<3>格好良さと、あえて外した画づくりの絶妙なバランス
ワンカットの長回しフルCGアクションにも挑戦
福田雄一監督は前作のときから『スパイダーマン』のパロディ路線というコンセプトを掲げていたという。いわばハリウッド映画にも通じるハイエンドなVFXと、ジャンプコミックのギャグ漫画という原作特有の粗削りさの融合を目指しているのが本シリーズの醍醐味と言える。そして『HK2』における新たなチャレンジとなったのが、劇中後半に登場するNYを舞台に変態仮面とダイナソンがくり広げる戦闘シーン。本家『スパイダーマン』さながらのダイナミックなカメラワークとキャラクターアニメーションがフル3Dで制作された。
「約20秒のワンカットの長回しという難易度の高い表現でしたが、これまでの作品を通じて福田監督との間に信頼関係が築けていたので、まずはこちらから提案させていただくかたちで作業を進めることができました。プリビズ作業時は、少人数で制作する都合上、背景セットを遠景までつくり込むには限界があったので、ダイナミックなアクションを心がけつつ、できるだけ背景の制作負荷を軽減できるようなカメラワークを模索していましたね」(中口岳樹VFXディレクター)。興味深いのはプリビズはMayaで作成されのだが、本番のショットワークはHoudiniで行なったということ。「このシーンに限らず、巨大なダイナソンのようにディスプレイスメント処理が多用されたショットにはプロシージャルにシーンを構築できるHoudiniを利用しました。海外スタジオでもキャリアを積まれた方が当時在籍してくれていたことも大きかったですね。Mantraのモーションブラーが綺麗でレンダリングも速かったので、今後のプロジェクトでも活用していきたいと考えています」(久保江氏)。
コンポジットまで終えたショットは、酒井伸太郎ポストプロダクションスーパーバイザーの下に集められ、Quantel Rio(旧名Pablo)上で全体のバランスを確認しながらグレーディングとフィニッシング作業(オンライン編集)が行われた。「中核メンバーがRio編集室に集まり、実際に画を見ながら意見を出し合うのですが、この作業を『餅つき』と呼んでいるんです。その名の通り、CG、コンポジット、フィニッシングの間でデータの行き来をくり返しながらブラッシュアップさせるのですが、最近は阿吽の呼吸
で作業ができるようになってきたので、2~3回戦目で仕上げられるようになりました。正直、泥くさい面も多々あるのですが(笑)、ワークフローとしてはできるだけスマートな手法を提案してくれる久保江のような存在がいてくれることで技術と表現の両面において着実に成長できています」と、酒井氏。少数精鋭だからこそ中核メンバーの間で目指す表現が共有できる、そして全工程を社内で一貫できる体制が構築できていることによって、レスパスビジョン独自の画づくりが可能となっているのだ。
3−1.フルCGで描かれたNYのアクションシーン
▲変態仮面を演じた鈴木亮平のPhotoScanによるフォトグラメトリーを基に、作成されたスカルプトモデル。「リダクションした上で、3ds MaxやHoudiniに読み込みました。ディテールは各ソフトのノーマルマップやディスプレイスメントマップで再現しています」(石澤氏)
▲背景セットの3ds Maxシーンファイル。ダイナミックなアクションを成り立たせる都合上、かなり広い範囲まで作成された。「キャラクターの触れる建物や近景はハイポリで、その他は極力ローポリゴンに仕上げることを心がけました」(石澤氏)
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▲プリビズの例
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▲MotionBuilderによる手付け(キーフレーム)で作成されたキャラクターアニメーションの例
▲コンポジット作業の例。主にモーションブラーとzDefocusによる調整が施された
▲Pablo Rioによるグレーディング例。「バトルシーンはHDR風ルックにしてビビッドにする一方、ドラマシーンはあえてノーマルに。NYシーンについては、石澤の提案を汲んだソリッドなルックに仕上げました」(酒井氏)
3−2.「餅つき」によるブラッシュアップ
▲MV制作などで得た経験の下、絵コンテに込められた福田監督が目指したビジュアルを想像しながら画づくりを進めたという。「餅つきの中で生まれた即興的なアイデアも積極的に加えていたので、ピクチャーロック=完パケという"非常識なつくりかた"でした(笑)」(石澤氏)
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『HK/変態仮面 アブノーマル・クライシス』
2016年5月14日(土)全国ロードショー
監督・脚本:福田雄一/原作:あんど慶周「THE ABNORMAL SUPER HERO HENTAI KAMEN」(集英社文庫コミック版刊)/制作:レスパスフィルム/ ポストプロダクション:レスパスビジョン/VFX:steam-studio/配給:東映
hk-movie.jp
©あんど慶周/集英社・2016「HK2」製作委員会