>   >  実写のダイナミズムをVFXで高める。前人未踏の表現に挑んだ、NHK大河ドラマ『真田丸』タイトルバック
実写のダイナミズムをVFXで高める。前人未踏の表現に挑んだ、NHK大河ドラマ『真田丸』タイトルバック

実写のダイナミズムをVFXで高める。前人未踏の表現に挑んだ、NHK大河ドラマ『真田丸』タイトルバック

<Topic 4>600騎からなる"魚鱗の陣"

ハリウッドでも実績のあるMiarmyを初導入

タイトルバックのクライマックスをかざる真田の騎馬軍勢が「魚鱗の陣」で駆け抜けるというショットを手がけたのが、Liliの真吾氏。この群衆表現を生み出すにあたり、Mayaプラグインの群衆シミュレーションツール「Miarmy」を初めて使ってみたという。当初の予定では、比較的シンプルな俯瞰のカメラワークだったため、Mayaのリファレンス機能で対応する予定だったというが、実際に上がってきた実写素材を確認したところダッチアングルに加えて大胆なパースのついた複雑なカメラワークだったため、群集シミュレーションツールを用いることにしたとのこと。「各キャラクターのモーション自体はシンプルだったので、Massiveのようなハイエンドなシステムは必要ないと判断しました。そもそも手に余りますし(笑)。そこで小スタジオで使いやすいと定評のあるMiarmyを採用することに決めました」(真吾氏)。ただ、初めて使用することに加え、スケジュール的にイチから検証する時間的な余裕もなかったことから、導入実績があり、新宮氏と真吾氏が以前在籍していたダイナモピクチャーズに協力を求めたという。「住田(永司)さんに相談したところ、快諾していただけました。実作業はひとりでやりきりましたが、操作や仕様でわからないときに技術サポートしてもらいました」(真吾氏)。
9月頃からMiarmyの習得と騎馬のモデリング、セットアップを開始。当初は具体的な陣形のリクエストはなかったそうだが、最終的に戦国ファンから人気の高い「魚鱗の陣」で駆けさせることに決まったため、その対応にも追われたという。「軍勢としてのバラツキを抑えつつ、騎馬同士が接触しないように一定の距離を置いたかたちでシミュレーションをしてみたところ、走らせると段々と陣形が崩壊してしまったのです。最終的に一度キャッシュを取った上で微調整しています」(真吾氏)。レンダリングはV-Rayで行い、個々の騎馬は一定のつくり込みを施したそうだが、600騎からなる軍勢を全体で見た際にフラットな見映えになっていたため、コンポジットワークでスペキュラを強く乗せるといったルックの調整を行うことでリアリティが高められた。なお騎馬の足下から巻きあがる煙の表現は、エフェクトを得意とする荒牧氏が担当。Mayaから騎馬の蹄の跡だけをAlembicで書き出し(データ負荷への配慮)、それをFumeFXによる煙の発生源に用いるかたちで作成したそうだ。

4−1.群衆モデル

NHK大河ドラマ『真田丸』タイトルバック

NHK大河ドラマ『真田丸』タイトルバック

 Miarmyで制御させる群衆モデル。<A>騎馬兵、ベースモデルに複数の武器や防具を組み込み、Maiarmy側でランダムに選ぶよう設定/<B>毛や尾、垂物も全てセットアップし、最終的にベイクしたものをアクションとして使用。こちらもMiarmy側でランダムに切り替わるように設定

4−2.Miarmyによる群衆Sim

NHK大河ドラマ『真田丸』タイトルバック

NHK大河ドラマ『真田丸』タイトルバック

 <A>MiarmyのUI。群集の密度感を直感的に行えるよう、配置はメッシュベースで行なっている/<B>複数パターン作成したモデル・モーションデータをランダムに振り分けるように設定しつつ、騎馬同士が重ならないよう距離を保ったり、速度にバラつきが出るように調整がくり返された。「旗はベースモデルに含めず、Miarmy側で作成したものを使用しています」(真吾氏)

4−2.背景セット

NHK大河ドラマ『真田丸』タイトルバック

NHK大河ドラマ『真田丸』タイトルバック

NHK大河ドラマ『真田丸』タイトルバック

騎馬が駆け抜ける地面部分は挾土氏の土壁が用いられたが、その周辺の岩山や地面のディテールは3DCGで拡張された。<A>背景の岩肌は3Dスキャンによるモデルデータを利用することでクオリティとコスト削減の両立が図られた/<B>小岩などのディテールはMayaのパーティクルで作成/<C>岩肌と地面の境界部分はZBrushによるスカルプトで馴染ませている

4−3.FumeFXによる土煙エフェクト

NHK大河ドラマ『真田丸』タイトルバック

  • NHK大河ドラマ『真田丸』タイトルバック
  • NHK大河ドラマ『真田丸』タイトルバック

  • NHK大河ドラマ『真田丸』タイトルバック
  • NHK大河ドラマ『真田丸』タイトルバック

 <A>FumeFXの作業UI。動きの異なる煙素材を複数生成し、コンポジット工程で調整された/<B>ベースとなる煙素材/<C>発生箇所に応じてランダムにRGBチャンネルへ振り分けた素材。コンポ時に色むらを加えるために用いる/その他の煙素材の例。<D>足下から引っぱる動きの素材/<E>全体的に舞う煙。「FumeFXのソースとしてtPで作成したものです。馬のひづめが地面に接地したときのみに発生させました」(荒牧氏)

