<3>日本でもCGを武器に世界で戦えるようになってきた?
小野:予算規模は小さくても、やり方次第でヒットがねらえるようになってきた。その背景には、3DCG技術のコモディティ化もあるのでしょうか?
沼倉:すそ野が広がっているのは確かだと思います。IBL(イメージベースト・ライティング)を用いた実写とCGの合成はその好例ではないでしょうか。手法自体は何年も前から存在しますが、こと日本の制作現場においては、最近は少人数のスタジオでも大手に見劣りしない映像がつくれるようになってきました。例えば、実写VFX部門にノミネートされた『HK/変態仮面 アブノーマル・クライシス』は、レスパスビジョンがCG・VFXワークからポストプロダクションまでワンストップで手がけられる体制を構築することで少数精鋭で良質なVFXを実現されたと思います。こうした背景は、CGプロダクションのみならず実写撮影スタッフなど、CG制作者とやりとりを行うパートナーやクライアントとの間でも良質なVFXを実現する上では相応の手間暇やワークフローが求められることに理解が得られてきたこともあるはずです。
『HK/変態仮面 アブノーマル・クライシス』本予告
小野:聞いていると、ゲーム業界でいえば1990年代後半の、初代PlayStationの頃に似ていますね。当時は3DCG技術が安価に使えるようになり、少人数でも尖ったゲームがつくれるようになりました。そこから『パラッパラッパー』や『クーロンズ・ゲート -九龍風水傳-』といった、作家性の強いタイトルがどんどん登場してきた。それを可能にしたのがソニー・コンピュータエンタテインメント(現ソニー・インタラクティブエンターテインメント)のCD-ROMを中核とした新しいビジネスモデルです。
沼倉:なるほど。
小野:先ほど「クリエイターとスタジオワークの融合で新しい作品が登場してきた」という話がありましたが、別の言い方をすれば「技術革新とビジネスモデルの融合によって、新しい市場が生まれてきた」と言えるのかもしれません。
沼倉:今年8月に公開された『ルドルフとイッパイアッテナ』が興行収入12億円以上を達成したのは(※1)、まさにそういった文脈で語れるかもしれませんね。ことファミリーやキッズ向けの作品では、リアル系(セル調以外)のCGアニメーションもヒットにつなげられるようになってきたという意味で。
※1:Box Office Mojoの公表データによると、公開4週目で興収1,200万米ドル(約12億円)を突破している。
小野:近年ではハリウッドなど海外で活躍してきた方が日本に戻ってきて、海外流の効率の良いスタジオワークについて、普及啓蒙が進められる状況も見られるようになってきたようですね。
沼倉:そうですね。結婚されて、お子さんが生まれるなど、家庭の事情もあっての帰国というのが従来は多かったと思うのですが、独身や若手の方でも日本に戻ってくる、あるいは海外を拠点にしながら日本の案件も手がけるといったケースも増えているんですよ。
小野:それは興味深いですね。どういった背景があるんでしょうか?
沼倉:大きくは2つありそうです。ひとつは、日本でもハイエンドなCG・VFXを求める案件が増えてきていること。少し前であれば、海外の第一線で活躍するアーティストが存分に腕をふるえる案件は非常にかぎられていたように感じます。シーンリニアやプロシージャルなワークフローというものを取材でも耳にする機会が増えました。
小野:もうひとつは、どういったことですか?
沼倉:海外マーケットを前提としたプロジェクトが増えてきたことです。例えば、ポリゴン・ピクチュアズは『プーさんといっしょ』(2007)をかわきりに、北米のTVシリーズをコンスタントに手がけていますが、新たに『Lost in Oz』を制作中です。ルックだけみれば海外の作品と区別がつかないのではないでしょうか。本作はAmazonが出資し、Amazonプライムで全世界配信が予定されている点も特徴です。そのほかにもポリゴンでは、2017年劇場公開予定の『GODZILLA』プロジェクトも進行中です。日本市場だけで閉じこもっていても、先細りになるだけという共通認識も広がっているので、その他のスタジオでも同様の動きが出てくるはず。まだ数としては少ないですが、海外志向のアーティストにとっても国内で活躍できる場が生まれています。
Lost in Oz: Extended Adventure Official Trailer