>   >  劇団☆新感線の舞台を"映画として"楽しませる。「ゲキ×シネ」プロデューサー・金沢尚信
劇団☆新感線の舞台を"映画として"楽しませる。「ゲキ×シネ」プロデューサー・金沢尚信

劇団☆新感線の舞台を"映画として"楽しませる。「ゲキ×シネ」プロデューサー・金沢尚信

映像を活かすも殺すも音次第だとハリウッドで気づかされた

ーーこれまでの「ゲキ×シネ」の映像制作において様々な工夫をされてきたかと思います。具体的にはどのようなことがありましたか?

金沢:最終的なイメージはありましたが、この10年は機材やデジタル技術の変化と向上が著しい時期でもあり、勉強しても勉強しても次々に新しい技術が登場するので、追いつくことに必死でした。「ゲキ×シネ」では舞台演出とは別に映像監督を立てているのですが、監督自ら編集していた時期もありました。現在は編集を別に立てています。劇場向けのカラーグレーディングも最初は予算の都合で行わなかったのですがちょっとしたきっかけで、『朧の森に棲む鬼』(2007)から始めたところ効果的で、そこからポスプロのワークフローに組み込んでいます。

最新作『乱鶯』(2017)グレーディング例(※右図がグレーディング作業後)
©Village Inc.

ーー映画特有の技法をどんどん採り入れているわけですね。

金沢:音響にも力をそそいでいます。ですが、映画とはいろいろと異なる面があるので試行錯誤をくり返しました。ピンマイクは整音しますし、フットステップの音を足したり、剣戟(チャンバラ)の音を本物の刀の効果音に変えたり、空気感を加えたりもしています。舞台で観る分には臨場感があるので問題ありませんが、映像でアップで観る分にはもっと生々しい音が必要と考えました。緊張感を高めるために金属質な音を入れたりとか、剣のストローク音を長くして殺意を表現するといった、音による演出を意識して行なっています。

ーーあくまで映像で観ることを念頭に置いた映像作品としてつくられているわけですね。

金沢:はい。『髑髏城の七人 2011』(2013)の製作を終えた頃、サウンドの石坂さんと「今度は海外でミックスやってみたいね」なんて話をしていまして、彼がいろいろとあたってくれて。それでハリウッドで『007 カジノロワイヤル』などを手がけたリ・レコーディング・ミキサーのマイク・プレストウッド・スミスと出逢うことができたのは大きかったです。彼にやっていただいた『シレンとラギ』(2013)では一気に音の品質が上がって、音楽ってこんなに綺麗に出せるんだと驚きました。あのときは日本のサウンドチームが素材を全てつくって向こうのサウンドステージに入ったのですが、向こうは向こうで演劇を映像化したことがなかったので、日本語・英語が飛び交うなか、必死で作業を行なっていきました。

金沢:最初はダイアローグ音がちょっと聞き取りづらかったんです。それは日本語と英語の発音で立てる音のちがいによるものだと思います。なのでその都度「このワードの明瞭度をあげてください。」と修正作業をお願いしていたのですが、『ZIPANG PUNK~五右衛門ロックIII』(2014)で、また制作したときには綺麗に日本語を出してきて(笑)。思わず「日本語話せるんだっけ??」って(笑)。まったく話せないのに、日本語のダイアローグを聞かせるためのアプローチは完璧。そのプロフェッショナルさには本当に驚かされました。

ーー伺っていると、映像作品に占める音の存在の重要さを改めて思い知らされます。

金沢:音の力ってすごくて、いくら良い映像をつくっても音でダメにしてしまうことがありうる。日本だと予算をきちんと割り振られていないせいで、そういう目に遭っている作品はいくつもあると思います。でもきちんと手間をかけ、お金を割り振ることでこんなにも生き生きと見えてくる。僕は映像の音って絵画で言う額縁だと思ってます。額縁が貧相だとたとえその絵が本物であっても偽物っぽく見えてしまう。映像と音の関係ってそういうことなんだろうなと。本当に彼らの仕事っぷりは凄かったです。音は音楽モノだとトラックが70チャンネルとか80チャンネルになったりしますが、それが調整する度に良くなっていくんです。彼らとしては自分にできる100%のパフォーマンスをするという考え方だから、決してNOとは言わない、「僕だったらこういう風にできる」と提案をしてくるプラス思考なんですよね。これはもっと日本の現場は学ぶべきだと思います。

ーー先ほどの体系的に学ぶ場がないという話に関係してきそうな話ですね。

金沢:クリエイティブの仕事って、NOと言ったらそこで終わりなんですよね。言うのは簡単だけれども、投げられた球をどういう風に自分だったら打ち返すかということを考えなくてはいけない。確かに、現状日本の現場はお金も時間もないし、いろんな制約があるからやむを得ないところはありますが、それでももう少しどうにかしなくてはいけない。ロサンゼルスの映画祭で特にショックを受けたのは、アメリカのオーディエンスから観た日本映画の評価の低さでした。いわく、映像表現もカメラの色合いも音もチープであると。そんななか、ありがたいことに「ゲキ×シネ」については評価をしてくださって、映像技師の人までQ&Aに参加して「カメラはどうやって隠しているのか」と質問してくれたりもしました。そういったスタッフも惹きつけられたのは嬉しかったですね。

最新作『乱鶯』(2017)グレーディング例(※右図がグレーディング作業後)
©Village Inc.

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経理マンから映像プロデューサーへ

Profileプロフィール

金沢尚信/Takanobu Kanazawa

金沢尚信/Takanobu Kanazawa

株式会社ヴィレッヂ 取締役、『ゲキ×シネ』プロデューサー。1969年生まれ。2001年、「映像単体で楽しむことができる演劇の映像」というコンセプトのもと、E!oshibai(イーオシバイ)のブランドを設立。劇団☆新感線を中心とした演劇の映像制作を、現在までに30作品以上手がけている。また、映画館でのこれらの作品の上映を目指した"ゲキ×シネ"企画を2003年にスタート。デジタルシネマの規格に対応した映像制作にいち早く取り組み、ゲキ×シネ全作品のプロデューサーを務める。
www.geki-cine.jp

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