「SIGGRAPH」は世界最大のコンピュータグラフィックスとインタラクティブ関連技術のカンファレンスだ。その関連イベントである「SIGGRAPH Asia」は、2008年から昨年までの間にシンガポール、日本(横浜、神戸)、韓国(ソウル)、中国(香港、深圳、マカオ)など、アジア各国で開催されてきた。SIGGRAPH Asiaの規模はSIGGRAPHと比較すれば格段に小さいが、回を重ねるごとに内容が充実し、知名度も増している。
今年のSIGGRAPH Asia 2017は11月27日(月)∼30日(木)の4日間にわたりタイのバンコクで開催され、58の国から6,500人以上の来場者が訪れた。そして来年のSIGGRAPH Asia 2018は2018年12月4日(火)∼7日(金)にかけて東京国際フォーラム(有楽町)で開催され、10,000人以上の来場者(うち、海外からの来場者1,800人以上)が見込まれている。SIGGRAPH Asia 2017を視察中の安生健一氏(SIGGRAPH Asia 2018 カンファレンスチェア/オー・エル・エム・デジタル/イマジカ・ロボット ホールディングス)に、今年の見どころと来年の抱負を語ってもらった。
TEXT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
【左】会場となったBangkok International Trade and Exhibition Centre(略称、BITEC)は、スワンナプーム国際空港から車で約30分、バンコク中心部からは鉄道で約20分の距離にある/【右】初日のレジストレーションカウンターに並ぶ来場者 image courtesy of ACM SIGGRAPH
<1>SIGGRAPH 2017と同様、バンコクでもVR関連の発表が活発
ーーまずはバンコクでSIGGRAPH Asiaを開催することになった経緯を教えていただけますか?
安生健一氏(以後、安生):SIGGRAPH Asiaはオリンピックと同じように、都市対抗で開催地を決めるんです。ACM SIGGRAPHから視察団を迎え、開催地の熱意を伝える活動を各都市が行います。例年同様、SIGGRAPH Asia 2017でも複数の都市が手をあげましたが、バンコクがすごく積極的に誘致活動を行なった結果、タイでの初開催が決まりました。例えば今年のExhibitionには70以上の企業や学校が出展しており、その中の50以上がSIGGRAPH初出展です。バンコクが熱心に活動してくれたおかげで、地元バンコクを中心に数多くの出展が実現しました。
【左】Exhibition会場。写真右奥はVR ShowcaseやEmerging Technologiesの展示会場となっている image courtesy of ACM SIGGRAPH/【右】Exhibition会場の中央に設置されたタイのパビリオン。タイを拠点とする8つの企業がブースを設けていた
【左】写真左はTACGA(Thai Animation & Computer Graphics Association)のパビリオン内に設けられた、The Monk Studiosのブース。映像作品の上映に加え、リクルーティングも行なっていた。同社は国内外のクライアントの映像を手がけており『Kingsglaive Final Fantasy XV』(2016)の制作にも参加している。同社の創業者であるJuck Somsaman氏は今年のComputer Animation Festival(CAF)のチェアを務めた。Somsaman氏はRhythm and Hues Studiosで16年以上VFX制作に携わった後、2007年にバンコクへ戻り同社を設立している。写真右奥はRiFF Animation Studioのブース。同社が手がけた『Midnight Horror』はCAFのElectronic Theaterで上映された/【右】YGGDRAZIL GROUPのブースではVR作品を展示。同社も『Kingsglaive Final Fantasy XV』の制作に参加している。以上の3社は「Thailand Animation Studio Showcase」と題したセッションも実施した。会期中はバンコク市内の学生が数多く招待され、ExhibitionやVR Showcaseの展示を楽しんでいた
