<2>2DのCG用途にも使えるZBrush 立体の良し悪しはライティングで決まる
――岡田さんのZBrushでの最初の作品はArtStationにあるエイリアン的な作品ですか?
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「Alien」岡田氏のArtStationより
岡田:そうですね。H・R・ギーガーには影響を受けていますし、リスペクトしています。小さい頃はこれが怖かったんですけど(笑)、大人になってからは画集も買いましたし、『エイリアン』の映画は全作、何度も観返しています。
――ギーガー作品のどんなところが魅力ですか?
岡田:凶悪な生き物にもかかわらず、曲線が多いシルエットに美しさを感じます。ただ単に気持ち悪い生物ではなく、美しさも備えている。女性器のモチーフがあるので苦手な人もいるかもしれませんが、自分にとってのギーガーの作品は美しいものだと思っています。
――ZBrushを使う上で最初はどんなところが大変でしたか?
岡田:最初は2Dの絵から入ったので、立体を360度、様々な方向から見ることを常に意識していました。3DCGは、ある方向からは良く見えても、別の方向から見ると破綻しているということがよく起こります。これは初心者だけでなく、プロとしてやっている方でもときどきやってしまいがちです。最初の会社のときは、ローポリゴンだったのでひとつひとつのポリゴンを上手く使わないといけないので、球状に物を見るよう常に意識していました。
――岡田さんが考えるZBrushの特長はどんなところにあると思いますか?
岡田:直感的に造形ができるところですね。パソコンの中に粘土があるという感じが素晴らしいです。液晶タブレットとの相性も良いですし、ポリゴンでつくらなくて良いし、値段も10万円程度ですから購入しやすいです。Photoshopもあれば良いですが、ZBrushだけでもかなりのものがつくれますし。あとはトライ&エラーがすごくしやすいですね。描いているものの延長線上にあるものとして扱える。絵で描くよりもZBrushで造形していく方が早いくらい。一気につくってそれをスクリーンショットしてPhotoshopに取り込めば、陰影情報をもった下絵にもなります。
――それは2Dを使う人にとっても便利ですね。
岡田:そうです。だから3Dを使う人だけでなく、2Dの人も絶対に習得した方が良いと思います。モデリングデータにも使えますし、3Dプリンタにも出力できますし、この先どんどん需要が高まるソフトです。僕自身、専門学校で教えることもあるのですが、学生さんにも最近すごく人気ですね。ガレージキットの原型師さんも、これまでは粘土でつくられていた方や、それだと上手くできなかった方がどんどんZBrushを使い始めたことによって、全体のレベルが底上げされているという状況です。
――岡田さんがZBrushを使われ始めた当時、世間ではどのような用途が多かったですか?
岡田:3Dプリンタがまだそれほど普及していなかったので、デジタル上での化粧付けのような使い方をしていた人が多かったと思います。Mayaでつくって、ZBrushで鱗をペタペタ貼っていったりとか、皮膚の皺とか細かなディテールをつくるためのソフトという使われ方。ポリゴンモデリングではなかなかスピーディに再現できないディテールの作成、ノーマルマップ作成のためのソフトという印象が強かったですね。当時はそうやって何かからもってきたものをZBrushで処理していましたが、最近はゼロからZBrushでつくることが増えてきました。
――それはZBrushのソフト自体の進化?
岡田:もちろんそうです。年々すごく便利になっていますし、グラフィックもどんどん質が上がっているので、昔ながらのやり方よりも速さとビジュアル優先でそうなっていったのでしょう。僕が初めてZBrushに触ったのは、DynaMeshが初めて搭載されたバージョン4R2のときですね。DynaMeshというのはトポロジーを動かして再構成する機能で、革命的に便利でした。それ以前はけっこう頭を使わなくてはいけないソフトだったようですが、これによってかなり直感的な使い方ができるようになったと思います。
How to Start with ZBrush - Character Sculpting Continued with DynaMesh - Part 6
――岡田さんの作品は絵画のような迫力がありますが、描く段階で出力されたときのことも念頭に置いていますか?
岡田:それは常に念頭に置いています。現実世界には光の陰影があって、造形物は光が当たって影が落ちることで迫力が出ます。例えばドラゴンですと光の影響で眉間の凹凸が出たり、角の落ち影が美しく見えたりする。それはZBrush上でつくっているだけではなかなかそこまで表現できないので、KeyShotで頻繁にプレビューしながら、現実世界のライトだとどんな見映えになるかを常に意識しながらつくっているので、立体出力したときも迫力が出るんだと思います。作品の良し悪しはライティングで決まるといっても過言ではありません。これもカプコン系列の会社にいたときに上司から教わったことです。自主制作を見てもらっていたのですが、「今のものでも良いけれど、最後のライティングで作品は何段階もレベルアップするよ」とアドバイスをいただいて、それ以来ライティングには重きを置いています。
――作品をつくる上で、手の速さは重要ですか?
岡田:重要だと思います。僕は細かいところに時間をかけるのではなく、躍動感や全体のシルエットを優先しています。細かいところにこだわりすぎて、止まってしまっているというケースがよくありますが、正直、細かいところはあとからで良いんです。例えば鱗をすごくつくりこんでも、そもそもの造形、関節の位置などがおかしかったら作品としてまったく映えないものになります。やはり、全体のシルエットが最も大事な部分だと思います。