<7>エフェクトの一端まで担ったコンポジットの挑戦
一方コンポジットに関しては、開始時に重大な見誤りがあったと清水氏はふり返る。「フルCG映像なので、CG工程で詰めていればコンポジティングにはそこまで労力はかからないのでは、とプロジェクト開始当初は考えていました。それは完全に間違った憶測でした(苦笑)」。ポストビズ作業の進捗に合わせて明らかになってきたのは、エフェクトをそのまま全てCGで制作するには時間が足りないという事実だった。この難題をクリアするには負担を部署間で分散する必要があったが、例えばビル破砕作業をアニメーション部署に移すといったことはさすがに考えにくい。最も可能性があったのは、制作したポストビズからコンポジティングでブラッシュアップすることでエフェクトの総量を減らすという策であった。
「コンポジティングによるブラッシュアップでどこまでCG製エフェクトの手助けができるのか、ここに注目して実験的なショットの制作を進めました。敢えてCGによるエフェクトの量を減らし、コンポジティングでエフェクトの質感を高めることに注力しました。最終的には少しコンポジティングに頼りすぎたかなとも思いましたが、今後の制作にも活きる財産を得られたと思います」。
ライティングまで完了した状態(上)とコンポジットを施した完成映像(下)
これらのフローは、あるテストショットで実験しつつ構築された。このショットはプロジェクトが本格的に始動する以前のアセット制作・プリビズ段階に作成され、破壊などエフェクトの実験も含め、ワークフロー、パイプラインの構築に大きく貢献した。実験用であり、内容的には作中に存在しないショットだったが、プロジェクト終盤「もったいないので、どこかに入らないですかねぇ、と山本さんに何気なく相談したところ、『もちろん! 入れましょう!!』と歯切れよく返事をいただきました」。
こうして実験用ショットから本編ショットに昇格したのが、「ナイトがビルを破壊しながら走り抜く」あの映像(※下記動画参照)だ。本編を鑑賞した方なら、その大迫力から強く印象に残っているにちがいない。「プロジェクトの最初から最後までお付き合いしたショットで、我々にプロジェクトを完成させるために必要なことをたくさん教えてくれました。ほかにも面白いショットはあるものの、ここは特に心に残っていますね。最も誇らしいショットです」。
実験用ショットから本編ショットに昇格した「ナイトがビルを破壊しながら走り抜く」大迫力の映像
制作期間・作業量が大きな懸念となったプロジェクトだったが、第2BD側のサポートの手厚さも本件が成功裡に終了した要因のひとつだと、清水氏は語る。清水氏が窓口となったことで、東京の第2BDとは日本語でスムーズにコミュニケーションが取れたが、それだけではない。「日本時間で深夜であっても、こちらの難しい希望・要望にも都度電話やSkypeで話し合い、誠実に考えていただけました。本当に本作では『クライアントとベンダー』の関係ではなく、コラボレーションをする関係という立場で仕事をされていて、それがひしひしと伝わってきました。私自身も、その気持ちがアーティストにも伝わるようにコミュニケーションに努めました。素晴らしい関係性を築き、それらがアーティストたちにも宿った最後の1ヶ月は、もうほとんど何もしなくても半自動的に良い画ができ、第2BD側でもそのままファイナルとして承認されるという状態で怒涛のように進行しました」。
実際、FFXVのディレクター・田畑 端氏や本作ディレクター・野末武志氏のプロジェクト終了後のインタビューでも"このプロジェクトは親と子の関係を描いている"、そのため制作中も"様々なところで人と人の関係を大切にした"という発言に触れ、まさにそれを反映したプロジェクト運営が行われていたことに清水氏は深く感動したという。
© 2016 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
ワークスタイルの面でも、Image Engineが普段顧客としているハリウッドでの仕事と同じ感覚で進めることができたそうだ。第2BDは基本的に「何をいつごろチェックするか以外はお任せ」というスタンスを貫き、アーティストは思う存分自分のタスクに専念して納得のいく成果を追求できたそうだ。「よく、フィードバックが重なりやる気が削がれてしまうというパターンがありますが、本件ではそういうことはまったく起こりませんでした。むしろ『もう少し良くしたいから、時間をくれ!』と言い出して逆に困ってしまうこともありました(苦笑)。ただ、残業が多くなってしまったにもかかわらず、ほぼ全員がプロジェクト終了後のアンケートで『今からもう一度やりたい!』と答えていたことからも、良い関係を築けたプロジェクトだったと感じます」。
そうした現場の盛り上がりと感動は非常に大きく、伺う話から感じられる熱狂は、まるで多くのスタッフの熱意が塊となって1つの生物として躍動するさまを思わせる。マネジメントスタッフ曰く『第9地区』制作時以来の盛り上がり、と言われる本作を終えてから約1年半を経た現在でさえ「あのプロジェクト、またやりたい」と話題にするアーティストもいるのだとか。
このエピソードからは、プロジェクトの過密さとともに、それでもなおアーティストが自発的にクリエイティブを追求できる、非常に良好なプロジェクト運営がなされていたことが感じられる。あの最終盤の戦闘シーンは、アーティストの熱量がフィルムに焼きついたものと言えるだろう(余談ながら、この傾向は特にアニメーションチームで顕著であったようで、「スクウェア・エニックスの仕事」と求人を出したところ特にアニメーターが殺到、「いまは他社の仕事をしているが、早朝と夜に働くかたちで参加したい!」というアーティストも現れるほどの熱狂ぶりだったとか)。
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著名な大作を多く手がけるImage Engineだが、その中でもフルCG作品となると意外に少ない。そのため清水氏個人としては、本作のようなフルCG長編へこれからももっと参加していきたいという思いがあるそうだ。「フルCGだからこそ発生する問題解決、作業の効率化。あるいは実写フッテージありきの作品とは異なりカメラの設定からクリエイティブが開始されること等、学べることがたくさんあります」。
Image Engineというスタジオとしても、本作を経て様々な改善・問題解決が行われた。ここで学んだことをどれだけ今後のプロジェクトへ移行していけるかが今後の課題のひとつだという。『キングスグレイブ FFXV』後のプロジェクトへ、随時経験を活かしてさらなる効率化・簡易化を目指しつつ、試行錯誤をくり返す日々だと清水氏は語ってくれた。いつか再びフルCG長編作品の制作陣としてImage Engineが名を連ねることがあれば、ぜひ劇場へ足をお運びいただきたい。
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プロデューサー:田畑 端
ディレクター:野末武志
脚本:長谷川 隆
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