【左】バンコクに本社を置くYannixのブース。ハリウッドに支社があり、映画やTV番組のモーショントラッキングを手がけている image courtesy of ACM SIGGRAPH/【右】同じくバンコクのLumio 3Dが展示していたカメラ。球状のカメラ内に物体を格納すると、その形状やテクスチャデータを撮影できる image courtesy of ACM SIGGRAPH
【左】Global CGI Projectのパビリオン。韓国の企業が共同でブースを設けていた image courtesy of ACM SIGGRAPH/【右】マレーシアのパビリオン
【左】日本のFORUM8のブース image courtesy of ACM SIGGRAPH/【右】VRモーションシートを体験するバンコクの学生。このシートはVRシミュレーションと連動しており、HMDの映像に合わせて揺動する image courtesy of ACM SIGGRAPH
【左】Thammasat University(バンコクの国立大学)のブースでは、VRとグリーンバック合成を組み合わせた展示を行なっていた/【右】同大学のブースを見学するバンコクの学生。彼らの前にあるのは同大学の学生が制作したポートフォリオで、コンセプトアートやキャラクターデザインなどが掲載されていた image courtesy of ACM SIGGRAPH
【左】フロリダにあるRingling College of Art & Designのブース image courtesy of ACM SIGGRAPH/【右】京都の立命館大学映像学部のブースと、同大学教授の大島 登志一氏。ここ数年、SIGGRAPH Asiaには連続して出展しているという。「SIGGRAPH AsiaのExhibition会場は、学術界と産業界の中間地点のような空間だと感じています。ここで学生の作品や研究成果を展示していると、学術界と産業界の両方から有益なフィードバックを得られます。加えて映像学部の国際的なPRの場として期待しており、出展を始めて以降、海外の学生からの問い合わせが増えました。そういう効果があるから、他国の有名な学校も複数出展しているのだと思います」(大島氏)
ーーSIGGRAPH Asia 2018の場合も、東京都が積極的な誘致活動を行なったのでしょうか?
安生:はい。東京都が随分サポートしてくれました。今回も東京観光財団の方々がわざわざ現地に来て、SIGGRAPH Asia 2018のPRブースに立ってくれています。バッジに付けるリボンまでつくってくださり、細やかな気配りが嬉しいですね。加えて、今年のCAFでもアドバイザーをなさった塩田さん(※)をはじめ、数多くの方々が協力してくださいました。
※ 塩田周三氏。ポリゴン・ピクチュアズ 代表取締役。SIGGRAPHやSIGGRAPH Asiaにおいて、CAFの審査員や審査員長を歴任している。
【左】SIGGRAPH Asia 2018のブースと、東京観光財団 コンベンション事業部誘致事業課の須藤智子氏/【右】バンコクの学生にSIGGRAPH Asia 2018をPRする同財団の池山貴大氏(写真中央)と、ケルンメッセの宮﨑 元一郎氏(写真右)。来年は学生を連れてSIGGRAPH Asia 2018に参加したいという教員からの問い合わせもあったという
【左】会場ロビーで記念映像を撮影するバンコクの学生。彼らの中から、将来バンコクのCG業界を牽引するエンジニアやアーティストが生まれるかもしれない。たとえ制作者の路を選ばなくても、CG制作のよき理解者やファンになってくれれば、CG業界にとって追い風になるだろう/【右】東京開催をPRするため、東京観光財団が制作したリボン(安生氏のパスの最下部)
安生:私はこれまでに横浜(SIGGRAPH Asia 2009)でSketchs & Postersのチェアをやり、神戸(SIGGRAPH Asia 2015)でCoursesのチェアをやってきましたが、東京ではカンファレンス全体のチェアをやりますから、さらに責任重大です。SIGGRAPHは一般的な学会とはちがい、それ以外の要素もすごく多いので、学術界と産業界が一致団結して盛り上げていく必要があります。そのために国内外のあちこちの方に協力を依頼しています。なかなかにやりがいがありますよ。
ーー今年のExhibitionやCAFではバンコクの企業と学校が確かな存在感を示していますから、来年の日本ではより一層の盛り上がりを期待したいですね。そんな中で今年の見どころをあげるとしたら、何だと思いますか?
