>   >  「SIGGRAPH Asia 2017 BANGKOK」開催。その見どころを「2018 TOKYO」カンファレンスチェアの安生健一氏が解説
「SIGGRAPH Asia 2017 BANGKOK」開催。その見どころを「2018 TOKYO」カンファレンスチェアの安生健一氏が解説

「SIGGRAPH Asia 2017 BANGKOK」開催。その見どころを「2018 TOKYO」カンファレンスチェアの安生健一氏が解説

<3>自社のPRを通して、リクルーティングを実施

ーー社会人だけでなく、学生が他の来場者と「Crossover」できる場にもなり得るわけですね。

安生:SIGGRAPH ASIA 2018へのスポンサードや出展を検討している企業は、自社の活動を来場者にPRすることで、自社に来たいと思う人を増やせるのではないかと期待しています。つまりはリクルーティングですね。実際これまでのSIGGRAPH Asiaでも、そのために数多くの企業がExhibitionに出展し、セッションも行なっています。企業も学生も、お互いがつくったものを見せられる形で参加していれば、マッチングがすごくスムーズに進むと思います。だから日本のCGプロダクションも、1社で出展や発表をするのが難しいようであれば、複数社で共同ブースを設けたり、共同セッションを行なったりすることで、発信する側として参加してほしいと願っています。

【左】ピクサーによる「The Making Of Pixar's "Coco"」の様子。7人のスピーカーが2時間以上をかけて『Coco』(邦題『リメンバーミー』2018年3月公開)の制作過程を解説した image courtesy of ACM SIGGRAPH/【右】同じくピクサーによる「How Real-Time Graphics Helps Pixar Make Feature Films」にて、リクルーティングを行なっている一幕。スピーカーの1人であるPol Jeremias-Vila氏は同社のシニア グラフィックスソフトウェア エンジニアで、SIGGRAPH 2017のCAFではディレクターを務めている image courtesy of ACM SIGGRAPH

【左】Cyndi Ochs氏(Marvel Studios)、Alexis Wajsbrot氏(Framestore)、Chad Wiebe氏(Industrial Light & Magic)、Andrew Hellen氏(Method Studios)による「The Making Of "Thor: Ragnarok"」の様子 image courtesy of ACM SIGGRAPH/【右】Richard Hoover氏(Framestore)による「Blade Runner 2049: A Framestore Case Study」の様子 image courtesy of ACM SIGGRAPH

ーーSIGGRAPH Asia 2018を通して、多くの組織と個人が飛躍することを期待しています。

安生:そうなるように、SIGGRAPH Asia 2017の期間中も色々な人に会ってミーティングを重ねています。例年、SIGGRAPH Asiaには前年や、翌年、翌々年の運営メンバーも集結し、今後の道筋を話し合うのです。SIGGRAPH Asia 2018のチームづくりはまだ道半ばですが、主要なプログラムのチェアは決まっています。なるべく早めに情報を公開して、運営側のやる気を示していきたいと考えています。来場者の期待に応えられるよう、しっかり中身の詰まったカンファレンスにするべく準備していますから、ご期待ください。

Courses

Coursesには合計27件の応募があり、その中から15件が採択された。VulkanやWebGLなどのGraphics API、ビジュアライゼーション、ゲームデザインといった多彩なテーマのCoursesが実施される中、スクウェア・エニックスの長谷川 勇氏、佐々木 啓光氏、蓮尾雄介氏、岸 明彦氏、三宅 陽一郎氏、鈴木岳雪氏、本庄 崇氏らは、「How To Build A Fantasy World Based On Reality: A Case Study Of FINAL FANTASY XV: Part I,II & III 」と題したHalf-Day Courseを実施した(Coursesの著者と発表者は一部異なっており、著者としては長谷川 朋広氏、黒坂一隆氏、大櫛嘉伸氏、上段達弘氏も名を連ねている)。約4時間にわたった本コースでは、オープンワールドの構築、レンダリング、天候表現、キャラクターモデリング、セットアップ、AI、アニメーション、エフェクト、映画制作、UI、ローカライゼーションなど、これまでのSIGGRAPHやCEDECなどで語られた内容を再構築しつつ、新たな情報も追加した多岐にわたる開発事例が紹介され、『FINAL FANTASY XV』メイキングの集大成と言える充実した内容となった。

