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リギング専門集団をつくることで業界に「働き方改革」を。BACKBONEスタジオ開設のねらいを聞く

リギング専門集団をつくることで業界に「働き方改革」を。BACKBONEスタジオ開設のねらいを聞く

<2>橋本氏のプロマネに関する技術講演に感銘を受ける

CGW:そんな中、BACKBONEスタジオが発足するきっかけは何だったのでしょうか? もともと、お2人はお知り合いだったんですか?

橋本:2012年に開催された「スクウェア・エニックス オープンカンファレンス 2012」がきっかけでした。当時、私が起ち上げて部門長をしていたテクノロジー推進部主導で開催した技術カンファレンスです。そこに福本さんが受講者として参加してくれて。あのときが初対面でしたよね。

福本:2007年にポリゴン・ピクチュアズさん(以下、PPI)に移籍して、本格的にリギングに取り組むようになりました。本当はPPIで研鑽を積みながら、良いタイミングでハリウッドのスタジオに挑戦したかったのですが、2012年にアセット部部長に就任したんです。そこで情報収集のためにそのカンファレンスに参加したのですが、そこで橋本さんが行われた講演に感動しまして。もう目から鱗が束になって落ちたというか。


CGW:そのときの講演は確かプロジェクトマネジメントに関する内容でしたよね(「ゲーム開発プロジェクトマネジメント講座2012」)。アセットやリギングには関係ないのでは?

福本:実は当時、部長に就任したばかりで、どうすれば部下がスケジュール管理に意欲的に取り組むようになるか、悩んでいました。それにリギングって、プロジェクト全体のスケジュールにものすごく影響を及ぼすんですよ。だからこそ、事前に段取りを組んで、計画的に進めていく必要がある。そういったところが、ものすごく刺さりまして。

橋本:当時ゲーム業界でアジャイル開発(※)も盛り上がり始めていたのですが、「設計や計画をしなくてもいい楽なやり方でしょ」的なアジャイルへの誤解も広まりつつあり、危機感もありました。実際にはウォーターフォールでもアジャイルでも設計や計画はしっかりできているに越したことがないという本質は変わらなくて、「ちゃんと準備を丁寧にやらないとプロジェクトはあっさり炎上するのでコツコツやりましょうね」というメッセージを込めました。

※アジャイル開発:ソフトウェア開発におけるプロジェクトの進め方を定義したもののひとつ。アジャイルは「素早い」、「機敏な」という意味

福本:懇親会もそっちのけで名刺交換の列に並んで、ご挨拶させていただいて。2時間くらい並びましたよ。そのときに「アジャイルな見積りと計画づくり」(マイク・コーン、マイナビ出版)という書籍をご紹介いただきました。数ページ読むだけで眠たくなる、かなり歯応えのある内容なのですが、4~5回読みましたね。その上で、見よう見まねで自分のプロジェクトに使ってみたら、かなり効果が出て。

CGW:それは良い話ですね。

福本:ただ、実務で使っていると、いきなり新規タスクが割り込んできたり、本で解説されていないことも起きるじゃないですか。そんなとき、厚かましくも橋本さんにメールで質問していたんです。それらにきちんとご解答いただいて。そこから交流が始まって、PPIでスクエニさんに見学に行ったり、スクエニさんからも遊びに来ていただいたりして。

橋本:その後、自分がスクエニを離れてリブゼントを起業してからも、普通に友人として付き合っていて、たまに飲みに行ったりもしていましたね。

<3>これまで培ってきた知見を業界全体に還元したい

CGW:そこから、なぜリブゼントに合流されることになったんでしょうか?

橋本:当時の状況を説明すると、まず福本さんが独立・転職を考えていると、友人として相談を受けまして。当時福本さんは他社に転職するか、リグの専門家として個人事業主になるか、会社をつくるか、どういう選択が良いのか悩んでいると聞きました。

福本:さっきもお話しましたがPPIでは2012年以降、部長としてマネジメントもしつつ、現場でリガーとして働く、プレイングマネージャー的な立場を続けていました。そんな中で、次第に管理職の比重が高まっていきました。ただ、自分は本当にリギングが大好きなんですよね。業界に入るまで何もやりたいことがなくて、入ってからリグに出会って。このまま管理職になっていいのかと逡巡がありました。

