<3>3種類のスーツを使い分けたパフォーマンス・キャプチャ
――パフォーマンス・キャプチャについての質問です。メイキングを見ると、異なるスーツを着ている映像が見られますが、これらの使い分けはどのように判断されたのですか?
レモン:実は3種類を使い分けているんですが、1つは従来からある再帰性反射のターゲットマーカー式スーツをボリューム内で追跡する方法で、当然室内のみでの使用になります。もう1つは、LEDで自発光する"アクティブマーカー"(Standard Deviation社製)を用いたスーツによる方法ですね。これは屋外での実写撮影と同時に、パフォーマンス・キャプチャを行う場合に使用するものです。
Standard Deviation製アクティブマーカーによる撮影の様子と完成画像
――もう1つ、ARマーカーのようなものを付けたスーツを着ているときもありますよね?
レモン:あれは"モーキャップ"(モーション・キャプチャの略)に対して、"フォー(Faux: 偽)キャップ"と呼んでいるのですが、四角いパターンを付けたスーツを用いる手法ですね。これは特に、深い雪が降っているシーンなど、アクティブマーカーが使えない場所でのキャプチャにおいて活躍しました。つまり4Kのデジタルシネマカメラ(Sony CineAlta PMW-F55)で撮った、白黒パターンを手で追っていくわけです。
本作のVFXブレイクダウン。1:37あたりからみられる白い四角に黒丸のマーカーをつけたものが"フォーキャップ"
――ILMなどがよく使う方法に似ていますね。
レモン:確かにILMも同じようなテクニックを使っていますが、Weta DigitalやMPCの手法は、我々独自のバージョンです。
――今後は、『アバター』のパフォーマンス・キャプチャを手がけたグレン・デリー/Glenn Derry氏のFOX VFX Lab.(旧Technoprops)との共同作業はありそうですか?
レモン:はい。私とグレンは『アバター』で少し仕事をし、『ジャングル・ブック』では、かなり組んでやっていました。たしかに、彼のTechnopropsはFOXに買収され、FOX VFX Lab.としていくつかのプロジェクトが進行中です。もちろんWeta Digitalでも共同で何かやりたいと、非常に興味をもっています。
<4>CGキャラクターと生身の俳優のインタラクション
――本作のVFXで最も困難な状況は、CGでつくったキャラクターと、生身の俳優の接触だったのではないですか?
レモン:それは全てケース・バイ・ケースで、毎回ちがうパズルを解いていく感覚なのですが、なるべく現実のものを残したいと思っています。例えば、ノバ(アミア・ミラー)が、ゴリラのルカから髪に花を付けてもらうシーンですが、桜の枝を折ったとき、その枝が揺れますよね。その動きが良かったので、そこはキープしたいと考えました。ですから実際の枝を残すように、俳優の映像を一部消しています。その際、どこを消去して、どこを残すかという判断は、そのたびごとに異なります。
――その場合は、ノバの髪の毛をCGで補ったりしているのでしょうか?
レモン:髪のシミュレーションは行なっています。それはCGキャラクターに触られたときもそうですし、風が吹いたときや、頭を振った際の動きも考慮して計算しています。また、大佐(ウディ・ハレルソン)がシーザー(アンディ・サーキス)の頭を触るシーンですが、ハレルソンの手は実際の映像をキープして、押されているシーザーの毛をCGで変形させています。
――俳優の手の方をCGでつくったシーンはありますか?
レモン:そうですね。例えば、ノバがオランウータンのモーリスの背中にしがみ付いているシーンでは、(モーリスを演じたカリン・コノヴァルの胴回りが細いので)そのままの画ではモーリスの身体の中にノバの腕がめりこんでしまいました。そのため本物の腕を消して、CGの腕に置き換えることで正しい位置にしています。