<2>「CGWORLD AWARDS」から見た、2016年
小野:去年はリアルタイムCGが注目を集めました。
沼倉:第2回「CGWORLD AWARDS」(以下、AWARDS)のノミネート作品を見てもらえればわかりますが、今年はそうしたわかりやすいトレンドはみられませんでした。リアルタイムCGに関しては、去年に導入や研究が急増し、今年はその実用化が進んだと言えるかもしれませんね。
小野:たしかに、AWARDSのノミネート作品をみると、業界動向がわかりやすいですね。今年で2回目になりますが、簡単に説明してもらえますか?
沼倉:はい。日本の3DCGを中心とした、デジタル・コンテンツ制作現場の活性化を目的とした表彰イベントになります。第1回目は「CGWORLD大賞」という名称で実施したのですが、今年から新たに作品賞と技能賞を設けたことに伴い、名前を改めました。
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第2回「CGWORLD AWARDS」特設サイト
大賞ならびに各部門の最優秀賞は2016年12月26日(月)に発表済みである。
【ニュース】第2回「CGWORLD AWARDS」の大賞ならびに各部門の最優秀賞を発表! 第2回目の大賞に選ばれたのは......!?
小野:ノミネートを見ると、いずれも「CGWORLD」誌面に掲載されていますね。
沼倉:そのとおりです。この企画は、創刊200号を達成した節目の年に日本のデジタル・コンテンツ制作現場を盛り上げるためにやってみようと昨年、見切り発車ではじめたわけですが(苦笑)、今後も継続していくためにもノミネートの基準的なものを設けました。AWARDSは、編集部の独自視点で顕彰するものです。そのため、ノミネート作品も過去1年間に本誌もしくはCGWORLD.jpにて取り上げた作品や取材先に限定することにした次第です。
小野:なるほど、それはわかりやすいですね。その中でも大賞にはデジタル・フロンティア、マーザ・アニメーションプラネット、そして新海 誠さん、榊原幹典さんがノミネートされました。スタジオと個人としてのクリエイターが2組ずつという構成です。
沼倉:デジタル・フロンティアの場合は、4月23日(土)から公開された『アイアムアヒーロー』をかわきりにCG・VFX制作をリードした大作映画が3本立て続けに公開され、まさにビッグイヤーになりました。マーザ・アニメーションプラネットは、昨年Unreal Engine 4ベースで制作した『HAPPY FOREST』に続いて、今年はUnityベースで『THE GIFT』を制作と、2年続けてリアルタイムCGを用いた意欲作を発表しました。ただ、いずれも一朝一夕でつくられたわけではなくて、複数年にわたる活動が結実してこその成果でしょう。大賞は特定の作品やプロジェクトではなく、組織(法人や団体)、個人といった作り手を対象とした人物賞になるのですが、個人としてノミネートさせていただいた残り2組についても同様ですね。
小野:どういうことですか?
沼倉:新海 誠さんが最初に注目あつめたのは、短編『ほしのこえ』(2002)をPowerMac G4上で各種DCCツールを扱い、個人で制作されたことでした。もう10年以上前のことです。先ほどもお話したように、一貫してデジタル技法を巧みに用いることで新海ワールドを追求され続けています。榊原幹典さんも、映画『ファイナルファンタジー(FINAL FANTASY:The Spirits Within)』(2001)の共同監督を務めた後、それから現在まで北米を拠点に活動され続けています。『君の名は。』の大ヒットに隠れてしまいましたけれど、今夏に公開された『ルドルフとイッパイアッテナ』でも榊原さんは共同監督を務めているのですが、日本のフルCG映画としては『STAND BY ME ドラえもん』(2014)以来の興収10億円を突破しました。
映画『ルドルフとイッパイアッテナ』予告2
小野:なるほど。そうした長年にわたる取り組みが一定の成果に達したのが今年、ということでのノミネートというわけですね。
沼倉:少し話題をかえますが、ハリウッド映画が世界を席巻する中で、個々人としては日本のデジタルアーティストたちは海外にひけをとらない、むしろゼネラリストなだけ優れている面の方が多いかもしれないと言われてきました。そうした有能なアーティストたちが協業することで確かな成果を挙げたのが『シン・ゴジラ』だったと思います。同作のCG・VFXワークをリードしたのは白組 三軒茶屋スタジオですが、プリプロではBIGFOOT代表の熊本周平さんがコンセプトアニメーターとして、エフェクト制作では、欧米の著名スタジオでキャリアをかさねてきた米岡 馨さんが起ち上げたStealthWorksが参加しています。予算や規模については大きな乖離がありますが、日本でも「こうすれば(遜色なく)つくることができる」的な、光明が見出せた気がする年になりました。
小野:そのためにはプロデューサーやプロダクション経営者の意識改革も重要ですね。個々のクリエイターとスタジオワークの双方が成熟してきて、成功事例が出てきているはずなので。
沼倉:その通りだと思います。少し前までは、3DCGは何かと手間がかかるし、割高だからと、導入を忌諱する動きもありましたが、映画にかぎらず様々なコンテンツ制作現場が従来型のものづくりの限界に直面しているように感じます。