>   >  日本から世界に向けて、デジタル・コンテンツ表現の戦い方がみえてきた? 〜CGWORLD的、2016年のふりかえり〜
日本から世界に向けて、デジタル・コンテンツ表現の戦い方がみえてきた? 〜CGWORLD的、2016年のふりかえり〜

日本から世界に向けて、デジタル・コンテンツ表現の戦い方がみえてきた? 〜CGWORLD的、2016年のふりかえり〜

<4>2017年にむけて、CGWORLDができること

小野:過去15年間で同じ3DCG技術を用いていても、ゲームと映像コンテンツの勢いが逆転している点が興味深いですね。

沼倉:そこは逆にお聞きしたいところでもあります。3DCG表現の高度化は日本のゲーム開発現場も同様だと思うのですが?

小野:そうですね。ただ、国内のゲーム市場を見るとモバイルゲームが支配的で、コンソールゲームに比べて約2倍の市場規模になっています。一方でモバイルゲームはF2P(基本プレイ無料のアイテム課金方式)が一般的で、売上のためにはミドルレンジのスマートフォンにも対応する必要があります。そのためグラフィック面で尖った表現がしにくいという実情があるはず。「ビジネスモデルがコンテンツ表現に制約をかけている」わけですね。

沼倉:VRについてはどうでしょうか? 2016年は「VR元年」とも言われてましたが......。

小野:VRゲームについては、まさに爆発的な注目を集めましたが、まだまだ普及台数が少ないため、本格的なタイトルが少ないことが課題だと思います。こうした中、2017年1月26日(木)に発売予定の『バイオハザード7 レジデントイービル』が全編VR対応になることで、普及の起爆剤になるのではと期待されています。そう言えば、「東京ゲームショウ 2016」でも注目を集めた『CIRCLE of SAVIORS』がノミネートされているのは興味深いですね。実は本作は韓国最大規模のゲームショウ「G-STAR 2016」にもプレイアブル出展されていたんですよ。最初から海外展開を指向されている点がうかがえます。

《CIRCLE of SAVIORS》 ロケーションテスト 告知動画 (30秒)/ 《CIRCLE of SAVIROS》 30sec PV

沼倉:『CIRCLE of SAVIORS』を開発するPDトウキョウは、いわゆるゲーム開発会社ではなく、OAGや遊技機案件のCG制作に加えWebコンテンツなども手がける総合プロダクションだということにも注目しています。VRコンテンツは実写ベースのものも多く、そうした案件ではIBLを用いたVFXが必要になることから、CGプロダクションの参入も増えると思います。

小野:リアルタイムCGと実写やプリレンダームービーがどんどん融合して、新しい表現が生まれてきていますね。個人的には初代PlayStationでも、デジカメで写真を撮影してPhotoshopで加工し、アドベンチャーゲームの背景に使う手法が流行ったことを思い出しました。あれはまさに、当時のハードスペックやCD-ROMというメディアに適した手法だったんです。VRでも、いろんな業界のクリエイターが集まり、CGプロダクションやデジタルアーティストとのコラボレーションによって、新たな表現が生まれることを期待しています。

沼倉:この記事をご覧の方々も良いプロジェクトがあれば、ぜひ情報をお寄せください(笑)!

小野:そろそろ、まとめにはいりましょう。ゲームの場合、モバイルは国内市場に閉じていて、コンソールは世界市場というのが全体的な傾向ですが、ニッチ市場に特化していて、いずれにしても成熟しきっています。そのためCG・映像業界に比べてゲーム業界は勢いが不足しているように感じられるのかもしれません。こうした中、この両者をつなぐVRから、何か新しい可能性が生まれてくると良いですね。そのためにはクリエイター同士の交流や知見の共有などが求められます。ボーンデジタルでも「CGWORLD クリエイティブカンファレンス」を継続して開催していますし、「CEDEC AWARDS 2016」では、CGWORLD編集部が著述賞を獲りました。

沼倉:かなり無理矢理感のある展開ですが、話をふっていただきありがとうございます(笑)。よく「CG業界」といわれますが、映像業界、ゲーム業界、建築業界などはあっても、CG"業界"って、存在しないんですよ。そうした中、様々な業界を「CG」で横串を通す役割をになえているのであれば本望です。正直、なんでこのタイミングで賞をいただけたのか不思議だったりするのですが......。

