<2>現象のしくみと人間が観察するポイントを知り、求める画に応じてコントロールする
ーー良いエフェクトをつくるための普遍的なコツ、欠かせない要素は何でしょうか。コツは、ゼロからつくろうとしないことです。ゼロからつくろうとする人の中には「何かを参考にしたら自分のオリジナルじゃない」と考えがちな人もいますが、どんな創作物であっても、制作者の生まれ育った環境や好きなもの、過去の作品等、必ず何かに影響されています。ゼロから自分の想像だけでつくるのは無理なのです。それなら、まずは今まで観たものの中から格好良い、怖い、迫力がある、など自分が感じた印象を制作に落とし込めるよう積み上げていくのが本当の意味でのオリジナリティだと思います。
良いエフェクトは音がついていなくても、見ているうちに自然に音が聞こえてきます。それはおそらく映像とタイミングや規模、デザインが合った瞬間でもあると思うんです。現実世界を観察すると、雪や葉っぱがヒラヒラと落ちるとき、その動きだけで雪なのか葉っぱなのかがわかります。ただの円状の衝撃波のエフェクトでも、消え際のタイミングや広がり方で、衝撃の強さや余韻の印象が変わってきますので、見た目の形や色ももちろん大事ですが、動きも欠かせない要素と言えます。
僕はエフェクト制作の最初の段階で、ラフな素材に動きをつけて確認するようにしています。それをせずに制作を始めると、どこかおかしな映像になってしまいます。爆発の場合は、あらかじめスケール感や爆発の勢い、破片の回転等を決めた上で、ディテールを詰めていきます。
格好良さを突き詰めるには、破片の大小や質感、照り返しの有無、煙の消え方等にも配慮します。消え方はその映像に合わせて、少し残った方がいいのか、すぐに消えた方が良いのか。ディレクターと相談しながら振る舞いを調整し、気持ちの良いタイミングを探っていきます。エフェクトはこういった要素が全て合わさって説得力や迫力を生むものなので、どの要素も気が抜けません。
ーーどんな映像素材を見て学ぶのがオススメですか?格好良い映像のエフェクトを観ることももちろん大事ですが、ただ観て「格好良いね」だけで終わってしまうのは良くないです。実践で参考になるという観点から言うと、チュートリアルやデモリール、ブレイクダウン等を観て、どういう素材分けで映像がつくられているのかを観察するのが良いと思います。
ーーリファレンス動画の集め方、検索のコツなどあれば教えてください。参考となる映像は普段から集めています。チームで共有して、いいねと思う人が多いとその映像の要素を次回から採り入れたりもします。動画素材は手元に200〜300くらいあります。先ほども出ましたがYouTubeやVimeoはもちろん、Video CopilotやPinterestも使っていますし、Shutterstockなどのプロ用動画素材サイトも重宝しています。検索のコツとしては、日本語よりも英語で検索する方が情報の質も量も段ちがいです。英語で検索してみると、良いリファレンス映像が得られることが多いです。
近藤氏のPinterestアカウント
ーーエフェクト制作においてよく使うツールは何でしょうか?僕自身3ds Maxをメインツールとしているのもあり、FumeFXがとっつきやすく、連載でもよく使用しました。パラメータが多く複雑に見えますが、温度はTemperature、炎の膨張はExpansionといったように、それぞれ何を司っているかがわかりやすいので、直感的に調整することができます。実際の炎を思ったようにコントロールすることは難しいですが、実写に即した振る舞いはもちろん現実にはない動きも付けることができるのはCGならではの利点だと思いますね。
ーー現場で制作するエフェクトは、単純に物理現象を模写するだけではなく大なり小なり演出を加えるものだと思いますが、エフェクトの演出においてはどういったことに気をつけていますか?エフェクトの演出は、作品全体のテイストにもよるので、爆発でも単純に爆発すれば良いわけではなく、難しいものです。場合によっては、現実にはありえない極端にピンクの爆発や青色の爆発にすることもあります。映像として格好良くみせるのか、迫力を出すのか、落ち着いた画にするのか、方向性に合わせた引き出しをたくさんもっておくのが重要です。
演出としては、水のエフェクトが一番難しいと思います。水はスケール感や波動の大きさなど、ちょっとしたことで印象が大きく変わります。書籍にも掲載しましたが、連載第16回で取り上げた「雨」で、水たまりに雨が降り注ぐ映像をつくりました。ところが完成に近づいても参考にした実写映像とどうしても同じにならず、原因を探ったところ、水面が揺れる時間が元の映像より長かったことで、水深がより深く見えていたのです。水面の揺れ方ひとつで、映像から読み取れる水深が大きく変わってくるという気づきを得ました。
「雨」における、制作途中の画と完成画像(書籍より抜粋)
こうして人は普段見慣れているものにはちょっとした差異でも違和感を覚えやすいのですが、料理やライターなど日常で接する機会の多いはずの「火」は実は意外と違和感を覚えにくかったりします。例えば焚き火は屋外では空気のながれによって激しく形が変化していきますが、実際の動きよりゆっくりとした動きでつくってもあまりおかしいと思いません。質感も想像よりディテールがなくペラペラの炎だったりする場合もあります。思いつくだけでもこのように多くの差異があるにも関わらず、水のように違和感を覚えないのはガス炎は見るけど燃え上がるような火を見ていないからだということに気付かされます。
当たり前だと思っている現象でも、様々な実写の映像を見ると火のように想像とちがっているものは多くあります。作り手としてはそうした点を理解しつつ、見る人が良いと思う要素を強調するなど画づくりをコントロールできるようになると良いのではないかと考えています。