<6>映画制作に転身、エキストラでもアピール
CGW:それで、ビジュアルワークス部を辞めてフリーになって、studio picapixelsとして法人化されて5年経ちましたね。
帆足:映画『SPACE BATTLESHIP ヤマト』が7年前なので、やめてそれくらいはたっているんですよね。
CGW:『ヤマト』はフリーランスで参加されたんですか?
帆足:実は当時はまだビジュアルワークス部にいて、帰ってから自宅で作業をやっていました。やっぱり映画制作に参加したかったんですよ。
CGW:なるほど。
帆足:ちょうどスクウェアUSA時代に隣に座っていたのが、いまマットペインターとして活躍されている林 隆之さんで。林さんって山崎 貴監督と阿佐ヶ谷美術専門学校つながりなんですよ。僕が帰国した頃はまだ、山崎監督も映画『ALWAYS 三丁目の夕日』を撮る前で。林さんが紹介してくれるっていうんで、一緒に食事をしたりしました。
CGW:そんなつながりがあったんですね。
帆足:そうですね。山崎監督って、できる人にフランクに仕事を頼みたがるんです。すぐに依頼が来て、その時は自動車をちょこっとつくりました。ビジュアルワークス部に入ってすぐのころだから、2007年だったかな。
CGW:そこで面識ができて。
帆足:もっとも、その時はちょっと会って食事しただけだったんで、山崎監督もあまり覚えてなかったと思うんですね。そこで山崎組のエキストラに応募して、何度も現場に参加して、アピールを続けました。
CGW:3DCGを活かした映画制作に参加したいと思われたんですか?
帆足:それもありましたけど、そもそも山崎監督の人柄がおもしろかったので、仲良くなりたかったんです。人って、そんなに用事もないのに会わないじゃないですか。まだ飲みに行くという関係でもなかったし。それで『ALWAYS 三丁目の夕日』の第一作からエキストラに出て、なんとなく顔と名前を覚えてもらって、映画『BALLAD 名もなき恋のうた』にもエキストラで出て。朝6時に房総半島の先っちょのロケ地まで、会社を休んでいったのかな。
CGW:学生時代にスーツアクターをやられていた経験がここで生きるわけですね。
帆足:その頃にはけっこう仲良くなっていたので、ちょんまげ姿のまま別室に連れていかれて、今度これをやるんだけどって、ラクガキ帳みたいなのを見せられたのが『ヤマト』だったんです。
CGW:そんな経緯があったんですね。
帆足:ただ、もちろんエキストラだけではダメで、そこで3DCGもやってることをアピールしつつ。たぶん本気でためされたのは『K-20 怪人二十面相・伝』(2008)(※7)の最後に出てくるでかいメカを、デザインこみでつくった時ですね。最初はモデリングだけお願いされたんですよ。あれはきっとテストだと思うんですが。それで結構いい結果が出せて。それで『ヤマト』につながって。そのあたりから、なんとなくstudio picapixelsが始まりました。
※7:本作には山崎氏も「脚本協力・VFX協力」として参加していた。
『BALLAD 名もなき恋のうた』(2009)撮影現場にて。このときに映画『SPACE BATTLESHIP ヤマト』(2010)のスケッチを特別に見せてもらったのだとか
CGW:『BALLAD 名もなき恋のうた』って2009年ですよね。他に映像系の仕事はされていたんですか?
帆足:最初にやったのは映画『妖怪大戦争』のお手伝いで、まだEAジャパンスタジオにいたころです。林さんの紹介でワンダリウムの河田成人さんにお会いして、モデラーが足りないっていわれて手伝いました。その後もたまにお手伝いをしていましたね。
CGW:山崎作品以外でエキストラをやられたことはあるんですか?
帆足:樋口真嗣監督とお近づきになりたくて、映画『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』(2015)にエキストラとして参加しました。最近ではよくご飯を食べに行く仲です。
CGW:まさにセルフプロデュースですね。
帆足:やりたいことに頭を突っ込んでいっただけですよ。目立ちたいからじゃなくて、純粋にやりたかったから。結果的に先方の印象が良くて、次に繋がったのではないかと。
CGW:実力があっても相性が合わないと続きませんし、そこは人徳ですね。
帆足:どうでしょうか(笑)。
『海賊とよばれた男』(2016)では、大日本帝国空軍の戦闘機パイロットのエキストラとして参加
<7>人生で一回くらい社長をやってもいい
CGW:studio picapixelsとしての原点が『ヤマト』だったとして、法人化のきっかけは?
