>   >  第2回「CGWORLD AWARDS」大賞記念|「CG・VFXに興味をもたない人たちにも観てもらうために。」デジタル・フロンティア/豊嶋勇作プロデューサー
第2回「CGWORLD AWARDS」大賞記念|「CG・VFXに興味をもたない人たちにも観てもらうために。」デジタル・フロンティア/豊嶋勇作プロデューサー

第2回「CGWORLD AWARDS」大賞記念|「CG・VFXに興味をもたない人たちにも観てもらうために。」デジタル・フロンティア/豊嶋勇作プロデューサー

<3>DFの強みとは? 

ーーDFさんが強いなと思うのは、総合力です。アニメ、実写、ゲームムービー、遊技機といった幅広いジャンルで活躍されていますよね。

豊嶋:それはまちがいなく強みと言えます。様々な案件を手がけてきて良かったなと思うのは、リアルタイムレンダリングにも対応できている点です。昔はゲームはリアルタイムレンダリング、映像作品はプリレンダリングと明確に分かれていました。映像作品をつくる立場からは、リアルタイムで動く3DCGに対して壁があったんです。しかしDFがリアルタイムCGの制作も手がけていたおかげで、『DEATH NOTE』のTVドラマ(2015)では、多少の強行突破はありましたが、Unreal Engine 4を用いることで、3DCGキャラクターが介在するVFXを毎週40カットも作成し続けすることができたわけです。制作ツールについてはあまり固定観念がないので、映画の中でもUnreal Engineを使ってくださいと言われる場合があります。現場のアーティストたちには抵抗されますけれどね(笑)。

ーーリソースも効率的にふり分けられているのでしょうか?

豊嶋:様々な作業をこなすことができれば、いずれかの需要が減少しても影響を抑えることができます。プロダクションによってはアニメチーム、3DCGチーム、遊技機チームとジャンルや表現に応じて作業者をきっちり分けていることもありますが、DFではそうしたことはあまりやっていませんね。現場では「実写はやったことはない」とか「アニメはやったことがない」という声が上がることもありますが、最初のうちだけです。なので、仕事を振る際には、きっちりと作業を振り分けるということはしない方が良いと考えています。

ーー経営上のポートフォリオ的にも良い影響をもたらすのでしょうか?

豊嶋:それはないですね。『アイアムアヒーロー』のような作品を手がけるとなれば、200名いるスタッフのうち100名ほどは必要になりますし。2017年で言えば、実写の仕事がとても多くなるので、そうした波は避けられないと思っています。

ーー現在の3DCG業界について、昔、想像していた未来とちがうなと感じることはありますか?

豊嶋:もっと変化していると思ってましたね。それからDFで言えば、もっと早く海外に進出しているイメージでした。フルCGであれ、実写VFXであれ、日本国内だとやはり限界がありますから。もう少し大きな作品も手がけてみたいという気持ちがあり、海外に出たいという気持ちは変わらずもち続けていますよ。

ーー海外と言えば、台湾とマレーシアにもスタジオを設けていらっしゃいますが。

豊嶋:実はマレーシアのFly Studioは、先日、元のオーナーに売却しまして資本的なつながりはありません。ですが、現在もビジネスパートナーとして共同制作を行なっているプロジェクトもありますよ。最初に進出した台湾の「集拓聖域股份有限公司 DIGITAL FRONTIER (TAIWAN) INC」は中華圏の窓口、マレーシアはインド・東南アジアの窓口という位置づけでした。現地に進出した方が人材も集めやすいだろうという考えもあったので。ただ日本よりも人件費は低いのですが、やれることには限りがあり、管理費を考慮するとかえってコスト高になってしまう傾向にありました。また、世界標準で見ると海外のCGアニメーションはキーフレーム(手付け)が主流で、DFが力を注ぐキャプチャベースはメジャーではないことがわかりました。内部にキャプチャスタジオもかまえるDFの制作スタイルって、実は珍しいんですよ。

ーーそうなんですね。では、逆に日本人アーティスト主体でつくるメリットはどんなところでしょうか?

豊嶋:単純に、その方が楽(効率的)なんですよね。ある程度作業をわりきってしまえば海外で......という選択肢もあるのかもしれませんが、一定のこだわりをもって制作しようとすると、文化も異なるので、やはり難しい面が多々あります。

ーー国内でのパートナー戦略はどのように進められていますか?

豊嶋:例えば規模の大きな作品で、多くのスタジオが制作を分担していて、それをひとつのスタジオが束ねる......といった仕組みがありますが、そういった制作体制は避けたいと思っています。映画をつくるときにブレイクスルーしなければいけない課題があって、R&Dも進めなければいけないときに、制作陣が分散していたのではワークフロー的にも目指す表現的にも難題が出てきてしまうのです。そういった意味でも、各スタジオに作業を振り分けるだけの仕事はあまりやりたくないです。もちろんDFだけでは不可能な物量が求められる案件を外部と連携していくということは積極的に行なっていきたいのですが、それありきというのは避けたい。基本的には自分たちで制作していきたいと考えています。



<4>DFの未来

ーー現在、注目を浴びているVRやAR、MRといった新しい分野についてはどうお考えでしょうか?

豊嶋:前向きに考えています。現在は収益化の筋道が見えていないものが多いのですが、そうした段階から投資をしておく必要がある。ただ、これから来るのがVRなのかARなのかもまだ見通しがついてはいません。

ーーVRを実写映画やアニメに積極的に導入されることは考えていますか?

豊嶋『GANTZ:O』をVRでもつくっていれば良かったとは思いましたね。例えば、家で楽しむ360°シアターといった考え方もありえます。

ーービジネス的にはどうお考えですか?