安生:夏のSIGGRAPH 2017と同じくVRだと思います。VR Showcaseはもちろん、Exhibition、Emerging Technologies、CAFのPanel & Production Talksなど、様々なところでVRに関する発表がなされています。VRやARはこれまで分岐する一方だったCG技術を総結集させることで実現するので、今年のテーマである「The Celebration of Life and Technology」に相応しいとも思います。日本の企業や大学も様々なVR技術を披露しているので、このながれを来年へと継続させたいですね。
【左】VR Showcaseにて、Anatomy Builder VR: Comparative Anatomy Lab Promoting Spatial Visualizationの解説をするTexas A&M UniversityのJinsil Hwaryoung Seo氏(写真右)/【右】本展示はVR技術を使った解剖学教材で、様々なステージが用意されている。この写真は「Sandbox(砂場)」と名付けられたステージで、無重力状態の空間内でヒトの全身骨格を組み立てることができる。骨格データは実物を3Dスキャンしてつくられているため、非常にリアルで高精細だ。筆者も試してみたが、例えば腓骨の上下を見分け、脛骨の関節面に合わせる作業はなかなかに難しいと感じた
同展示の別ステージ。VR空間内に表示された骨の名前と合致する骨を拾い、バスケットボールのゴールに投げ入れて得点を重ねるという奇想天外な発想が印象的だった
同じくVR ShowcaseのReverseCAVE Experience: Providing Reverse Perspectives For Sharing VR Experienceは、落合陽一氏のDigital Nature Group(筑波大学)による展示。SIGGRAPH 2017のPostersで発表した内容を、今回のVR Showcaseでは実際に展示したという。VRゲームのプレイヤーを囲む4枚の半透明スクリーンにプレイヤーの見ている空間を投影することで、周囲の観客はプレイヤーとVR空間を同時に確認できる。【左】は投影前、【右】は投影後の状態
【左】床に設置された4台のプロジェクタを使い、4方向から映像を投影している/【右】本展示の研究開発メンバー。本展示に使われたゲームは、落合氏の依頼を受けたVRワイバオ・ジャパンの長谷川 雄一氏(写真の左から2番目)が、展示機器に合わせてUnreal Engineで制作したという。「せっかくの展示ですから、見映えのするコンテンツをつくってほしいという依頼を受けて制作しました。こういう形で学術界と産業界がコラボレーションしていくことは面白いと感じます」(長谷川氏)
Digital Nature Groupは、Emerging Technologiesでも2件の展示をしていた。Telewheelchair: A Demonstration Of The Intelligent Electric Wheelchair System Towards Human-Machineはその中の1つで、VR技術を活用した電動車椅子のシステムだ。【左】写真奥の男性が装着したHMDで車椅子の上部に取り付けられた360度カメラの映像を確認できるため、車椅子を押す人の視点での遠隔操作が可能となる/【右】本展示の研究開発メンバーである、橋爪 智氏(写真左)と高澤和希氏(写真右)。共に筑波大学の修士課程の学生だ
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<2>インタラクティブなプログラムを充実させたい
<2>インタラクティブなプログラムを充実させたい
ーーSIGGRAPH ASIAは開催国が毎回ちがうため、その国やその都市のカラーが出やすいという特徴があります。SIGGRAPH Asia 2018では、どんなカラーが出せると思いますか?
