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映画『ピクセル』に見る、デジタル・ドメインのキャラクター・アニメーション妙技

映画『ピクセル』に見る、デジタル・ドメインのキャラクター・アニメーション妙技

<4>本作品の最大の特徴となるボクセル表現

この映画に登場するほとんどのキャラクターはボクセルで表現されているが、キャラクターのモデリングからアニメーションまではMaya上で普通に滑らかなモデルで行われている。その後のエフェクト工程にて、Houdini上でボクセルに置き換えられた。
「最初はこの制作手法では各チーム間で、膨大な量のデータが行ったり来たりする必要がありました。その理由はアニメーターが最終的なボクセル形状を直接確認しながらアニメーション作業をすることができなかったためです。そこでわれわれはもっとインタラクティブな解決方法が必要だと実感し、パイプラインスーパーバイザーであるレイフ・サックス/Rafe SacksがHoudini ENGINEを使った解決方法を考案しました。このツールのおかげで、それぞれの部署で最終的な形状を見ながら作業することが出来るようになりました」。

映画『ピクセル』アニメーションメイキング

この手法により、アニメーターは通常のアニメーション作業と同じ手法でキャラクターを動かしながらも、最終的にボクセルになったときの見え方も確認しながら進めることができたため、キャラクターの動きはより生き生きしたものになった。
「これはアニメーターたちにとって非常に画期的なことでした。実際のボクセル化処理はHoudini内で行われるため、両方のソフトウェアを組み合わせなければいけませんでした。Houdini ENGINEを使って、トビアス・オット/Tobias Ottとダニエル・ジェンキンス/Daniel Jenkinsが、HoudiniのノードをMayaのセットアップとつなぎ合わせるプラグインを開発しました。これにより、アニメーターたちはMayaの画面上で全ボクセル表現を確認することができるようになったのです。特にドンキーコングは、実際にボクセル化されたときにどう見えるのかを確認しながら表情付けを行うことが必須でしたし、足が正しくステージや階段におかれているかを確認できることも重要でした」。
こうしてOKの出たアニメーションのシーンデータは、Houdiniで最終的なボクセルデータにコンバートされた。さらにFXチームはブライアン・ガズディック/Brian Gazdik氏の下で、発生した全ての問題を解決し、キャラクター同士が接触した場合の処理などを行なった。しかし上記プラグインのおかげで、大半のボクセルのアニメーションはアニメーターの作業中に最終形まで見通すことが可能だったという。

映画『ピクセル』アニメーションメイキング

<5>最も大変だったマックス・ヘッドルーム

大量のキャラクターや物体がボクセル化することで複雑になっているように見える本作であるが、意外にも最も大変だったのは、シーンとしては短い、『マックス・ヘッドルーム』(※1984年放映のヴァーチャルキャラクターを司会者として登用した英チャンネル4の音楽番組)の再現シーンであったという。
「『ピクセル』のようなプロジェクトでは、どのショットも限界に挑戦する必要があります。しかし最も難しかったのはマックス・ヘッドルームのシーンでした。マット・フルワーが演じたオリジナル・キャラクターの顔の演技をフルアニメーションで作成するには時間が足りなかったのです。彼の動きや顔の表情はおそろしくバリエーションに富んでおり、既存のフェイスリグでは対応できないほどでした。最終的にわれわれは、マット・フリューワー/Matt Frewer本人をDigital Domainに呼んで演技を収録することにしました。ところが、これまでDigital Domainで使用してきたインハウスのフェイシャルキャプチャ技術『DIRECT DRIVE』の限界を超えるほど、マットの表情は豊かだったのです。われわれは新たに『MOVA DIRECT DRIVE』というインハウス・ツールを開発することになり、これにより、技術的な制約でマットの演技を縛ることなく、素晴らしい演技を正確にキャプチャすることができました。また考えていたよりもずっと豊かな表情を付けることもできました。途中で挫けることなくマシュー・バトラーが不可能に挑み続けてくれた成果だと思いますね」。

映画『ピクセル』アニメーションメイキング

そして、子供の頃からアーケードゲームで育ったというクレイマー氏にとって、本プロジェクトに参加できたことは感慨もひとしおだったようだ。
「私はドイツで育ったのですが、物心ついてからというものずっと、任天堂で働くことが夢だったのです。私は『ドンキーコング』が一番のお気に入りで、本シリーズはどのゲームも大好きでした。まだ直接任天堂で働けてはいませんが、今回の作品で僕は子供の頃の夢をほとんど実現できたのではないかと思っています」。

映画『ピクセル』アニメーションメイキング

TEXT_奥居晃二 / TEXT_Kouji Okui
EDIT_沼倉有人(CGWORLD) / EDIT_Arihito Numakura(CGWORLD)
Special thanks to Digital Domain Inc., Kohta Morie, Takuma Sakamoto and Wataru Shiraishi

  • 映画『ピクセル』アニメーションメイキング
  • 映画『ピクセル』
    監督:クリス・コロンバス
    脚色:ティム・ハーリヒー、ティモシー・ダウリング ※パトリック・ジーンの短編映画に基づく
    プロデューサー:アダム・サンドラー、クリス・コロンバス、マーク・ラドクリフ、アレン・コヴァート
    撮影:アミール・モクリ
    プロダクションデザイナー:ピーター・ウエナム
    音楽:ヘンリー・ジャックマン
    VFXスーパーバイザー:マシュー・バトラー

    2015年アメリカ映画/スコープサイズ/本編上映時間:1時間45分/2K/2D/3D/IMAX/MX4D/字幕翻訳:松崎広幸

    www.pixel-movie.jp

Profileプロフィール

ジャン・フィリップ・クレイマー/Jan Philip Cramer

ジャン・フィリップ・クレイマー/Jan Philip Cramer

2005年、Sony Pictures Imageworks(SPI)のキャラクター・アニメーターとしてキャリアをスタート。SPIでは『ゴーストライダー』(2007)や『スパイダーマン3』(2007)などに参加。2007年にWeta Digitalへ移籍し、リード・アニメーターとして『アバター』(2009)に携わった後、『特攻野郎Aチーム THE MOVIE』(2010)ではアニメーション・スーパーバイザーを務めた。2010年より、Digital Domain所属のアニメーション・ディレクターとして『ジャックと天空の巨人』(2013)、『エンダーのゲーム』(2013)、『X-MEN: フューチャー&パスト』(2014)、そして『ピクセル』(2015)と、コンスタントにハリウッド大作を手がけている。2014年からはDigital Domainアニメーション部門のスーパーバイザーも兼任している。

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