経理マンから映像プロデューサーへ
ーー映像業界全体として今後4Kや8Kといった高解像度にどう向きあうかという課題を抱えていますが、「ゲキ×シネ」の場合はいかがでしょうか?
金沢:解像度の問題は非常に悩ましいですね。というのも、映画のように完全に設計されているものではなく、あくまでライブの舞台を撮るものですから、照明もメイクも舞台にとって最適なものを考えざるを得ません。それを高解像度で撮影すると見えなくてもいいものが見えてしまったりして、それを消すという本末転倒な作業を行なわなくてはいけなくなります。それにまだ4Kのポスプロのワークフローが確立できていませんし、コストが高い割には、上昇分を実感できないので、様子見というかたちになりますね。邦画で一時S3D(立体視)もありましたが、国内ではほぼ撤退していますよね。新しい技術に飛びつくよりも、どういう映像をつくりたいかが大事で、機材はそのために必要なものを使うべきだと思います。
最新作『乱鶯』(2017)グレーディング例(※右図がグレーディング作業後)
©Village Inc.
ーー金沢さんはヴィレッヂに入社する以前も舞台や映像に関わられていたんですか?
金沢:いえ。僕はヴィレッヂに経理として入社したんですよ(笑)。大学も商学部で簿記の資格を取っていたので会計事務所に入ってWebの会社に行ったりもしました。一般的にプロデューサーは予算組みに頭を悩ますわけですが、僕の場合は会計の仕事で数字の感覚が染み込んでいたので、意外と苦痛がなかったんです。その意味では楽をしましたが、それまで映像の学校にも通っていませんでしたし、映像製作の知識もなかったので、「ゲキ×シネ」をやるにあたって1から専門的な勉強をしました。今振り返ると、逆に映画の業界のことも知らなかったからこそ、常識とか習慣に縛られることなく良いものをつくることに集中できたのかなと思います。「ゲキ×シネ」は最初からデジタルでしたが、その前にフィルムを勉強していたら移行のことを考えて迷っていたかもしれません。
ーー現在は「ゲキ×シネ TIME」として過去の作品を全国各地で上映していますね。
金沢:こちらとしても驚くほど多くのお客さんに来ていただいています。公開期間を決めているので、みなさんそこを目がけて来てくれたり、これまで観たことがなかった「ゲキ×シネ」の作品をこの機会にと考えてご覧いただいています。「ゲキ×シネ」の当初の目標は上映して舞台を擬似的に体験していただくことで、それまで演劇を観たことがなかった方を劇場に呼ぶことでした。ぜひ観劇につなげていただければと思います。
ーー今後、「ゲキ×シネ」としてやってみたいことは何ですか?
金沢:「ゲキ×シネ」は当初、劇団☆新感線以外でもやりたかったのですが、予算の関係や映画館でかけたときに映える作品になかなか巡り会えずにいます。とはいえ、今でも機会があれば挑戦したいと思っていますし、お話をいただくこともあります。海外で「ゲキ×シネ」を観た人が自分の国でもかけたいとおっしゃっていただくこともあります。日本の映画はどうしても国内向けになっていて、海外ではなかなか買い手が見つからないという状況ですが、「ゲキ×シネ」はもう少し国境を越えたいなという気持ちはありますね。
ーー逆に海外の舞台を「ゲキ×シネ」にするというのはいかがでしょうか?
金沢:その気持は強くあります。舞台の設計から撮ることを前提にして設計して、映像化までやってみたいですね。舞台を観て面白かったものを映像で観るとさらに別の種明かしがされて面白い見方ができるような作品や、アナザーストーリーがちょっと入っているなど舞台だけだと見えなかったものが映像で見せられたら面白いなと思います。ピナ・バウシュ(ドイツのダンサー、コレオグラファー、1940~2009)の映像作品って、舞台の枠から出て劇場の外で踊ったりするんです。あれを観たときはすごく嫉妬しました。「こういうのやりたかったのに!」って。我々は普段、太陽の下で撮影をすることがないので、光を浴びるような撮影ができたら良いなと思います(笑)。その場合、たぶんミュージカルが一番面白いんでしょうね。
最新作『乱鶯』(2017)グレーディング例(※右図がグレーディング作業後)
©Village Inc.
info.
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「ゲキ×シネ TIME」
好評上映中(木)
www.geki-cine.jp/gekicinetime
※各上映館の「スケジュール」は「ゲキ×シネ」サイト内にリンクしている。随時更新されているが、最新情報は各上映館へ直接、問合わせを。
※2017年10月より新たに2館が追加された。上映館は順次拡大予定。