安生:多くの産業が集結していることが、東京のカラーであり強みですね。数多くの産業界の方々がSIGGRAPH Asia 2018に参加してくれるよう、ゲームやアニメ、映像はもちろん、医療や建築のビジュアライゼーションなど、エンターテインメント以外の産業の方々にもお声がけしています。東京は色々な国、文化、産業の人とものが交錯するのに相応しい場所だと思います。そういう思いを込めて、来年のテーマは「Crossover」にしました。とはいえ私の思いを強要するつもりはないので、来年のチェアたちには「Crossover」というテーマを基点に、各自が思いつくことを自由にやってくださいとお願いしています。
最終日のクロージングセッションにて、SIGGRAPH Asia 2018のテーマである「Crossover」や、開催地の東京をPRする安生氏 image courtesy of ACM SIGGRAPH
ーー来年のチェアとプログラムがどんな構成になるか、楽しみにしています。
安生:来年は、インタラクティブな、その場に行かないと体験できないプログラムをさらに充実させたいと思っています。準備も実施も難易度は上がりますが「参加したい」と思わせる訴求力は一番強いですからね。まずはそれが東京で実施できることを担保し、ACM SIGGRAPHの承認を得る必要があるので、協力してくれる仲間を探しています。先ほども言ったように東京には色々な産業が集まっているのに加え、海外と連携している企業も多いので、必然的に色々な人が集まりやすい環境にありますね。それとは別に海外の方々にもダイレクトに協力を依頼しており、ローカルに偏りすぎないように気を付けてもいます。
ーー東京在住の人にとっては、国内に加え、海外からの来場者とも「Crossover」できる場になりそうですね。
安生:そうです。国内外にわたるネットワーキングはSIGGRAPHで得られる大きなメリットの1つです。そのメリットを、まだまだ先の長い若い方々に、いっぱい体験していただきたいですね。SIGGRAPH Asia 2018が、その体験のきっかけになればと願っています。例えば理工系の大学生であれば、まずはPostersに応募してほしいです。Technical PapersやTechnical Briefsは難しいかもしれませんが、Postersであれば学部生でも採択される可能性は充分にあります。美術系の大学生や専門学校生であればCAFに応募するという選択肢があります。そういう場に発表者として参加し、他国の人と交流する体験を積んでいけば大きな財産になるでしょう。
Technical Papers
SIGGRAPH Asia 2017 - Technical Papers Trailer
Technical Papersには合計312件の応募があり、その中から75件が採択された。チェアを務めたのはヘブライ大学のDani Lischinski氏。90年代からCGの研究を続けており、ピクサー・アニメーション・スタジオ(以後、ピクサー)でサバティカルイヤー(大学教授に与えられる半年∼1年の研究休暇)を過ごしたこともあるという経歴の持ち主だ。
先のTechnical Papers Trailerの0:45∼1:08で紹介されている「A Hyperbolic Geometric Flow for Evolving Films and Foams」は、石田定繁氏(ニコン/東京大学)、山本真史氏(東京大学)、安東遼一氏(国立情報学研究所)、蜂須賀 恵也氏(東京大学)の共著による論文。シャボン玉の動きを数学的(幾何学的)に再定式化し、自然なゆらめきを表現しながら、プラトーの法則(Plateau's laws)と呼ばれる自然法則に従う形状を実現するシミュレーション手法を作成した。この手法を用いると、美しいシャボン玉の動きを従来よりも高速に計算できるため、大量のシャボン玉を扱える。外力の作用を直接記述できるといった恩恵もある。詳しくはProject Pageを参照してほしい。
「Avatar Digitization From a Single Image For Real-Time Rendering」は、南カリフォルニア大学のHao Li氏らの研究グループによるアバター作成に関する論文。Li氏らは「Pinscreen」というベンチャー企業を設立し、同名の顔認識技術の開発を精力的に続けている。Pinscreenは2016年に180万ドル(約2億円)の資金を調達しており、その動向が注目されている。今回の論文もその技術開発の一貫で、正面から撮影した人物の顔写真1枚から3Dのアバターを生成し、リアルタイムに描画するシステムを提案した。 Li氏らは以前からこのシステムの開発を続けており、頭部と髪が別メッシュのアバターを生成できる点が、今回新たに加わった代表的な成果だ。生成されたデータは既存のゲームエンジンとの互換性を有しており、ゲームやVRアプリケーションをはじめ幅広い用途に活用できるという。
