<Topic 2>題字に対する破壊エフェクト
3ds Maxの強みを活かした定番FXプラグインの併用
ファーストカットからカメラがトラックダウンしながら暗転すると、左官職人・挾土秀平氏(www.syuhei.jp)により描かれた題字が浮かび上がる。すると、その題字がダイナミックに破壊されるというVFXを担当したのが、Liliの荒牧大貴氏だ。新宮氏の代表作として、ONE OK ROCK『Mighty Long Fall』MV(SPACE SHOWER「MUSIC VIDEOAWARDS(MVA) 2015」BEST VIDEO 50ノミネート)が挙げられる。そんな同作のクライマックスに登場する床が崩落するという大規模な破壊エフェクトを手がけたのが荒牧氏ということで、今回はさらに進化した破壊エフェクトに挑戦したという。「今回も『MightyLong Fall』のときと同じく3ds MaxプラグインのthinkingParticles(以下、tP)をメインに利用してます。ですが、当時から課題になっていた破片断面のディテールを高める手段として、今回はV-Rayディスプレイスを利用しました。破壊のシミュレーションについてはハイポリのまま計算すると高負荷すぎるため、ローポリ化したオブジェクトでシミュレーションをかけ、それに対してハイポリで近くのローポリ破片を検索して親子付けをするように設定しています」(荒牧氏)。ひびの形状については、ひびを手描きした白黒マスクを作成し、その画像をRayFire Trace機能でトレースさせることで効率化が図られた。
初期のテイクでは、題字にひびが大きくかかりすぎているとリテイクが発生したそうだが、ベースのSim設定をプロシージャルに組んでいたことからスムーズに対応できたという。「当初はもっと寄りの状態から破壊エフェクトが入ってくる想定だったこともあり、ハイポリで作成していたのでレンダリングコストがかなり大きくなりました。そこでクラウドレンダリングを利用しようと思ったのですが、tPのバージョン6に対応しているサービスがなかなか見つからず、最終的に「RENDER 4U」というドイツの業者を利用しました。ところが、ジョブを投げる際にtPのキャッシュが自動的に繋がらないため、メールで繋ぎ方を伝える必要に迫られたのですが、ものの見事に間違えてくれたり、といった想定外の災難にも見舞われました(苦笑)」(荒牧氏)。そうした苦労の甲斐もあり、インパクトあふれる破壊エフェクトに仕上がっている。
2−1.thinkingParticlesによる、ベースSim
▲<A>実際にシミュレーションを行うローポリのモデル/<B>レンダリングに使うハイポリのモデル。シミュレーションに親子付けする/<C>tPのシミュレーション設定
2−2.RayFireによる、ひび割れガイドの作成
▲<A>ひび割れ用ビットマップ画像。この画像に沿ってひび割れを発生させる/<B>RayFireTraceにビットマップ素材を適用した状態
2−3.ブレイクダウン
▲ 本ショットの主なレンダーパス。<A>ビューティ/<B>アンビエントオクルージョン/<C>スペキュラ/<D>マットシャドウ/<E>マスク(その1)/<F>マスク(その2)/<G>熱エフェクト用マスク(溝部分)/<H>熱エフェクト用ノイズテクスチャ/<I>煙素材
▲ ショットブレイク。<A>実写素材/<B>不足している箇所をレタッチ/<C>ひびを合成/<D>破片を合成/<E>煙を合成/<F>ひびの間からこぼれる熱エフェクトを合成し、ルックを整えたVFXとしての完成形(この後、グレーディング処理が施される)
<Topic 3>実写ロケ素材のエクステンション
ドローンは手軽で便利されど思わぬ難題も
荒牧氏による題字の破壊エフェクトが明けると、米子大瀑布(長野県須坂市)、備中松山城(岡山県高梁市)、松代城(長野県長野市)、戸隠神社(長野県長野市)など、日本各地の名所や秘境を捉えたシーンが続いていく。その一連のVFXを手がけたのがKhakiの田崎陽太氏だ。ダイナミックなランドスケープを収めるべく大半のショットがドローンによる空撮であるが、それゆえに様々な難題が発生したという。
「ドローンによる空撮は、確かに迫力ある画が撮れるのですが、軽量で小型ゆえにカメラの揺れが大きいんです。ターゲットのマーカーを配してもすぐにフレームアウトしてしまうので、トラッキングとスタビライズにはとにかく苦労しました」(新宮氏)。特に難問となったのが、ここに紹介する備中松山城のショット。滝のように水が流れる石段に沿って上昇し、土壁に配された鉄砲穴へとカメラが入り込んでいくというショットだが、実写素材を加工するレベルでは綺麗に穴に入り込むカメラワークが不可能だったことから、CINEMA 4D(以下、C4D)上で実写素材をカメラマップさせ、CGでカメラワークをイチから付け直すことで対応した。「石段を流れる滝も、ストックしていた実写のアーカイブ素材をカメラマップしています。塀や瓦、周辺の岩、草などの環境はMARIによる3Dペイントで作成しました」(田崎氏)。石段に水が流れる表現は、発案した佃氏自身もコンテを描いていた段階から懸念していたという。「企画の段階で弱気になったらダメだと、われながら難しい表現を随所に入れていたので、『本当にできるのかな?』と思っていました。無理なら、きっと新宮さんがNGを出すだろうと思っていたのですが(笑)、最後までダメと言われることなく、見事にやり遂げてくださったので感心しました」。
レンダリング負荷のVFXについて、Liliの荒牧氏の場合はクラウドレンダリングを利用していたが、Liliと同じく少数精鋭のブティックスタジオであるKhakiでは、GPUレンダラのOctane Renderを利用しているとのこと。「Octane用にGeForce GTX TITANを3枚挿したPCを数台導入しています。OctaneはC4Dにも完全対応しているので重宝しているのですが、電気代が馬鹿にならないのが悩ましいですね(苦笑)」(田崎氏)。
3−1.CINEMA 4D上に実写素材を再構築
▲ <画像上>序盤における見せ場のひとつ、備中松山城(岡山県高梁市)の実写ロケ素材をベースにしたCINEMA 4Dのシーンファイル。ドローンで収録した実写素材のカメラ揺れが大きい等の諸問題から各種実写素材をC4D上でカメラマップするかたちで作成された/<画像下>石段に沿って流れ落ちる水流は実写のアーカイブ素材をカメラマップしている
3−2.MARIによる3Dペイント
▲<A>実際の備中松山城は白壁だが、挾土氏が作成した土壁と瓦をMARIによる3Dペイントによって描き込まれた/<B>RED EPICを搭載したドローンによる
収録模様
3−3.ブレイクダウン
▲ <A>オリジナルの実写プレート/<B>背景素材、手前の杉はCGで遠景はマットペイント/<C>石段を流れる水流まわりの素材。上述の通り、水は実写で陸地はCGで拡張している/<D>土壁ならびに瓦素材/<E>各素材を素組みした状態/<F>カラコレ等を施したVFXとしての完成形(この後、グレーディング処理が施される)