>   >  「Houdiniは実は簡単なんだ、と伝えていきたい」現役Houdinist、講師、副社長の3つの面から語る秋元純一のアーティスト人生(後編)
「Houdiniは実は簡単なんだ、と伝えていきたい」現役Houdinist、講師、副社長の3つの面から語る秋元純一のアーティスト人生(後編)

「Houdiniは実は簡単なんだ、と伝えていきたい」現役Houdinist、講師、副社長の3つの面から語る秋元純一のアーティスト人生(後編)

<2>転機となったミュージックビデオ制作

CGW:また、かつての秋元少年はハリウッドに憧れていたわけですよね。その一方でこれまでの代表作を見ると、ミュージックビデオが中心となっていますが・・・

秋元:ハリウッドへの情熱は、働き始めてすぐに消えました。最初は「今の仕事を足がかりにアメリカに行かなきゃ」くらいに思っていたんですが、それも薄れちゃって。だんだん自分の仕事が認知されていくに従って、Houdiniでしかできない仕事も増えていきましたし。結構、特殊な案件が多かったんですね。

CGW:Houdinistとして活躍し始めた。

秋元:例えばamazarashiのMVも、別にHoudiniでなくても制作できたのですが、納期と物量を考えると、それ以外の選択肢がなかったんです。MVで1本5分くらい尺があるものに対して、たった1人で150カットのエフェクトを2週間でつくる、といったような。そんな風に他のソフトだと難しいことでも、Houdiniだとアセットを組めば対応できたりして。結構、何とかできたんですね。それらが良い感じに回りだしたんですよ。

CGW:まさに、はまったわけですね。

秋元:特に最初の『夏を待っていました』(2010)というMVは、会社に内緒でつくっていたんです。当時いた森江(康太、現・株式会社MORIE代表)と2人で、会社にばれないように。別に、そんなことで怒られるような会社じゃないんですが、あまり良くないだろうということで隠してやっていたら、賞を獲っちゃった(※)んですよね。腹をくくって「会社に隠れてつくっていたのが賞を獲っちゃいました」と話したら、宮下が「ええっ、すごいやん」と。次の案件からは、もう2人では無理な分量になったこともあり、会社として受け始めました。

※3DCG AWARDS 2010一般アニメーション部門最優秀賞、第14回文化庁メディア芸術祭エンターテイメント部門優秀賞、SIGGRAPH ASIA 2010 Animation Theater入選など

amazarashi 『夏を待っていました』

CGW:1作目で、わざわざ隠さなくてはいけなかった理由は何だったんでしょうか。

秋元:会社で受けられるような規模じゃなかったんです。にもかかわらず森江が先行してやっていて、「エフェクトパートで、こんなのがあるんだけど、純ちゃん、できる?」と言われて、僕も途中から参入していったんですね。

CGW:そうなんだ。興味があったんですか?

秋元:面白そうだなと思いましたし、やっているときも、すごく面白かったですね。ヒリヒリ感がすごくありました。尖った内容だったし、時間もないという状況で。

CGW:そういうときってアドレナリンが出ますよね。

秋元:そうなんですよね。本当に冗談抜きで、1週間で数時間しか寝られないほどでした。みんながゴールデンウィークで休んでいるときに、こっそり作業をしたりだとか。会社にばれないようにやらなきゃいけないので。

CGW:通常業務もこなしながらですよね。

秋元:結構トリッキーなやり方をしていましたね。その一方で、良い感じの表現も生まれて。あの頃は僕もめちゃくちゃ回転速度が速い時期で、ギラギラしていたんですよね。年中アドレナリンが分泌しているような状態でした。その頃からCGWORLDでもHoudiniで表紙グラフィックをつくったり、連載を始めたりしたんですよね。

CGW:本誌の連載開始は2010年8月からで、『夏を待っていました』も同年でした。しかも、後で伺うんですけども、2011年より学校の先生も始められて。

秋元:ちょうど当時、CGWORLDの編集長だった渡辺英樹さんが「活きのいい、若いHoudini使いはいないか?」と、ポリゴン・ピクチュアズで今FXスーパーバイザーをされている秋山知広さんに質問されたらしいんですね。そのときに自分や小松 泰()さんの名前を挙げてくれたらしくて。その後、渡辺さんと飲みに行くことになって、意気投合して。「ちょっと特集やってみる?」と......。

CGW:当時、まだ24~25歳ですよね。大抜擢じゃないですか。

秋元:そうですね。渡辺さんは渡辺さんで、若いときに早野さんにすごくかわいがってもらっていて。いろいろ良くしてもらったから、自分も若いやつを引き上げたい、といった思いがあったそうです。だからベテランを連載で使いたくなかったらしいんですよ。

CGW:新しい酒袋には新しい酒を入れろと。

秋元:自分も自分で熱い時期だったので。「じゃあやりますよ、連載。やらせてくださいよ」といった感じで。ただ、Houdiniって、どうやって誌面を組んでいったら良いかわからないから、とりあえずテストで特集を組もうかと。

CGW:いや、テストで特集組みませんけど、普通はね。

秋元:渡辺さんはそんな風に、すごく先進的なところがありましたね。それが多分、誌面に僕の顔が載った最初だったと思います。そこから少しして、連載の方も始まって。


  • 秋元氏が初めて本誌に登場したインタビュー記事(CGWORLD 2010年6月号 vol.142 第2特集「Houdiniチュートリアル」より)


本誌連載「Houdini Cook Book」の第1回(CGWORLD 2010年10月号 vol.146

CGW:もう連載も8年になりますが、長く続けていくコツはあるんですか。

秋元:締切を守らなくても許してもらえる担当に出会うことですね(笑)。締切を守ったことは1回もないんです。ただ、落とさずには続けています。僕は本当のデッドラインを知っちゃうと、そこに照準を合わせちゃうタイプなんです。今はWebに連載が移行したので、だいぶ状況が変わりましたけどね。

CGW:連載のテーマなり、連載を通して表現しようと思っていることはありますか?

秋元:最初はガッチリと打ち合わせをしていましたが。途中で「これは終わらないぞ」とに気付いて、やり方を変えていきました。今ではその1ヶ月で記憶に残ったものをつくることが多いですね。本当は早野さんみたいに好きなテーマでパパッとつくりたいんですけど。その一方で新しい制作フローを紹介することも大切。そのバランスを考えると、テーマがかなり限定されてきちゃうんですよね。そこが毎回、悩ましいところです。

CGW:なるほど、確かに。

秋元:だから、書きはじめたら早いんです。1~2日しかかかっていないんですよ。ただ、何をつくるか決めるまでが長くて、1ヶ月くらいかかります。実際、締切間際になると、いつもすごく貧乏揺すりをしているんですよ。ウロウロしたり、そわそわしたり。何かが降りてくるのを待つというか。

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<3>秋元流の専門学校講師術とは?

Profileプロフィール

秋元純一/Junichi Akimoto

秋元純一/Junichi Akimoto

株式会社トランジスタ・スタジオ 取締役副社長
2006年に株式会社トランジスタ・スタジオに入社。専門学校時代よりHoudiniを使用し続け、現在CGWORLD.jpにて「Houdini Cook Book」を連載中

スペシャルインタビュー