Technical Briefs, Posters
Technical BriefsはいわゆるShort papers扱いの論文で、完成度では前述のTechnical Papers(いわゆるFull Papers にあたる)には及ばないが、先端的な試みが発表される場として注目を集めている。SIGGRAPH Asia 2017では合計60件の応募があり、その中から27件が採択された。
なお、さらに初期段階の研究、斬新で有望なアイデアを発表する場としてPostersも設けられている。こちらは合計111件の応募があり、その中から58件が採択された。
「BRDF Reconstruction from Real Object using Reconstructed Geometry of Multi-view Images」は、奈良先端科学技術大学院大学の大野大志氏、久保尋之氏、舩冨卓哉氏、向川康博氏の共著による論文。近年ゲームや映画制作で多用されているフォトグラメトリに関する研究で、物体の形状やテクスチャに加え、BRDF(いわゆるツヤツヤ、ザラザラといった反射特性)までキャプチャできる手法を提案している。フォトグラメトリで物体を復元する際には、物体の周囲に満遍なく光源を焚いた環境で数十枚の写真を撮影する。これに加え、本研究では1つだけ光源を焚いた環境でも写真を撮影しておく。そうすれば、従来のフォトグラメトリによって被写体の形状と法線、さらにカメラ方向まで復元できるため、その情報を基に、被写体の反射特性(入射光と反射光の関係)が推定できるというわけだ。
ただしフォトグラメトリで得られる形状・法線の中には信頼性の低い領域も含まれる。そのため本研究には「信頼性の高い領域を抽出するための3つの仮定」を置くことで、データの精度を高める工夫も盛り込まれている。この手法は従来のフォトグラメトリにいくつかの撮影と処理工程を追加するだけなので、大きなワークフローの変更を必要としない。少しの手間を加えるだけでモデルの質感を向上できる現実的な手法のため、今後の展開が期待されている。詳しくは論文を参照してほしい。
同じく奈良先端科学技術大学院大学の峰友佑樹氏、久保尋之氏、舩冨卓哉氏、向川康博氏らが、東邦大学 /UEIリサーチの新谷幹夫氏と共に執筆した論文「Acquiring Non-parametric Scattering Phase Function from a Single Image」も紹介しよう。こちらは、スキャタリング(光の散乱現象)に関する研究で、牛乳やオレンジジュース、人の皮膚などの光が透ける物体(半透明物体)をフォトリアルに表現するため、位相関数(Phase Function)という物体の透け具合を表す特性を、実物を使って計測する手法を提案している。この手法を用いると、普通のプロジェクタとカメラによる簡単なセットアップで位相関数を計測できる。従来の近似式ではなく、実際の計測データをそのまま使ったスキャタリングのシミュレーションが可能になれば、より信頼性の高いフォトリアルな描画が実現する。本研究についても、詳しくは論文を参照してほしい。
「Example-based Synthesis of Turbulence by Flow Field Style Transfer」は佐藤周平氏(UEIリサーチ)、土橋宜典氏(UEIリサーチ/北海道大学)、西田友是氏(UEIリサーチ/広島修道大学)の共著による論文だ。西田氏は、2005年にアジア地域で初めてACM SIGGRAPHのスティーブン・A・クーンズ賞を受賞し、近年では2017年秋の紫綬褒章も受章したCG研究のパイオニアの1人で、今なお後進と共に精力的に研究活動を行なっている。本研究は、ユーザーの望む大まかな動きをもつ流れ場(Target Field)に、細かい動きをもつ流れ場(Source Field)から抽出した成分を合成することで、ユーザーの望む動き(上図左)と、細かい動き(上図中央)の両方を兼ね備えた煙のアニメーション(上図右)を生成することを目的としている。得られた結果が物理法則に則るように設計されている点も成果の1つだ。
【左】Technical Paperを発表中の石田氏/【右】Technical Briefを発表中の大野氏。奈良先端科学技術大学院大学の修士課程の学生で、今後は本発表を修士論文へと仕上げていくという