豊嶋:現在のVRなどのブームは、収益モデルが見えていない状況ですが、今後もマーケットが成長していくと思います。どこかでバーンとお金が集まる瞬間が見えたときに、みんなそこに集まるんだろうなと。問題はインタラクティブが実写やアニメにどう有効に働くかという点ですね。ゲームではインタラクティブが有効に働きますが、観客としては一方的に送り出されてくるものを観る方が気軽に楽しめる、という面もあるはず。そうした中で、ある世界に没入できるということに、観客から何らかの反応が出てくると思います。例えばキャラクターが自分に寄り添うとか、物語のインタラクティブ性ではなく没入感を表現できるわけですから。

ーーDFさんが、今後、取り組むべき課題は何でしょうか?

豊嶋:ふたつあります。ひとつはやはり海外での成果をどう上げるかという点です。アメリカでの成果については、今すぐ結果を求めていません。2015年に発表したユニファイド・ピクチャーズとの共同製作となるフル3DCGアニメ『吸血鬼ハンターD』は、インディペンデントということもあり、腰をすえて少しずつ進めていくというスタンスです。逆に近い将来、自分たちが動くとすると、中国で何か作品をつくることかなと思っています。それは実写VFXもフル3DCGも、どちらもありきで考えています。

ーーもうひとつは?

豊嶋:もうひとつは、DFの掲げているスローガン「ファクトリーからスタジオへ」ということです。これは「自分たちの意思をもって(主体的に)作品をつくる」という意味です。現在はどうしても誰かが考えたものを受注して制作するという面が大きくなりがちです。そうした中で「これをやりたい」と自分たちの意思でつくったものを多くの人が観てくれたら良いなと考えています。できればIPも保有したいと考えているので、大きな課題ですね。

<5>豊嶋氏の考える3DCGの未来

ーー豊嶋さんご自身は現在の日本のCG・VFX制作現場をどう見ているのですか?

豊嶋:今、映画を観る人は減ってきているのではないでしょうか。映画を観る人、ゲームで遊ぶ人、ソーシャルゲームで遊ぶ人、TVアニメを観る人......と、分散しているせいかもしれません。そのため、われわれが手がけるジャンルは広がっているのですが、ひとつひとつが薄まってきています。分散しているがゆえに、大きくお金をかけられるものもない。そうした状況下で『君の名は。』が興収200億円を突破すると(※日本映画製作者連盟が2017年1月に公表した興収は235.6億円)、お金を出す人の多くがアニメに偏ってしまう。こうした傾向に拍車がかかってしまうことが心配ですね。監督だけでなくプロデューサーが「自分たちは、こういった作品をつくるんだ」と意志をもって、収益モデルも考慮しながら幅広いプロジェクトにお金を投下していかないと、業界がどんどん縮小していくと思います。

ーーただ、アニメにかぎらずCG・VFXはますます使われるようになっていますから、DFの存在感は増していくように思えます。

豊嶋:確かに、実写やアニメで3DCGが使われることは増えています。ただ予算がかけられる作品は増えていないんですよね。日本の3DCGはアニメの中でしか生き残れないのではないかもしれないと思うときもあります。ゲームにしても、スマホのゲームはコンシューマーゲームほど予算をかけられるわけではありませんから。

ーーCGアニメーションには、先ほどの話にもあったキーフレームベースと、DFさんが得意とするキャプチャベースのもの。また、ルックについては日本で盛んなセル調、海外で主流の3DCG本来の特性を活かしたフォトリアルなものといった具合に多種多様な表現が存在します。これらのバランスは、今後どうなっていくとお考えですか?

豊嶋:DFとしては、『GANTZ:O』のような表現を1ジャンルとして定着させたいと、長年がんばっています。その一方で、コアなファンではなく、一般の方々にも受け入れてもらえやすい作風のものにもキャプチャを使っていきたいという考えもあります。この手法は広くリーチできる可能性があると思っているんです。もちろんセル調のアニメCGについても細田 守監督の『おおかみこどもの雨と雪』(2012)や『バケモノの子』(2015)といった作品にも継続して取り組んできました。DFとしては特定の業界や表現に限定せずに活動していきたいと一貫して考えています。

ーー「CGWORLD AWARDS」大賞の受賞理由として、リアル系CGアニメーション表現を、さらに発展させたことが挙げられました。最後に近い将来の目標をお聞かせください。

豊嶋:そうですね。ただ、数多のエンターテインメントの中から多くの人たちに選んでもらうには、さらにもう一段上の視点も必要だと考えています。CG・VFXの技術力は着実に上がってきていますから、これからはマーケティングやプロデュース面でもがんばって、ヒット作をつくっていきたいですね。3DCGが好きという人でなくても観てくれるような作品を目指していきたい。DFが取り組んできた表現技法の延長では『ミニオンズ』のような作品。もちろん日本を拠点にCGアニメーションをつくるのであれば、やはりアニメの表現様式に沿ったものをやるべきだと思います。スタジオジブリのような世界観のフルCG作品をつくれたら驚かれるとかあるかもしれないですね。

info.

  • 「第2回 CGWORLD AWARDS」 CGWORLD編集部による日本の3DCGを中心とした表彰イベント。第2回の各部門の受賞者/作品は、こちらから。

    cgworld.jp/special/awards/2016/

Profileプロフィール

豊嶋勇作/Yusaku Toyoshima

豊嶋勇作/Yusaku Toyoshima

デジタル・フロンティア専務取締役、プロデューサー、CGプロデューサー。1995年より3DCG制作に携わり始め、2000年、デジタル・フロンティア入社。2010年、専務取締役就任。
www.dfx.co.jp

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