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  • 「CEDEC AWARDS 2016」著述賞トロフィー。「本当にありがとうございました。編集部一同、ひき続き精進していきます!」(沼倉)


小野:もともとCEDECは「コンピューター エンターテイメント デベロッパーズ カンファレンス」という正式名称からわかるように、ゲームだけを対象としているわけではなく、CG・映像関連の技術講演も行われています。また、CGWORLDには毎号、ゲームCGの制作事例が多数掲載されていたり、ゲームクリエイターが登場するため、CEDECの掲げる「知見の共有」にも合致しています。こうした点が組み合わさって、著述賞の顕彰につながったのではないでしょうか。

沼倉:そう言っていただけると嬉しいですね。ほかにもCGWORLD.jpでは11月下旬にオンラインショップ「CGWORLD SHOP」を開設しました。現在は、当社の刊行物の販売が中心ですが、デジタルアーティストさんたちとのつながりを活かした、CG制作技術の有料セミナー「CGWORLD + ONE Knowledge」もこちらであつかっています。将来的には動画配信も見こしています。CGWORLDならではの、よそでは得られない、一歩進んだテクニックを紹介できるように心がけています。って、宣伝気味でスミマセン(汗)。

小野:近年では予備校のカリスマ講師の授業ムービーが、月額見放題で視聴できるサービスなどもあり、急成長しています。CG・映像分野でも同じようなサービスができれば、地方のクリエイター育成・発掘にも大きな貢献ができそうですね。今後の展開を期待しています。

沼倉:もちろん、これら全ての展開は、元となる雑誌があってのことです。おかげさまで1998年に創刊後、デジタルアーティストをはじめ多くのクリエイターの方々に愛読いただき、業界内で一定の地位を占めてきました。こうしたブランドに支えられている点が大きいと思っています。

小野:それでは、2017年のデジタル・コンテンツ産業の展望と抱負についてお願いします。

沼倉:冒頭にもありましたが、今年は『シン・ゴジラ』『君の名は。』と大ヒット作が誕生し、CG・VFXの制作現場としてもひき上げられました。2015年よりも確実に発展したと思いますし、2017年もこのトレンドが続くことを期待しています。

小野:0を1にするフェーズが終わって、これからは1を100にするフェーズに切り替わるということですね。成功体験が一度生まれると、業界全体がガッと動くのが日本社会の特徴でもあります。2017年は期待できそうですね。

沼倉:本当にそうなると良いですね。編集部としても、業界の一助になれるように、ひき続きがんばります。今年もふりかえりにお付き合いいただきありがとうございました!

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Profileプロフィール

沼倉有人/Arihito Numakura(CGWORLD)

沼倉有人/Arihito Numakura(CGWORLD)

1975年生まれ、東京都出身。1998年3月に早稲田大学商学部を卒業後、(株)トーメン(現(株)豊田通商)に入社。エネルギープラントなどのインフラ営業に携わった後、一念発起して映像業界へ。2000年4月より(株)東北新社のオフライン・エディターとして、CMやVPの編集を手がける。主な参加作品は、YKK ap『EVOLUTION』VP(2004年度文化庁メディア芸術祭優秀賞受賞)、第一生命『第一でナイト(2代目ファミリー)』シリーズ、スキマスイッチ『君の話』MVなど。2005年10月にCGWORLD編集部に加わり、2012年7月より現職。

小野憲史/Kenji Ono

小野憲史/Kenji Ono

IGDA 日本名誉理事・事務局長。DiGRA JAPAN 正会員。関西大学を卒業後、1994年に株式会社マイクロデザイン(現・マイクロマガジン社)に入社。『ゲーム批評』編集部に配属され、同誌の創刊から参加。1999年に編集長となり、2000年に退社。以後フリーランスのビデオゲームジャーナリストとして幅広く取材・執筆活動に携わる。IGDA日本には初期から運営協力し、2011年に代表就任。2012年の法人化と共に理事長となり、2016年より現職。ほかにゲームライターコミュニティ代表など、様々なコミュニティ活動にかかわっている。著書・編著に「ゲームクリエイターが知るべき97のこと2」などがある。
facebook.com/kenji.ono1

スペシャルインタビュー