2016年7月の日本公開以降全世界で話題を呼び、その後のゲーム本編『ファイナルファンタジー XV』の全世界770万本の売上に大きく貢献した劇場アニメーション長編『キングスグレイブ ファイナルファンタジーXV』

そんな『キングスグレイブ ファイナルファンタジーXV』の制作において大きな役割を果たした海外の協力プロダクションのうち、本誌が独自に注目した3社にメールインタビューを敢行。第1回のRIVA Animation & VFX(インド)第2回のDigic Pictures(ハンガリー)に続き、最後の紹介となるのはカナダ・バンクーバーのImage Engineだ。

INTERVIEW_岸本ひろゆき / Hiroyuki Kishimoto
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
Special thanks to SQUARE ENIX CO., LTD.

『キングスグレイブ FFXV』 冒頭12分特別公開(日本語ボイス)

<1>第2BDとの密接な関係により実現した大迫力の戦闘シーン

RIVA Animation & VFX(インド)、Digic Pictures(ハンガリー)とともに映画『キングスグレイブ ファイナルファンタジーXV(以下、キングスグレイブFFXV)』の制作にて大きな役割を果たしたのがImage Engine(バンクーバー)だ。映画『LOGAN/ローガン』(2017)や海外ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』などの大作をはじめ、直近では11月公開予定の『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』の制作会社として名を連ねる。


『キングスグレイブ FFXV』制作に参加した外部パートナーを表にまとめたもの(月刊「CGWORLD + digital video」vol.216より)

Image Engine Demo Reel 2017

高品質なフルCG映像をごく短期間のうちに制作した本作において、これらの海外協力会社はいずれも大きな役割を果たした。Image Engineが担当したのは、映画の最終盤20分。ご覧になった人にはお馴染み、圧巻の戦闘シーンもImage Engineが手がけたものだ。クオリティ・物量・短期間という難関を、Image Engineはどのようにして乗り越えたのだろうか。また、苛烈な制作を経てなお印象的なまでの満足度の高さを参加アーティストにもたらしたというプロジェクト運営とは。同社VFXスーパーバイザー・清水雄太氏に話を伺った。

KINGSGLAIVE: FINAL FANTASY XV | Showreel | Image Engine

同社が担当したショット数は約360、作業期間は延べ約8ヶ月ほどだという。もちろん、その8ヶ月全体に等しく人員が投入されたわけではなく、プロジェクトはコアメンバー5名からスタートし、最大で120名が参加していたというから、最盛期の怒涛の作業風景が目に浮かぶようだ。当時をふり返って、清水氏は次のように語る。「冷静にスケジュールを組んでみて、そのボリュームと制作期間にショックを受けたことを覚えています。例えばアセットに関していえば、2桁におよぶヒーローキャラクターたち・インソムニアの街並み・その破壊されたバージョン・飛行艇......などなど、しかもどのアセットも複数のバリエーションをもち、果てしなく、おびただしい数がリストに挙がりました。果たしてこの物量を、短期間で高いクオリティにもっていけるのか......スタジオ内からは『絶対無理!』という声が聞こえて来るほどでした」。

しかしImage Engineがこの難関に果敢に立ち向かい、見事に乗り越えたことは完成した作品からもまちがいなく確信できる。「まず依頼を受けたとき、『すごいプロジェクトが来た!』とマネジメントやスーパーバイザーたちと一緒に興奮したのを覚えています。できるかできないかを無視して、とにかく挑戦したいという気持ちが強かったです」。とりわけ同社のアニメーションスーパーバイザーは個人的にシリーズの大ファンだったそうで「夢が叶う!」と有頂天になっていたとか。その興奮から現実的なスケジュールを引いたときのショックとの落差は想像して余りあるが、作品にかける気持ちがスタジオ内の空気を牽引したことはまちがいないだろう。「不安要素は山ほどありました。......ただ、無理と言われると逆にやりたくなるものじゃないですか!」。

Image Engineといえば、近年は『LOGAN/ローガン』や『ジュラシック・ワールド』(2015)などで非常にクオリティの高いVFXシークエンスを手がけている。それらは実写合成を含むショットの他、フルCGで表現されるものも多く、その点ではフルCGアニメーションに類する本作とこれまで手がけた作品とで大きなちがいは感じなかったそうだ。一方、大きな懸念材料となったのは、何よりもその物量だったという。「技術的にはこれまでやってきた作品の延長線上にあり、担当する尺がこれまでより長い、という解釈で取り組みました。ただし、これほど長い尺を捌いた経験がなかったんです。そこでまず、社内の既存パイプラインでどこまで効率化できるかが大きなテーマとなりました」。