【左】写真左から、土橋氏、西田氏、Witawat Rungjiratananon氏(ピクサー)、水野慎士氏(愛知工業大学)。Rungjiratananon氏はタイのChiang Mai Universityを卒業後、当時東京大学にあった西田氏の研究室で修士課程と博士課程を修了した。その後日本の大手ゲーム会社に勤務した後、今年からピクサーへ移籍。現在はソフトウェアエンジニアとしてシミュレーションツールを開発しているという/【右】2日目と3日目の13:00∼14:00には、Postersの発表者が自身のポスターの前に立ち、来場者に研究内容を解説したり質問に答えたりするPresentation Timingsが実施された image courtesy of ACM SIGGRAPH
【左】PostersのPresentation Timingsの様子 image courtesy of ACM SIGGRAPH/【右】Digital Nature Groupの岩崎里玖氏(筑波大学 2年)らによる発表「Silk Fabricator: Using Silkworms as 3D Printers」では、生きたカイコに3Dプリンターの役割を担わせることで、立体的なシルクシートをつくるシステムを提案していた
【左】Digital Nature Groupの安藤 真之介氏(筑波大学 1年)らによる発表「Aerial Image on Retroreflective Particles」では、再帰性反射粒子を使って空中に映像を投影するシステムを提案していた/【右】同じくDigital Nature Groupの田中賢吾氏(筑波大学 1年)らによる発表「Spring-Pen: Reproduction of any Softness with the 3D Printed Spring」では、筆のような柔らかい書き心地を有するスマホやタブレット用のスタイラスペンを提案していた。両氏とも2017年4月に筑波大学へ入学したばかりだが、1年次から研究に着手できる選択科目を履修し、初の国際発表に臨んだという
【左】関西学院大学 4年の佐藤正章氏(写真左)と、その指導教授の井村誠孝氏(写真右)による発表「Method for Quantitative Evaluation of the Realism of CG Images Using Deep Learning」では、CGのレンダリング結果のリアリティの程度を、ディープラーニングによって定量的に評価する方法を提案していた/【右】九州大学 助教の森本有紀氏(写真右)と、芝浦工業大学を2017年3月に卒業した藤枝 沙規子氏(写真左)らによる発表「An Image Generation System of Delicious Food in a Manga Style」では、マンガ風の美味しそうに見える食べ物の画像を生成するシステムを提案していた
Computer Animation Festival
SIGGRAPH Asia 2017 - Computer Animation Festival Trailer
Electronic Theaterでは、数百件の応募の中から選ばれた23作品が上映され、その中の1本に「Best of Show Award」、2本に「Jury Special Award」、1本に「Best Student Project Award」が贈られた。日本から選ばれたのはCAF全体を通して1本のみで、Onesalの『Discovery Japan "Sculptures" Idents』がElectronic Theaterで上映された。来年は、より多くの作品が選ばれることを期待したい。
【左】「Best of Show」に選ばれた『AFTERWORK』の授賞式の様子。本作はMATTE CGとUSON STUDIOが手がけたショートフィルムで、スペイン、エクアドル、ペルーのアーティストの協力を得て、約3年がかりで制作された image courtesy of ACM SIGGRAPH/【右】受賞者を称えるチェアのJuck Somsaman氏(The Monk Studios)(写真左)と、コチェアのPrashant Buyyala氏(Oriental DreamWorks)(写真左から2番目) image courtesy of ACM SIGGRAPH
【左】「Best Student Project」に選ばれた『Garden Party』の授賞式の様子。本作はMoPA(フランスのCGアニメーションスクール)に通う6人の学生が、約9ヶ月をかけて制作した。詳しくは本作のWebサイトを参照してほしい image courtesy of ACM SIGGRAPH/【右】受賞者を称えるSomsaman氏とBuyyala氏 image courtesy of ACM SIGGRAPH
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<3>自社のPRを通して、リクルーティングを実施