CGW:わかります。

福本:管理職の比重が増えるのはやぶさかではないけど、その前に自分の知見を業界に還元したいという思いもありました。先ほどもお話した通り、学生でリガー志望者もいないし、そういった教育体制もない。自分がリガーとしてやってきたことを、何か業界全体に役立てられないかと。数年前から少しずつ、そうした思いが募ってきて、飲みの席で相談したんです。

橋本:そこで「そもそも何がしたいのか」と、カウンセリングじゃないけど、時間を取ってヒアリングしたんですよ。そうしたら「リグをしっかりやっていきたい」、「業界に貢献したい」という2つの想いがあることがわかって。その一方で、完全に独立するのは、どうも不安があったようなんです。だったら、リブゼントでその想いを応援するから、業界の各社さんに対して中立的な立場で仕事をしてみるのも面白いんじゃないかと。自分も独立して、多種多様な会社さんとお付き合いをするようになって、視野が広がったり、勉強をさせていただいた経緯がありました。

CGW:それで事業部新設というかたちで迎え入れることになったと。

橋本:極端な話、初年度は1円も稼がなくても良いと言いました。それよりも、リブゼントにBACKBONEスタジオができることで、業界にどんな化学変化が起きるか、見てみたくなったんです。Webサイトも福本さんと二人三脚でつくりましたよね。

福本:やりたいという思いはありましたが、それを明文化して、コンセプトにまとめるのは大変でした。橋本さんにも導き出してもらって、3ヶ月くらいかかりましたね。

橋本:業界に対して、どんな貢献をしたいのか、またできるのか。そして、ホームページを見た人に、いかに共感してもらえるか。それらを、どうしたら誤解なく伝えられるのか。2人でじっくりと考えました。幸い、コンセプトアートのINEIでの仕事を通して、やりたいことを聞いてコンセプトにまとめることには慣れていました。

福本:そんな風にしてまとまったのが「制作を支える柱でありたい」、「人・会社・経験を繋げたい」、「クリエイターの働き方を変えたい」という3つのビジョンでした。おかげさまで共感してくださるお客様も多くて、お話をさせていただく中で、皆さん同じような問題意識を抱えていらっしゃることがわかりました。



BACKBONEスタジオWebサイトのトップ画面(上)と3つのビジョン(下)

CGW:クリエイターの働き方にまで踏み込まれている点が印象的でした。

福本:前にも触れましたが、リグの設計が脆いと前後の工程で問題が出るんです。アニメーションが重かったり、レンダリングで問題が出て、後から1フレームずつレタッチする必要が出たり......。それって、アニメーターのモチベーション低下に直結するおそれがあるんですね。また、大手でこうした問題が起きると、得てして協力会社さんにも影響が及びますし。

CGW:ああ、なるほど。問い合わせても火消しに追われていて、対応できないとか。

福本:しっかりとしたリグを納品すれば、エラーを抑えることにより後工程に余裕が生まれますし、クリエイターのモチベーションも上がって、生産性も向上します。そうして生まれた時間を新しい技術開発や休息などに充てることもできます。そんな風にリグ目線で働き方を変えたいと思っていて。

橋本:1社で作業工程が完結できる大手CGスタジオで、全部署全従業員が100%過不足なく稼動するのは理論上不可能じゃないですか。そうしたリソースのニーズの揺らぎの隙間を埋めるのも、我々のような専門家集団の存在意義の1つかなとも思っているんです。我々も含めて、業界全体で構造最適化が進めば、CGスタジオの稼動率や資金効率が上がり、無理な納期による詰め込み作業やキャパオーバー、また逆にシーズンやパートによって発生しうる人材の余剰を減らす作用が見込め、同じ労力でも品質や生産性が上昇します。そういう意味ではINEIも同じなんですが、特にリガーは人手不足が深刻なので、より業界に貢献できるのではないかと思います。

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<4>ゲームと映像、両方を知っていることが強み

Profileプロフィール

橋本善久&福本健太郎

橋本善久&福本健太郎

写真左から 橋本善久氏(リブゼント・イノベーションズ株式会社 代表取締役)、福本健太郎氏(リブゼント・イノベーションズ株式会社 BACKBONE事業部長)

スペシャルインタビュー