KINGSGLAIVE: FINAL FANTASY XV | Breakdown Reel | Image Engine

大きな課題をもつ本プロジェクトを成功に導いた最初の糸口は、プリビズにあった。Image Engine担当パートのプリビズは、The Third Floor、スクウェア・エニックス 第2ビジネスディビジョン(以下、第2BD)、Image Engineの共同で制作している。通常のプリビズ制作であれば、ポストプロダクション側が意見を出すことは稀なのだが、本作では第2BDの希望によりImage Engineもプリビズから参加したのだという。「プリビズ制作にImage Engineも参加する中で、三者で密に連携しつつ『物の見せ方』に重点を置いて進めていくことができ、これによって時間・予算に合わせた演出を早期に抽出していくことができました」。

作品をプリビズ段階から俯瞰で見通したことが、プロジェクトを成功させるための体制づくり、無駄な作業を削減するための工程「ポストビズ」(後述)へとつながっていったのだ。さらに、Image Engineが参加した本作ACT3にてユニットディレクターを務めた山本和仁氏以下第2BDのスタッフ数名が、プリビズ期間をはじめ累計2ヶ月に渡りImage Engine内に滞在。時差によるテンポの低下とは無縁の状態でアニメーションレビューなどをこなせたことも、スピーディなプロジェクト進行に貢献した。「(山本氏は)プロジェクト中は弊社のパイプラインを勉強して、ご自分でも黙々と作業しておられました。過去にこれほど頼もしいディレクターはいなかった。神様のようでしたね!(笑)」。

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<2>内製フレームワークが支えた圧倒的なクオリティと物量

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<2>内製フレームワークが支えた圧倒的なクオリティと物量

Image EngineはR&Dに強いスタジオで、アーティストの使用するツールの多くがインハウスのものだという。この素地を最大限に活用し、本件では技術的な面で徹底的な自動化・簡易化を実施、それに伴い、スーパーバイジングのやりかた、アーティストの仕事のしかたの変更も徹底して行われた。

技術面で特筆すべきは、Image Engineが誇る内製のVFXフレームワーク「Gaffer」の存在だ。ノードベースでデータのながれを定義・テンプレート化でき、アーティストをクリエイティブ以外のこまごまとした仕事から解放、これまでの同社のVFX業務を力強く支えてきた。本件では一歩踏み込んで、GafferとSHOTGUNを連携。主要なショット("keyShot")とそのライトリグを流用できるショット("ChildShot")をSHOTGUN上でタグ付けしておくことで、keyShotがファイナルになった時点で「社内パイプラインがSHOTGUNからChildShot情報を取得→Gafferテンプレートを使用してChildShotをレンダリング」というながれを自動化した。これによって、360ショットにおよぶライティング・レンダリング作業を約6名という少人数で成し遂げたという。

Introduction to Gaffer - GafferBot Lighting and LookDev/「Gaffer」は「照明係、おやっさん」といった意味。オープンソースで、ダウンロードすれば誰でも使用可能となっており、Linux版、Mac OS版がリリースされている

このライティング関連のフローについては、R&Dチームが1年程度を費やして開発中であったものを使用。本来はあと6ヶ月ほどの開発期間を経て投入予定だったが、本作で実験的に稼働することとなった。「ライティングではテンプレートの使用を徹底しました。Gafferのテンプレートのアイデアは工程の自動化を進める中で浮上してきたものです。弊社ではここ数年、各部署のデータを『バンドル』というパッケージにしてやりとりしていました。ここにレンダリングしてほしいアニメーションやカメラ、エフェクトなどを梱包して出荷します。今回は、新しいバージョンのバンドルが送られてきたらテンプレートに沿って自動でレンダリングし、さらにSHOTGUNにデイリーを作成、アーティストやスーパーバイザーはこれを見ることで実作業前に必要な作業を洗い出すことができるようになりました」。