帆足:ずばり、税金対策ですね。消費税って個人だと2年間は支払いが猶予されるじゃないですか。うっかり2年経ってしまったんですよ。その時に法人にすればあと2年払わなくても良いと言われて。それにNHKさんみたいに法人にしないと仕事ができないクライアントが出てきて。一生に一度くらい会社を経営してみてもいいかなと。あとは信頼が増えるのもあるし、何かそれまでやったことがなかったことをやってみたかったのもあるし。
CGW:それで法人化して5期目ということですね。フリーの時代と何か違いはありましたか?
帆足:お金の計算とかが大変ですよね。3DCG制作とは頭の使いどころがまったく別ですから。全部自分でやっています。
CGW:今後はどうなんですか? いろんなワークスタイルが許容される時代にもなってきましたが......。
帆足:同じことを長くやり過ぎている感じはしますね。ずっとやっていると、似たような色が出てくるんですよ。だから何かの転換期に来ているんだと思います。でも、それがなにかわからなくて、今はまだ模索中です。今までのように、やりたいことがパキッとあれば、そっちに行くんですが、やりたいことは一通りやっちゃったので。それこそ、だから明日死んでもいいかなみたいな。
CGW:オリジナルをつくるのは?
帆足:それも考えていることのひとつです。今一番やってみたのは小林和史さんのメカトロウィーゴみたいなことですね。
CGW:確かに、メカモデリングとフィギュア造形は相性が良いように感じます。
帆足:小林さんが本当に好きで、淡々とやっていたものが、小林さんの人柄と、人脈で広がったわけで。小林さんも元々3DCGとプラモの人だから、僕と近いんですよ。
CGW:3Dプリンティングについてはどうですか?
帆足:そっちも興味がありますね。まだ触ったこともないですが。この前オートデスクのイベントで自分のデータを出力してもらったのが初めてです。でも、まだ出力したものを見たことがなくて。
CGW:忙しかったからですか?
帆足:それもありますし、自分の周りにそういったことをしている人が少ないというのもありますね。それもあって、先日プロモデラーの飲み会に参加してみたんですよ。皆さん、けっこう3Dプリンタに目が向いていて、驚きました。自分でモデリングして、ガンダムをそのまま出力したりして。市販品くらいのクオリティは出ていましたね。ただ、材料費が40万円くらいかかったとか言ってました。これは......買った方が安いなと。
CGW:帆足さんだと、原型師的な立ち位置になるんでしょうか?
帆足:そのあたりはまだ漠然としているんですが、要するに何かキーになる人に出会えてないんですよね。映像では山崎さんとか。3Dプリンタをやっている知り合いもいますけど、キーになる人がまだいないんです。
CGW:コンセプトデザイン的な仕事も増えていますよね。
帆足:最近は多いですね。ありがたいことに、CMを中心にデザインワークから担当させてもらえる仕事が増えてきています。
CGW:それは意識してそう動かれているんですか?
帆足:人づてで、あの人が良いんじゃないってことになるんじゃないですか。この前やった仕事も交流のあるデジタルアーティストの方が広告代理店の人に「この人ならいい」って推薦してくれたみたいで。デザインからやらせてもらいました。そうやって実績をかさねてきたことで「帆足ならデザインこみでやれる」という話が回っているみたいです。映像作品は敷居が高くて、ホントのデザイナーじゃないと入れてもらえないですが。
CGW:職種が確立されていますからね。デザインは独学ですか?
帆足:それをいうなら、3DCGも独学ですけどね。
『寄生獣 完結編』(2015)では、警視庁SAT(特殊急襲部隊)役として参加
<8>人との出会いが自分をここまで連れてきてくれた
『寄生獣 完結編』(2015)撮影現場にて、山崎監督とのツーショット
CGW:デザイン系の方に広げていきたいとう思いはありますか?