4−4.ブレイクダウン

  • NHK大河ドラマ『真田丸』タイトルバック
  • NHK大河ドラマ『真田丸』タイトルバック

  • NHK大河ドラマ『真田丸』タイトルバック
  • NHK大河ドラマ『真田丸』タイトルバック

NHK大河ドラマ『真田丸』タイトルバック

 <A>ベースとなる挾土氏が作成した土壁/<B>CGで作成した岩山モデルを追加/<C>岩などのディテールを追加した背景セットの完成形/<D>騎馬兵や土煙を加え、全体のトーンを整えた状態/<E>フレアやカラコレを施したVFXとしての完成形(この後、グレーディング処理が施される)。非常にダイナミックなカメラワークのため、実写素材のトラッキングにも苦労したという

Column 汎用性とリッチさを最大限に両立したテロップワーク

タイトルバックの上に載るテロップワークにおいても新たな試みが実践された。こちらはNHKアートの寺部 晶アートディレクターが中心となり、今までの大河ドラマのテロップ作成手法では不可能だった細かな質感やエフェクトにも対応した新ワークフローが考案された。「テロップ自体のクオリティアップを目指すと共に、大切にしたのが大河ドラマという50週にわたり放送される番組のテロップを作成する上で、ミスが起きず安定して運用できるシステムに仕上げることでした」(寺部氏)。「もともとデザイナーである自分としては、せっかくハイクオリティなタイトルバック映像を作り出せてもその上に載るテロップがオーソドックスな白文字のノーマルフォントになってしまうことに課題を感じていました。映画のタイトルバックほど凝ったモーションタイポは難しいとしても、昨年ECSがノンリニアシステムへ移行したことを好機と捉え、テロップワークでも新たな試みを実現できないかと、寺部さんに相談したのがはじまりです」(佃氏)。

NHK大河ドラマ『真田丸』タイトルバック

左から、小田島佑樹CGアーティスト、寺部 晶アートディレクター、山本綾子CGアーティスト、杉浦陵士CGアーティスト、小池葉子エグゼクティブプロデューサー、番井みさ子CGアーティスト、以上NHKアート。
www.nhk-art.co.jp


NHKでは「ECS(Electronics edit Control System)」と呼ばれる部署がテロップワークを担当しているが、従来まではリニア編集システムで作業が行われており、そもそもレンダリングの概念(作業)が存在しなかったため、現場スタッフの理解と協力を得ることも不可欠だったという。「タイトルバックの収録も一部参加し、狹土さんが作成された土壁の質感やライティングなどの環境を共有して、タイトルバックの世界観を最大限テロップにも反映することを心がけました。フォントも使える書体はほぼ全てテストしました」(寺部氏)。運用面では、テロップ作業者はAE上で文字入力用コンポと最終のレンダリングコンポのみを操作するだけで済むように設定することでヒューマンエラーが極力生じないように配慮。質感やエフェクトもAEの標準機能だけで表現することで、30~40分を目安にレンダリングが終了できる(プロキシは未使用)仕様になっているとのこと。

NHK大河ドラマ『真田丸』タイトルバック

  • NHK大河ドラマ『真田丸』タイトルバック
  • NHK大河ドラマ『真田丸』タイトルバック

 <A>今回開発されたテロップ用AEコンポジション/タイトルバックのルックに応じたテロップの調整例。<B>背景の投げ縄の影の方向性に合わせ、かつ視認性が保てる強度で影を加えている/<C>竹細工と赤土の壁からサクラ色の壁に変わる際、背景の色味に合わせて影を変えている

info.

  • NHK大河ドラマ『真田丸』タイトルバック
  • NHK大河ドラマ『真田丸』
    毎週日曜[総合]21時~、[BSプレミアム]18時~/毎週土曜(再放送)[総合]13時5分~
    作:三谷幸喜/題字:挾土秀平
    制作:屋敷陽太郎/演出:木村隆文
    www.nhk.or.jp/sanadamaru


    ©NHK

Profileプロフィール

NHK<br />EPOCH & Lili<br />Khaki

NHK
EPOCH & Lili
Khaki

左から、真吾氏(Lili)、新宮良平氏(ディレクター、EPOCH/ Lili)、田崎陽太氏(Khaki)、佃 尚能氏(クリエイティブ・ディレクター、NHK)、荒牧大貴氏(Lili)
epoch-inc.jp/works/sanadamaru

NHKアート/NHK ART

NHKアート/NHK ART

左から、小田島佑樹CGアーティスト、寺部 晶アートディレクター、山本綾子CGアーティスト、杉浦陵士CGアーティスト、小池葉子エグゼクティブプロデューサー、番井みさ子CGアーティスト、以上NHKアート。
www.nhk-art.co.jp

スペシャルインタビュー