「このシステムの導入により、ライティングアーティストは各シークエンスに対してマスターライティングを行い、自動でシークエンス内の各カットのレンダリング→デイリーの作成、レビューを進めてから各カット内のライティングを更新するという工程を築くことができました。時間・予算の節約になっただけでなく、データの確認・更新などに煩わされることなくクリエイティブな部分に時間を割くことができるようになり、さらなるクオリティ向上に努めることができたのです」。


Gafferで組まれたノードのテンプレート

また、様々な部署で制作されるデータについても、クオリティチェック用のレンダリングは自動的に行われるようになっている。「Gafferがなかったらプロジェクトは終わらなかったと思いますね(苦笑)。それ以外にもシステムに委ねられる部分はすべて自動化できるよう徹底的に洗い出しました。また、社内に翻訳家を増員してコミュニケーションの円滑化にも努めています。とにかく、アーティストたちがクリエイティブなタスクに集中できるよう可能な限り努力しています」。


レンダラに関しては、Image Engineでは長年3Delightを使用している。ただしボリュームのレンダリングに関しては、もともと使用していたMantra(Houdiniに付属するレンダラ)から、『ジュラシック・ワールド』以降3Delightのパイプラインに切り替えたばかりで、大規模にエフェクトをレンダリングするという点では初のプロジェクトとなったそうだ。「想像したよりもレンダリング時間がかかってしまう箇所もありましたが、社内でVDBシェーダを書き直すなどの対応を経て、最終的には大規模破壊でもそこまで重たくならずにレンダリングすることができるようになりました」。

ライティングまで完了した状態(上)とコンポジットを施した完成映像(下)

<3>つくり込みの最適化を徹底したアセット制作


© 2016 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.


他方、アセットのデータ仕様に関してはいくぶんかの困難があったようだ。第2BDから提供されたアセットはUVが0-1スペースに収まる"トラディショナルな"UVレイアウトだったが、Image EngineではUVが重ならないようUDIMを多用している。これは最終的なシェーダ数を減らすためにマテリアルごとにシェーディングを行なっているからだ。「特にシェーダ側でテクスチャをアニメーションさせている場合は、UVのポジションを変えてしまうと同じ結果が得られなくなってしまいます。このUVレイアウトのちがいをどのように弊社パイプラインに合わせるかの問題は、解決に少し時間がかかりました。可能な限りスクリプトで簡易化しましたが、最後はどうしてもアーティストの手作業が発生しました」。

冒頭にも触れた通り制作すべきアセットは膨大であり、「どこでつくり込みを止めるか」の線引きが最大の課題となった。そこで、それぞれのアセットのどの部分がどのように見えるかという「つくり込むべき箇所」の情報を徹底的に洗い出して共有、そこからつくり込みを開始し、必要以上に踏み込まずにショットへ受け渡すという作業をくり返した。このつくり込み箇所の精査も、後述する「ポストビズ」工程が担っている。最終的には、「体の特定の部分のみがクローズアップに耐えられる」といったような、効率的なつくり込みのアセットが存在することとなった。

プリビズとポストビズの間の工程として進められたのがレイアウトだ。プリビズではおおまかなロケーションを固めつつ、ポストビズの前工程として「背景に何が見えるか」などを具体的に決定していった。「レイアウトを進める中で一番驚いたのは、第2BD側が広大な都市の地図を制作していたということです。そして『この道から撮影すると、これが見えるはず』とユニットディレクターの山本氏もその街並みを完全に把握していたことに感銘を受けました」。地図だけでなく、3D上でおおまかな地区の配置も済んでいたため、そこからImage Engine側で必要な地区の制作を進めていくことができた。




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都市の街並みは、ストーリーが進むにつれて破壊されていく。一度配置した建物アセットを、ストーリーの進行に合わせて置き換えるのでは作業量が膨らんでしまうことが懸念された。「置き換え作業を省くために、『背景のビルの電気の有無』・『燃えたような痕跡の有無』・『壁が壊れた跡の有無』を、シェーダとコーディネイトシステムで切り替えられるようワークフローを組みました。アーティストがシーンに対して『この地区は燃えてしまった』、『この地区はまだ電気が通っている』などのルールを設定すれば、あとはレンダリング時にそれが反映されるしくみになっており、大幅な省力化に成功しました」。とはいえ、カメラの近くに映るビルに関しては専用につくり込む必要があったが、それを加味しても350ショット分もの背景アセットを2〜3名のアーティストでこなしたというから素晴らしい。練度の高い職人技とImage Engineの誇るR&D力が遺憾なく発揮された事例といえるだろう。