帆足:広げていきたいですね。受注仕事だけだとどん詰まりになっていくので、権利モノがあれば良いですね。
CGW:デザインこみの仕事だと、CMからですか?
帆足:『ヤマト』もデザイン込みといえば、そうでしたね。ラフのイメージ画を提供していただき、そこから自分で考えて3DCGに起こしていくというスタイルは、『ヤマト』から始まっています。自分の知るかぎりでは当時、そういうことをするCG屋さんって、ほとんどいなかったんですよ。三面図がないとダメとかね。
CGW:少し前から講演とかセミナーにも登壇されていますよね。後身の教育みたいなことを考えられたりしますか?
帆足:次を担う人は若い人たちなので、なにかしら交流は持っておいた方が良いと思いますね。
CGW:飲みの誘いでも仕事の誘いでも断りませんか?
帆足:自分にとって大切な人が危篤とかじゃないかぎりは行くと思います(笑)。人との出会いが僕をここまで導いてくれたので、それはやめちゃいけないですね。
CGW:体力が続かないな、年を取ったな、と感じられることはありますか?
帆足:たまにありますね。具合が悪くなったりとかはないですが、手が震えているときがありますよ。
CGW:スーツアクターみたいな仕事をまたやってみたいという思いはありますか?
帆足:あるにはありますよ。スクウェアに入ってからもキャプチャアクターは何回かやっています。ただ、もう現役ではないですし、体が動かないですよ(笑)。
CGW:逆に一緒にやってみたいクリエイターさんとかいますか?
帆足:異業種の方とはもっといろいろとコラボレーションしていきたいですね。もっとアート寄りの人とか。
CGW:海外の仕事はされませんか?
帆足:海外の映画制作に外部から参加するのは、なかなか難しいんですよ。機密保持が厳しくて、フリーにいきなり出せないんですね。やるなら向こうに行かないとダメで。やりたいのはやりたいですけどね。
CGW:英語を意識して忘れないようにするとか?
帆足:それはしてませんが、いざ喋るとなったら、ある程度はできますね。もっとも、メチャメチャな文法ですけど。台湾に行くと、向こうの人の英語のレベルが僕とちょうどいいんですよ。なぜか互いに通じるという。
CGW:今年から台湾でも活動されていく予定だと聞きました。
帆足;そうなんです。AURASという、今年1月20日に設立したばかりの台湾は台北市に拠点をかまえる3DCGスタジオの外部取締役になりました。アート全般を見る立ち位置になると思います。すでに日本の大手ゲーム会社から外注の仕事が決まっています。モデリングとテクスチャの受注からはじめて、ゆくゆくは全部受けができて、将来的にはオリジナルがつくれる会社にしていくつもりです。
CGW:studio picapixelsで社員を雇うといったことはありますか?
帆足:僕は現場が好きなんで、なかなか。バジェットの大きい仕事が来るようになれば考えますが、そういう時ってたいてい、みんながやりたくない仕事がだーっと、来るんです。決して映画の主役になるプロップの仕事は来ないんですよ。そういうのがあれば、やりがいもあるんですけどね。
CGW:最後に〆のメッセージではありませんが、この記事を読んでくれた方にひと言お願いします。
帆足:好きなものを好きなままでいることを諦めないでほしいですね。ホントにやりたいんだったら、そっちの世界に少しずつでも飛び込んでいった方が良いと思います。最初はひとりでも、だんだん仲間が増えたり、仲間と知り合ったり、いろいろあると思うんで。若いうちから、あまり将来のことは考えない方が良いんじゃないでしょうか。
CGW:たしかに、東芝のような日本を代表する大企業が経営危機に直面するなんて、誰も思ってなかったですしね。でも、それは帆足さんだからできるんだよって言われるかもしれませんが。
帆足:実際、よく言われます。でも、そう言われてしまうと......そもそもクリエイターって何だって話になってしまいますからね(笑)。
帆足氏の作業スペース、自宅の一角に設けられている。2012年2月に法人化しているが、今のところは個人として活動しており、案件に応じて外部パーティーの協力を得ている