<4>「ポストビズ」工程による大幅な効率化
技術的な効率化・簡易化のほか、改善は時間の管理面にも及んだ。特定のデパートメントについてよりも全体の時間管理についての方が苦労があったと清水氏は語る。Image Engineでの通常のスケジューリングはシークエンス単位で行われるが、本件ではこれをアセット単位・ショット単位に分解、登場アセットが揃ったショットからファイナルにもっていくという方式を採用した。「まずアセット完成時期を洗い出し、進められるようになったショットから仕上げていきます。そのため、同じシークエンスでも最初に仕上がったショットと最後に仕上がったショットで2ヶ月ほど差があるといったこともありました」。
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さらに、無駄なタスクの発生を避けるために「ポストビズ」工程が徹底して行われた。ポストビズに関しては同社がVFXを担当した映画『チャッピー』(2015)のメイキングに詳しいが、この工程ではプリビズで制作したもの全てのDepth AOVをレンダリング、NUKE内でDeepにコンバートしてエレメントを置き雰囲気を詰めていった。これによって、「エレメントの購入や撮影で進めることができる部分、確実にFXが必要な部分、背景のつくり込みの必要な部分」を洗い出しつつ、アニメーション工程のスタート前に全体の雰囲気を第2BD側と共有、無駄な作業の発生を大きく省くことに貢献した。
「どこにエフェクトを置けば迫力が出て、効率良く隠すことができるのか、各部署にどのようなタスクを発行すべきかをこの工程で見極めます。これによって無駄な実験を大幅に減らすことに成功し、さらにショット制作に入る前にシークエンスの雰囲気についてチェック・承認を得ることができたため、大きな時間の節約につながりました」。
Image Engineが制作したポストビズと本編映像を比較したリール。人物やエフェクトの配置、カメラワークなどはほぼこの時点でFIXしていることがわかる
実務的には、ポストビズ作業ではDeepを使用してエレメントをカードに載せて環境をつくっていった。その中で、一連のショットをシークエンスとして進められる部分はシークエンス用のテンプレートを作成、それぞれのショットに必要な要素をそこに足していくというフローを採用。「これによって、最終的なコンポジティングもシークエンスベースで更新しつつ、ある程度のところで分割してショットベースへと切り替えることができました。このフローのおかげで、少人数で画づくりを進め、最後に量産、という方針を徹底することができました」。最終的にはポストビズから大きく変更が加えられたショットもある一方、多くはポストビズに沿い、本当にポストビズに近いショットもあり、第2BD側の指示が首尾一貫していたことが窺える。
<5>スタッフの熱意が込められたアニメーション
ポストビズを経ていよいよ手がけられるアニメーションパートは、清水氏曰く「本プロジェクトで最も重要な役割を担った」工程だ。冒頭で触れたアニメーションスーパーバイザー・Jeremy Mesana/ジェレミー・メサナ氏を筆頭に本シリーズのファンが多数在籍し、Image Engine内で最も盛り上がったセクションとのこと。作業は「モーションキャプチャをベースにした会話シーン」「完全手付けのアクションシーン」に大別して進行。
また、可搬性の高いモーションキャプチャソリューション・Xsens MVNを導入し、「グラウカのもつ大きな剣や、ニックスのククリ等のプロップを部署で自作し、弊社キッチンで格闘しておりました(笑)」。もちろん実際に武道のできるアクターによる格闘シーンのキャプチャも行われたが、各キャラクターの癖のようなものはそこには含まれないため、そこから手付けで崩していくかたちで精度を高めていった。
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フェイシャルアニメーションは第2BD側でキャプチャを行い、リグの提供を受けて作業が進められた。他社製リグをImage Engine内のシステムで動かすのは過去に経験のないことで、多少の対応時間を要して設定が完了、以後はデータの受け渡しが可能になった。「第2BD製フェイシャルリグで統一したことで、プロジェクト終盤で変更が入った際に、第2BD側でフェイシャルアニメーションを更新していただくということも可能になりました」。
前述したように、ユニットディレクター山本氏がImage Engineに滞在、翻訳に要するタイムラグはありつつも、時差を意識しない状態でアニメーションチェックが行われた。アーティスト各々が作品を愛好し、アニメーションチーム全体が高いモチベーションを維持、思いを込めた新しいショットやアクションの提案などが行われ、かつそれを第2BD側が認めてくれるという素晴らしいコラボレーションが実現したのだ。
<6>"レゴブロック"のように組み上げたビル群の破壊システム
本作終盤の破壊に次ぐ破壊は非常に見ごたえのあるポイントとなっている。これはプロジェクト開始時点でも同様で、この課題をどのようにしてクリアするか当初から大きな注目が必要となった。「全体の中の4〜5ショットであれば特に心配する必要もないのですが、今回はその規模ではありません。『いつでもビルを破壊できる』ようにしておかないとカメラや演出の変更に対応できないと感じ、プロシージャルなアプローチでビル破壊のしくみを構築しました」。
通常であれば、リファレンスを見ながらその通りにビルをつくり始めるのだが、ここではまず「破壊可能な(きちんと厚みをもたせてあるなど、シミュレーションに対応した)」部屋・壁・窓・ビルの屋上などを作成。これをHoudini内でレゴのように当てはめてビルを組み上げていった。ビルの形状に決まりがなかったことが、ここでは奏功した。こうすることで、モデリング作業抜きでビルのバリエーションを増やすことができ、さらに何棟ものビルを作成することなく"レゴブロック"の精度向上に時間をかけることができた。
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破壊シミュレーションにもHoudiniを使用。破砕された破片をジオメトリとして保存しつつ、それらの崩壊などのシミュレーション結果はポイントデータとして保持、前述のGaffer内で正しい破片をインスタンスするという方法が採られた。これにより、1度目の破壊シミュレーション後は破片のスピードや軌跡の調整に素早く対応でき、シミュレーション結果を毎フレーム分ジオメトリキャッシュとして保存しておくデータ量・時間を省くことができた。「これによりイテレーション回数を増やすことができただけでなく、ポイントに様々なアトリビュートをもたせることで、ビル内の電気のON/OFF、マテリアルのスイッチ(ホコリの有無)なども制御するなど、可能な限り動的に結果が得られるしくみが出来上がりました」。これによって数十ショットに及ぶビル破壊シミュレーションに対応することができた。
余談ながら、このしくみが作業効率化とはまた別の面で活躍した事例もある。作品最終盤のニックスとグラウカが瓦礫の中で出会うシーンは、どういったロケーションで出会うのか決定が保留されていた。「プロシージャルなビル破壊がある程度できるようになってきたころ、ふと『ビルを何棟か破壊して瓦礫をつくってみたらどうだろう』と思い、試してみました。すると、完全にプロシージャルな『いい雰囲気の瓦礫』が出来上がったので、これをベースにしてあのシーンのロケーションを構築していきました」。