<3>自社のPRを通して、リクルーティングを実施
ーー社会人だけでなく、学生が他の来場者と「Crossover」できる場にもなり得るわけですね。
安生:SIGGRAPH ASIA 2018へのスポンサードや出展を検討している企業は、自社の活動を来場者にPRすることで、自社に来たいと思う人を増やせるのではないかと期待しています。つまりはリクルーティングですね。実際これまでのSIGGRAPH Asiaでも、そのために数多くの企業がExhibitionに出展し、セッションも行なっています。企業も学生も、お互いがつくったものを見せられる形で参加していれば、マッチングがすごくスムーズに進むと思います。だから日本のCGプロダクションも、1社で出展や発表をするのが難しいようであれば、複数社で共同ブースを設けたり、共同セッションを行なったりすることで、発信する側として参加してほしいと願っています。
【左】ピクサーによる「The Making Of Pixar's "Coco"」の様子。7人のスピーカーが2時間以上をかけて『Coco』(邦題『リメンバーミー』2018年3月公開)の制作過程を解説した image courtesy of ACM SIGGRAPH/【右】同じくピクサーによる「How Real-Time Graphics Helps Pixar Make Feature Films」にて、リクルーティングを行なっている一幕。スピーカーの1人であるPol Jeremias-Vila氏は同社のシニア グラフィックスソフトウェア エンジニアで、SIGGRAPH 2017のCAFではディレクターを務めている image courtesy of ACM SIGGRAPH
【左】Cyndi Ochs氏(Marvel Studios)、Alexis Wajsbrot氏(Framestore)、Chad Wiebe氏(Industrial Light & Magic)、Andrew Hellen氏(Method Studios)による「The Making Of "Thor: Ragnarok"」の様子 image courtesy of ACM SIGGRAPH/【右】Richard Hoover氏(Framestore)による「Blade Runner 2049: A Framestore Case Study」の様子 image courtesy of ACM SIGGRAPH
ーーSIGGRAPH Asia 2018を通して、多くの組織と個人が飛躍することを期待しています。
安生:そうなるように、SIGGRAPH Asia 2017の期間中も色々な人に会ってミーティングを重ねています。例年、SIGGRAPH Asiaには前年や、翌年、翌々年の運営メンバーも集結し、今後の道筋を話し合うのです。SIGGRAPH Asia 2018のチームづくりはまだ道半ばですが、主要なプログラムのチェアは決まっています。なるべく早めに情報を公開して、運営側のやる気を示していきたいと考えています。来場者の期待に応えられるよう、しっかり中身の詰まったカンファレンスにするべく準備していますから、ご期待ください。
Courses
Coursesには合計27件の応募があり、その中から15件が採択された。VulkanやWebGLなどのGraphics API、ビジュアライゼーション、ゲームデザインといった多彩なテーマのCoursesが実施される中、スクウェア・エニックスの長谷川 勇氏、佐々木 啓光氏、蓮尾雄介氏、岸 明彦氏、三宅 陽一郎氏、鈴木岳雪氏、本庄 崇氏らは、「How To Build A Fantasy World Based On Reality: A Case Study Of FINAL FANTASY XV: Part I,II & III 」と題したHalf-Day Courseを実施した(Coursesの著者と発表者は一部異なっており、著者としては長谷川 朋広氏、黒坂一隆氏、大櫛嘉伸氏、上段達弘氏も名を連ねている)。約4時間にわたった本コースでは、オープンワールドの構築、レンダリング、天候表現、キャラクターモデリング、セットアップ、AI、アニメーション、エフェクト、映画制作、UI、ローカライゼーションなど、これまでのSIGGRAPHやCEDECなどで語られた内容を再構築しつつ、新たな情報も追加した多岐にわたる開発事例が紹介され、『FINAL FANTASY XV』メイキングの集大成と言える充実した内容となった。