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<4>「ポストビズ」工程による大幅な効率化

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<4>「ポストビズ」工程による大幅な効率化

技術的な効率化・簡易化のほか、改善は時間の管理面にも及んだ。特定のデパートメントについてよりも全体の時間管理についての方が苦労があったと清水氏は語る。Image Engineでの通常のスケジューリングはシークエンス単位で行われるが、本件ではこれをアセット単位・ショット単位に分解、登場アセットが揃ったショットからファイナルにもっていくという方式を採用した。「まずアセット完成時期を洗い出し、進められるようになったショットから仕上げていきます。そのため、同じシークエンスでも最初に仕上がったショットと最後に仕上がったショットで2ヶ月ほど差があるといったこともありました」。


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さらに、無駄なタスクの発生を避けるために「ポストビズ」工程が徹底して行われた。ポストビズに関しては同社がVFXを担当した映画『チャッピー』(2015)のメイキングに詳しいが、この工程ではプリビズで制作したもの全てのDepth AOVをレンダリング、NUKE内でDeepにコンバートしてエレメントを置き雰囲気を詰めていった。これによって、「エレメントの購入や撮影で進めることができる部分、確実にFXが必要な部分、背景のつくり込みの必要な部分」を洗い出しつつ、アニメーション工程のスタート前に全体の雰囲気を第2BD側と共有、無駄な作業の発生を大きく省くことに貢献した。

「どこにエフェクトを置けば迫力が出て、効率良く隠すことができるのか、各部署にどのようなタスクを発行すべきかをこの工程で見極めます。これによって無駄な実験を大幅に減らすことに成功し、さらにショット制作に入る前にシークエンスの雰囲気についてチェック・承認を得ることができたため、大きな時間の節約につながりました」。

Image Engineが制作したポストビズと本編映像を比較したリール。人物やエフェクトの配置、カメラワークなどはほぼこの時点でFIXしていることがわかる

実務的には、ポストビズ作業ではDeepを使用してエレメントをカードに載せて環境をつくっていった。その中で、一連のショットをシークエンスとして進められる部分はシークエンス用のテンプレートを作成、それぞれのショットに必要な要素をそこに足していくというフローを採用。「これによって、最終的なコンポジティングもシークエンスベースで更新しつつ、ある程度のところで分割してショットベースへと切り替えることができました。このフローのおかげで、少人数で画づくりを進め、最後に量産、という方針を徹底することができました」。最終的にはポストビズから大きく変更が加えられたショットもある一方、多くはポストビズに沿い、本当にポストビズに近いショットもあり、第2BD側の指示が首尾一貫していたことが窺える。

<5>スタッフの熱意が込められたアニメーション

ポストビズを経ていよいよ手がけられるアニメーションパートは、清水氏曰く「本プロジェクトで最も重要な役割を担った」工程だ。冒頭で触れたアニメーションスーパーバイザー・Jeremy Mesana/ジェレミー・メサナ氏を筆頭に本シリーズのファンが多数在籍し、Image Engine内で最も盛り上がったセクションとのこと。作業は「モーションキャプチャをベースにした会話シーン」「完全手付けのアクションシーン」に大別して進行。

また、可搬性の高いモーションキャプチャソリューション・Xsens MVNを導入し、「グラウカのもつ大きな剣や、ニックスのククリ等のプロップを部署で自作し、弊社キッチンで格闘しておりました(笑)」。もちろん実際に武道のできるアクターによる格闘シーンのキャプチャも行われたが、各キャラクターの癖のようなものはそこには含まれないため、そこから手付けで崩していくかたちで精度を高めていった。




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フェイシャルアニメーションは第2BD側でキャプチャを行い、リグの提供を受けて作業が進められた。他社製リグをImage Engine内のシステムで動かすのは過去に経験のないことで、多少の対応時間を要して設定が完了、以後はデータの受け渡しが可能になった。「第2BD製フェイシャルリグで統一したことで、プロジェクト終盤で変更が入った際に、第2BD側でフェイシャルアニメーションを更新していただくということも可能になりました」。

