>   >  「Houdiniは実は簡単なんだ、と伝えていきたい」現役Houdinist、講師、副社長の3つの面から語る秋元純一のアーティスト人生(後編)
「Houdiniは実は簡単なんだ、と伝えていきたい」現役Houdinist、講師、副社長の3つの面から語る秋元純一のアーティスト人生(後編)

「Houdiniは実は簡単なんだ、と伝えていきたい」現役Houdinist、講師、副社長の3つの面から語る秋元純一のアーティスト人生(後編)

<5>これからもHoudiniの伝道師を続けていく

CGW:学校の先生というのも、そこにつながりそうですね。若手を育てて、優秀な学生をリクルートして、会社自体もステップアップして、規模をだんだん大きくしていって、世代交代が起きるようにするということですから。

秋元:そうですね。どうしても、この業界は若手の転職率が高いじゃないですか。そうなると、教えるだけ損だって話も出てきちゃうんですよね。でも、それって先行者の義務だと思うんです。いくら辞められても、下の世代に教えていくということはきちんとやっていかないといけない。実際、ずっと同じところにとどまるというのは難しいと思うんですよね。僕のようなケースは本当にまれだと思うんですよ、この業界では。

CGW:トランジスタ・スタジオ一筋ですからね。

秋元:正直、変わる理由がなかった。ただ、若いうちは移っていきたがるのもわかる。その中でも、1つのところに残っていくやつが現れて、サイクルが生まれてきて......というのが理想だと思うんですよ。ある程度の大きさを保ったまま、部分的に入れ替わっていきつつ、継承されていく技術もありつつ......。そんな風に、もうちょっと裾野は広げていきたいですね。そうすれば中堅がプロットをつくって、下にもちょっと手伝ってもらって、何か面白いものがつくれるようになるというのが、一番理想的だと思います。


CGW:トランジスタ・スタジオさんは、今何人くらいいらっしゃるんですか。

秋元:今はデザイナーが15名くらいですね。単純に人数だけ考えれば、尖った人が10人くらいというのが理想なんですよ。ただ、若手と中堅のバランスを考えると、とりあえず20人くらいにしたいなとは思っています。

CGW:人材育成に戦略的に取り組まないと、今は良くても将来的に行き詰まりますよね。

秋元:そうなんです。今の中堅を見ていて、50代でも中堅って呼ばれ続けるのかと思うと、ちょっとかわいそうなので。なるべく循環していくような感じが良いなと思っているんですよ。

CGW:最後に、新しく始められた「Houdini COOKBOOK+ACADEMY」についても教えてください。

秋元:Houdiniの動画チュートリアルです。ふり返ってみれば、もう10年くらいHoudiniの布教活動をしていることになるんです。連載もやっているし、学校でも教えているし、セミナーにも登壇するし。もう、僕が布教しなくても良いくらい、Houdiniは認知されたと思うんですが。

CGW:確かに、数年前から耳にすることが多くなりました。

秋元:最初は、やっぱりHoudiniの連載をするというのは、かなり強硬な試みだったと思うんですよ。だってHoudiniを使っているCGアーティストがそもそもそんなにいなかったので。渡辺さんも、よくやらせてくれたなと思います。そういった意味で、教え方についても、わりと手慣れたものなんですよね。これはこういう風に教えた方が絶対に良い、という方法論が、自分の中で確立しているので。

CGW:そこまで確立されている方は、そうそういないと思います。

秋元:なので「動画チュートリアルをやってください」といわれたときも、ふたつ返事でした。フォーマットを決めて、自分でPCを操作しながら録画していくスタイルで始めましたね。ただ、締切がなかなか守れないわけです。やっぱり通常業務の方が優先度が高いので。そこで、授業のようなスタイルでやることになりました。Houdiniを触ったことがないCGWORLDのスタッフが生徒役となり、彼が最終的にHoudiniを使えるようになれば、みんなもできるようになると。

CGW:なるほど。

Houdini COOKBOOK +ACADEMY イントロダクション

秋元:だから、動画でも途中で止まったりするんですよ。あれ? できない? ちょっと待ってください、と。相手のPCを見ながら、これがこうなってるからだね、と話したり。本当にバーチャル教室に通って実際に授業を受けているかのような感覚で進めています。ただし、普通の教室とちがって動画だから、一時停止もできるし、巻き戻しもできるんです。それに、普通のチュートリアルに比べて、めちゃくちゃ丁寧に説明していると思います。

CGW:結構ボリュームもありそうですね。

秋元:イントロダクションだけで数時間やっていますね。さらにUIの説明だけでも数時間かけています。これでできなかったら、才能ないんじゃないかなというくらい、みっちりと説明しています。

CGW:最終的に、どれくらいの連載になる予定ですか?

秋元:いや全然、考えも及ばないというか。イントロダクションだけで、10時間近くかかっていますから。ここから実際に、丁寧に説明していくことを思えば、100時間以上はかかるんじゃないかと思います。だからこそ、本当にHoudiniがわからない人でも、できるようになると考えています。

CGW:Houdiniを勉強したい人が増えていると思いますので、良い話ですね。

秋元:最近よく聞くのが「Houdiniを勉強しようと思って、本を買ってみたけど、良くわからなかった」という話です。実際、Houdiniの本はどうしても難しくなっちゃうんですよ。がっつりスクリプトを触る部分も、絶対に必要になりますし。ただ、僕はHoudiniって、考え方によっては非常に簡単だと思うんです。というのも、Houdiniは1足す1をちゃんと描くソフトなんですよ、簡単に言えば。

CGW:哲学的ですね。

秋元:表現が難しいですが、全てがゼロベースで用意されていて、部品は全部揃っているから、どうにでも組み立ててくださいという感じなんです。例えばMayaだったら、ボタンをポチっと押せば、それがぱんっと反映されます。でもHoudiniの場合は、ぱんっと反映されるためには何をすれば良いのかというプロセスを知らないと、そこにたどり着けないんですよね。だけど、そうしたプロセスさえ理解できていれば、個々の機能は知らなくても良い。

CGW:なるほど。

秋元:だから、今にして思えば、すごく簡単なソフトだなと思うんです。逆に初学者にとっては、やることがすごく多くて難しく感じちゃうんですが、やっていることは単純作業の積み重ねだったりする。だからこそ、すごく初歩的なところからやっていけば良いんじゃないかなと。

CGW:なるほど。Houdiniは実は簡単なんだということが、動画チュートリアルのテーマになっているわけですね。

秋元:そうですね。だから、挫折しないためにどうしたら良いか、に重きを置いています。

CGW:少しでも多くのHoudiniユーザーが増えると良いですね。長々とありがとうございました。


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Profileプロフィール

秋元純一/Junichi Akimoto

秋元純一/Junichi Akimoto

株式会社トランジスタ・スタジオ 取締役副社長
2006年に株式会社トランジスタ・スタジオに入社。専門学校時代よりHoudiniを使用し続け、現在CGWORLD.jpにて「Houdini Cook Book」を連載中

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