発表団のリーダーを務めた長谷川 勇氏は、今日までのSIGGRAPHとの関わりをふり返り「結果的に3ヶ年計画になりました」と語ってくれた。「1年目はSIGGRAPH 2015を視察し、どのカテゴリに応募するか検討しました。2年目のSIGGRAPH 2016ではComputer Animation Festival、Real-Time Live!、Talksに採択。3年目のSIGGRAPH 2017ではTalks、CG in Asia、Production Galleryに採択、今回のSIGGRAPH Asia 2017ではCoursesに採択され、スタジオの技術ブランディング、広報、リクルーティングなど、様々な点で確かな手応えを得られました。この勢いを継続し、2018年はより深くSIGGRAPHの深部へリーチしていきたいです。とくにSIGGRAPH Asia 2018は東京で開催されるので、可能であれば運営側にも人を送り込みたいと考えています」(長谷川氏)。SIGGRAPH Asia 2017でも確かな存在感を見せたピクサーは講演内容に加えスタッフの役割分担や動き方も理に適っており、学ぶことが多いという。

【左】発表中の長谷川氏/【右】同じく発表中の本庄氏(『FINAL FANTASY XV』のリードアーティスト) image courtesy of SQUARE ENIX

本庄氏はコースの合間に会場入口のデスクを使い、ライブドローイングで道行く人を楽しませていた。「ついでにファンの方々にサインもしていました。呼び込みとPRの一環ですね。机の上に置いてあるポストカードは、講演の参加者にささやかなお土産として配ったものです。立て看板にも貼ったりして、『FINAL FANTASY』のセッションをやっていることをアピールさせていただきました」(長谷川氏) image courtesy of ACM SIGGRAPH

以降では、約250ページにおよぶコースノートの一部を紹介しよう。

SIGGRAPH Asia 2017ダイジェスト

本作のオープンワールドは「現実に基づいたファンタジー世界」の構築を目指しており、どのような過程を経て地形や街並が形づくられたのか、背景までしっかり考えられている。例えば上図の巨大なクレーターや岩の隆起は、「タイタンがメテオを受け止めたときの衝撃で生まれた」ことになっている

SIGGRAPH Asia 2017ダイジェスト

タイタンがメテオを受け止める瞬間が描かれたコンセプトアート

【左】特殊なシェーディング事例を紹介している。キャラクターの目、車のペイント、キャラクターの肌や髪は、ディファードシェーディングとフォワードシェーディングの併用で表現されている。本作では「描画速度」と「画の美しさ」を高いレベルで両立させるため、このように手の込んだ処理が施された/【右】ベーシックなBRDFマテリアルのためのG-BUFFERレイアウトの解説。木の葉の後方散乱色(Backscatter Color)、サブサーフェススキャタリングの色相シフト(Hue Shift)などの特殊なマテリアルを表現する場合には、最後のレンダーターゲット(RT2)を使用する。G-BUFFERの描画時にBRDFタイプをステンシルに書き込み、ライティング時にステンシル判定orシェーダー分岐で計算している

SIGGRAPH Asia 2017ダイジェスト

オープンワールド内の雲はプロシージャルに生成され、時間変化に応じて変化するようになっている

SIGGRAPH Asia 2017ダイジェスト

雲のモデリングに関する解説。雲はカメラよりも高い位置で、なおかつユーザー定義した高度の範囲内で生成されている。雲の形状やアニメーションは7つのオクターブのノイズを組み合わせて表現している。各オクターブは振幅とアニメーションスピードが異なっており、最も低いオクターブが雲の形状を形成している。次いで低い2つのオクターブによって雲のアニメーションが生成され、それ以外のより高いオクターブは雲のディテールを形成している。加えて、小さな3Dノイズテクスチャを異なる周波数で合成し、美しい結果が得られるよう調整している。これらを制御するパラメーターの多くをデザイナーに公開し、高さによる濃度変動の制御などを行なったという

中国向けのローカライゼーションの解説。【左】グローバル版のシヴァは肌色面積が多く中国版では使用できなかったため、全身にタイツをまとっているかのようなペイントが施された/【右】全身が骨格のみで構成されたキャラクターは中国版では許可されなかったため、ほぼ別デザインのキャラクターに置き換えられた

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Profileプロフィール

安生健一/Ken Anjyo

安生健一/Ken Anjyo

株式会社オー・エル・エム・デジタル 技術顧問。株式会社イマジカ・ロボット ホールディングス 事業戦略部 アドバンスト リサーチ グループ ディレクター。工学博士。国内外の研究者・技術者との「使える」技術開発のコラボレーションに加え、SIGGRAPHを始めとするCGの国際会議での研究発表などの対外活動も活発に行なっている。「SIGGRAPH Asia 2018」ではカンファレンスチェアを務める。
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