発表団のリーダーを務めた長谷川 勇氏は、今日までのSIGGRAPHとの関わりをふり返り「結果的に3ヶ年計画になりました」と語ってくれた。「1年目はSIGGRAPH 2015を視察し、どのカテゴリに応募するか検討しました。2年目のSIGGRAPH 2016ではComputer Animation Festival、Real-Time Live!、Talksに採択。3年目のSIGGRAPH 2017ではTalks、CG in Asia、Production Galleryに採択、今回のSIGGRAPH Asia 2017ではCoursesに採択され、スタジオの技術ブランディング、広報、リクルーティングなど、様々な点で確かな手応えを得られました。この勢いを継続し、2018年はより深くSIGGRAPHの深部へリーチしていきたいです。とくにSIGGRAPH Asia 2018は東京で開催されるので、可能であれば運営側にも人を送り込みたいと考えています」(長谷川氏)。SIGGRAPH Asia 2017でも確かな存在感を見せたピクサーは講演内容に加えスタッフの役割分担や動き方も理に適っており、学ぶことが多いという。
【左】発表中の長谷川氏/【右】同じく発表中の本庄氏(『FINAL FANTASY XV』のリードアーティスト) image courtesy of SQUARE ENIX
本庄氏はコースの合間に会場入口のデスクを使い、ライブドローイングで道行く人を楽しませていた。「ついでにファンの方々にサインもしていました。呼び込みとPRの一環ですね。机の上に置いてあるポストカードは、講演の参加者にささやかなお土産として配ったものです。立て看板にも貼ったりして、『FINAL FANTASY』のセッションをやっていることをアピールさせていただきました」(長谷川氏) image courtesy of ACM SIGGRAPH
以降では、約250ページにおよぶコースノートの一部を紹介しよう。
本作のオープンワールドは「現実に基づいたファンタジー世界」の構築を目指しており、どのような過程を経て地形や街並が形づくられたのか、背景までしっかり考えられている。例えば上図の巨大なクレーターや岩の隆起は、「タイタンがメテオを受け止めたときの衝撃で生まれた」ことになっている
タイタンがメテオを受け止める瞬間が描かれたコンセプトアート
【左】特殊なシェーディング事例を紹介している。キャラクターの目、車のペイント、キャラクターの肌や髪は、ディファードシェーディングとフォワードシェーディングの併用で表現されている。本作では「描画速度」と「画の美しさ」を高いレベルで両立させるため、このように手の込んだ処理が施された/【右】ベーシックなBRDFマテリアルのためのG-BUFFERレイアウトの解説。木の葉の後方散乱色(Backscatter Color)、サブサーフェススキャタリングの色相シフト(Hue Shift)などの特殊なマテリアルを表現する場合には、最後のレンダーターゲット(RT2)を使用する。G-BUFFERの描画時にBRDFタイプをステンシルに書き込み、ライティング時にステンシル判定orシェーダー分岐で計算している
オープンワールド内の雲はプロシージャルに生成され、時間変化に応じて変化するようになっている
雲のモデリングに関する解説。雲はカメラよりも高い位置で、なおかつユーザー定義した高度の範囲内で生成されている。雲の形状やアニメーションは7つのオクターブのノイズを組み合わせて表現している。各オクターブは振幅とアニメーションスピードが異なっており、最も低いオクターブが雲の形状を形成している。次いで低い2つのオクターブによって雲のアニメーションが生成され、それ以外のより高いオクターブは雲のディテールを形成している。加えて、小さな3Dノイズテクスチャを異なる周波数で合成し、美しい結果が得られるよう調整している。これらを制御するパラメーターの多くをデザイナーに公開し、高さによる濃度変動の制御などを行なったという
中国向けのローカライゼーションの解説。【左】グローバル版のシヴァは肌色面積が多く中国版では使用できなかったため、全身にタイツをまとっているかのようなペイントが施された/【右】全身が骨格のみで構成されたキャラクターは中国版では許可されなかったため、ほぼ別デザインのキャラクターに置き換えられた
info.
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SIGGRAPH Asia 2018
会期:2018年12月4日(火)∼12月7日(金)
会場:東京国際フォーラム
主催:ACM SIGGRAPH
公式サイト
出展社向け日本語サイト
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SIGGRAPH Asia 2017
会期:2017年11月27日(月)∼11月30日(木)
会場:Bangkok International Trade and Exhibition Centre
主催:ACM SIGGRAPH
公式サイト