>   >  「Houdiniは実は簡単なんだ、と伝えていきたい」現役Houdinist、講師、副社長の3つの面から語る秋元純一のアーティスト人生(後編)
「Houdiniは実は簡単なんだ、と伝えていきたい」現役Houdinist、講師、副社長の3つの面から語る秋元純一のアーティスト人生(後編)

「Houdiniは実は簡単なんだ、と伝えていきたい」現役Houdinist、講師、副社長の3つの面から語る秋元純一のアーティスト人生(後編)

<4>「1人の天才」から「組織」で回す時代にCG業界を変えていきたい

CGW:そろそろ、秋元さんのこれからについてお伺いしたいんですが。今の目標は何でしょうか?

秋元:実務的なところは、ひととおり満足しちゃっていて。そもそも、CGクリエイターとしては中堅ですけど、会社の立場的にはちがうじゃないですか。

CGW:副社長ですもんね。

秋元:もちろん今でも現役で手を動かしているんですが、どちらかというと、中堅が若手と一緒にプロジェクトを回してくれているのが、すごく良いなと思っていて。昔の自分の立場になっている中堅たちがいて、イズムを継いでくれていたりもするので。そんなふうに組織固めをしながら、会社を成長させていきたいんですよ。その上で、今の中堅たちの手が空くようになったら、彼らと自分とで何かをつくりたいな、という感じですね。

CGW:クリエイターではなくて、すでに会社のトップの視点になっていますね。

秋元:つくるのは好きなので、止めたくはないんですが。どうしても会社を維持する方向に頭が転換しちゃっているところはありますね。なので昔みたいにバカな投資はできない。昔は社長に「これ買いましょう」と無茶な提案をしたりもしていましたが、今にして思えば、ちょっと高いな、というのもありましたね。

CGW:大人になってる(笑)

秋元:そんな感じになっちゃっているので。でも、そうやって何とか会社を維持していたら、その中堅たちも徐々に自由な時間がどんどん増えてくるようになる。下を育てていけば、おのずと浮いてくる上の世代が多分いると思うんですよ。

CGW:いますね。

秋元:実際、自分と社長は今わりとそういうポジションにいます。そんな風に現場から浮いてきた、時代遅れのおっさんたちが、また何か新しい作品をつくれる時代が来たらいいなと思って、今はやっていますね。

CGW:現場がちゃんと回してるって、すごくいい話じゃないですか。

秋元:多分それが一番いいかたちだとは思いますね。50歳になって、まだバリバリ徹夜しなきゃ終わらないような仕事をしていると、辛いですよね。それにCG業界は、定年を迎えた人がまだ皆無に近い。この先どうなっていくかもわからないですし。黎明期からやっている人が、ようやく50歳くらいになった頃で、しかもみんな社長かプロデューサーになっている。実務でバリバリやっている50代は、日本だと少ないですよね。

CGW:なかなか続けられないというところがあるのかもしれないですね。

秋元:その一方で普通の業界だと、会社でふんぞり返っている50代がいるじゃないですか。もちろん、それが良いとは思いませんが、手を後ろに組みながら部下のデスク回って、大丈夫? というのがCG業界でも普通になっていくといいなと思っているんです。その上で、ちゃんと上の世代は引退していかないといけない。

CGW:世代交代ですね。

秋元:そんな風に、良い感じの循環ができるようにしていかないと、CG業界は難しくなっちゃうと思います。

CGW:トランジスタ・スタジオさんから独立したいとか、そういう思いはなかったのですか。

秋元:実際、独立したいと思ったことはありました。22~23歳の頃かな。独立というより、この会社辞めようかな、という。宮下と自分の温度感があまりにもちがっていて。まあ、言ってみれば反抗期だったんですけどね。ただ、今にして思えば、自分も同じくらいの温度になってきていますね。

CGW:なるほど、当時の宮下さんと。

秋元:逆にCGクリエイターを続けていくことは、すごく大変なんじゃないかと思ったんですよ。寿司職人だったら包丁は変わらないし、魚も一緒じゃないですか。でもCG業界は技術の進化がすごく早くて、あっという間にバージョンが1個上がっていたりとか、普通ですよね。この前までSyflexを使っていたのに、nClothって何? え、今はもうnClothとか、あんまり使わないよ。今はMarvelousでやってるよ、とか。

CGW:アップデートしていきますよね。

秋元:どんどん追いかけないといけない。ジジイになっても追い付けるのか、わからないですよね。現役でいるためには、脳みそを若々しいままに保っていないといけないわけで、やっぱり大変な業種だなと。だから、全員がそれをできるかというと、難しいと思うんですよ。僕は自分がやれる範囲ではやっていきたいなと思うんですけど。

CGW:どちらかというと、組織をつくって、組織で回していける体制を整えていく方が......。

秋元:その方が、自分的には楽なのかなって。

CGW:どの分野でもそうですが、天才が1人で回す時代から始まって、次第に組織戦に移行していくんですよね。トランジスタ・スタジオさんの歴史も、それを追いかけてきている感じでしょうか。

秋元:そうですね。だから、僕はよく後輩に「うちは町工場であろうよ」と言っています。だから新しい技術をどんどん採り入れて、世界最先端というよりは、人様から受注したものにしっかりと「のし付けて納品できるような会社であるべきだ」と言っていますね。CG業界は、結構それをないがしろにしている傾向があるんですよね。

CGW:横文字商売ですもんね。

秋元:もちろん、今となっては日本の駄目な部分も凝縮されていると思うんですよ、町工場って。でも、日本人なんてしょせん日本人なので。それが良かったりする部分も、もちろんあると。

CGW:大田区には世界最先端の町工場が、山ほどあるわけですもんね。

秋元:ちゃんとした町工場にして、足元を固めれば、技術力は上がっていく。それこそ『下町ロケット』じゃないですけど、ロケットを飛ばせる時代が来るだろうということで。わりと真剣に、ちゃんと循環する町工場を目指しているという感じですね。

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<5>これからもHoudiniの伝道師を続けていく

Profileプロフィール

秋元純一/Junichi Akimoto

秋元純一/Junichi Akimoto

株式会社トランジスタ・スタジオ 取締役副社長
2006年に株式会社トランジスタ・スタジオに入社。専門学校時代よりHoudiniを使用し続け、現在CGWORLD.jpにて「Houdini Cook Book」を連載中

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