていくんじゃないかなと思います。

――宮本さんのなかで、注目したりライバルと思っているクリエイターはいらっしゃいますか?

宮本:注目したり尊敬している人はたくさんいますが、ライバル関係というよりも一緒に作品づくりをやっていきたいなと。吉浦さんにはメチャクチャ影響を受けていますし、憧れもあります。前田真宏さんも、りょーちもさん(代表作:『夜桜四重奏 ~ハナノウタ~』[監督]、『亜人』[ストーリーボード・演出])や、プロダクションI.Gの竹内敦志さん(代表作:『攻殻機動隊ARISE』ほか)ともぜひ一緒にやってみたいと思います。作品って、自分のエゴだけで作っていては面白いものにはなりませんし、いろんな人の意見が入ることによってどんどん面白いものになる事も多いんです。自分にはいろんな会社を回ってきたからこその強みというのもあると思うので、社内の人だけではなく社外のいろんな人とも組んで面白いことをやっていきたいというのは、今後30代・40代で成し遂げていきたいことのひとつですね。

――目標としている作品は何かありますか?

宮本:こんなことを言うと生意気かと思われるかもしれませんが、海外を含め3DCGで本当に観たい作品というのはまだ目にしていなくて、それがないからこそ、創りたいと思うんです。50歳でも60歳でも、死ぬまでに1本でも実現したいというのが目標ですね。

――2016年をどんな年にしたいと考えていますか?

宮本:正直なところ、自分にとっては種蒔きの年になるかなと思います。去年はそれまで蒔いてきた種を回収できた年でした。『レフィ』も実際、2012年くらいに氷見さんに出した企画だったんですけど、たまたま『プリキュア』と合体して実現できたんです。今年はとにかくオリジナルでも何でも企画書を3本書きたいと思っています。そして目下、会社から受けている作品もいいものにしたいですし、次に向けてキャラクターTDとして新しい表現も探っていきたいですね。具体的に何かというよりも種蒔きをして、いつかに繋げればいいなと思っている年ではあります。

――ともあれ『レフィ』と『Go!プリンセスプリキュア』のエンディングの同時進行はお疲れ様でした。完成してからはリフレッシュできましたか?

宮本:映画が終わった後はだいぶ休みましたね。美味しいものを食べたり『メタルギアソリッド V』をやったりしていました(笑)。

――休みでも3DCGに触れて(笑)。休まりますか?

宮本:休まりますよ。戦場の緊張感だけが自分を癒やしてくれます(笑)。技術的なところで目が行くところもありますが、それはそれ、これはこれなので。何だかんだで自分はやっぱりCGが好きなんでしょうね(笑)。

TEXT_日詰明嘉
PHOTO_弘田充

Profileプロフィール

宮本浩史/Hiroshi Miyamoto

宮本浩史/Hiroshi Miyamoto

1985年生まれ。兵庫県出身。
スクウェア・エニックス、Production I.Gを経て2010年東映アニメーション入社。 Pythonも絵コンテも書けるアニメ監督を目指し奮闘中。 『プリキュアとレフィのワンダーナイト!』(『映画Go!プリンセスプリキュア Go!Go!!豪華3本立て!!!』)/監督 『Go!プリンセスプリキュア』後期エンディング/演出・CGディレクター 東京ワンピースタワーのアトラクション映像(「ルフィのエンドレスアドベンチャー」内で上映)/監督 『スマイルプリキュア!』『ハピネスチャージプリキュア!』/CGディレクター 映画『聖闘士星矢 LEGEND of SANCTUARY』/キャラクターデザイン リアルからセルルックまでジャンルを超えた作品づくりに挑戦している。

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