前述したように、ユニットディレクター山本氏がImage Engineに滞在、翻訳に要するタイムラグはありつつも、時差を意識しない状態でアニメーションチェックが行われた。アーティスト各々が作品を愛好し、アニメーションチーム全体が高いモチベーションを維持、思いを込めた新しいショットやアクションの提案などが行われ、かつそれを第2BD側が認めてくれるという素晴らしいコラボレーションが実現したのだ。

<6>"レゴブロック"のように組み上げたビル群の破壊システム

本作終盤の破壊に次ぐ破壊は非常に見ごたえのあるポイントとなっている。これはプロジェクト開始時点でも同様で、この課題をどのようにしてクリアするか当初から大きな注目が必要となった。「全体の中の4〜5ショットであれば特に心配する必要もないのですが、今回はその規模ではありません。『いつでもビルを破壊できる』ようにしておかないとカメラや演出の変更に対応できないと感じ、プロシージャルなアプローチでビル破壊のしくみを構築しました」。

通常であれば、リファレンスを見ながらその通りにビルをつくり始めるのだが、ここではまず「破壊可能な(きちんと厚みをもたせてあるなど、シミュレーションに対応した)」部屋・壁・窓・ビルの屋上などを作成。これをHoudini内でレゴのように当てはめてビルを組み上げていった。ビルの形状に決まりがなかったことが、ここでは奏功した。こうすることで、モデリング作業抜きでビルのバリエーションを増やすことができ、さらに何棟ものビルを作成することなく"レゴブロック"の精度向上に時間をかけることができた。




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破壊シミュレーションにもHoudiniを使用。破砕された破片をジオメトリとして保存しつつ、それらの崩壊などのシミュレーション結果はポイントデータとして保持、前述のGaffer内で正しい破片をインスタンスするという方法が採られた。これにより、1度目の破壊シミュレーション後は破片のスピードや軌跡の調整に素早く対応でき、シミュレーション結果を毎フレーム分ジオメトリキャッシュとして保存しておくデータ量・時間を省くことができた。「これによりイテレーション回数を増やすことができただけでなく、ポイントに様々なアトリビュートをもたせることで、ビル内の電気のON/OFF、マテリアルのスイッチ(ホコリの有無)なども制御するなど、可能な限り動的に結果が得られるしくみが出来上がりました」。これによって数十ショットに及ぶビル破壊シミュレーションに対応することができた。

余談ながら、このしくみが作業効率化とはまた別の面で活躍した事例もある。作品最終盤のニックスとグラウカが瓦礫の中で出会うシーンは、どういったロケーションで出会うのか決定が保留されていた。「プロシージャルなビル破壊がある程度できるようになってきたころ、ふと『ビルを何棟か破壊して瓦礫をつくってみたらどうだろう』と思い、試してみました。すると、完全にプロシージャルな『いい雰囲気の瓦礫』が出来上がったので、これをベースにしてあのシーンのロケーションを構築していきました」。

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<7>エフェクトの一端まで担ったコンポジットの挑戦

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<7>エフェクトの一端まで担ったコンポジットの挑戦

一方コンポジットに関しては、開始時に重大な見誤りがあったと清水氏はふり返る。「フルCG映像なので、CG工程で詰めていればコンポジティングにはそこまで労力はかからないのでは、とプロジェクト開始当初は考えていました。それは完全に間違った憶測でした(苦笑)」。ポストビズ作業の進捗に合わせて明らかになってきたのは、エフェクトをそのまま全てCGで制作するには時間が足りないという事実だった。この難題をクリアするには負担を部署間で分散する必要があったが、例えばビル破砕作業をアニメーション部署に移すといったことはさすがに考えにくい。最も可能性があったのは、制作したポストビズからコンポジティングでブラッシュアップすることでエフェクトの総量を減らすという策であった。

「コンポジティングによるブラッシュアップでどこまでCG製エフェクトの手助けができるのか、ここに注目して実験的なショットの制作を進めました。敢えてCGによるエフェクトの量を減らし、コンポジティングでエフェクトの質感を高めることに注力しました。最終的には少しコンポジティングに頼りすぎたかなとも思いましたが、今後の制作にも活きる財産を得られたと思います」。

ライティングまで完了した状態(上)とコンポジットを施した完成映像(下)

これらのフローは、あるテストショットで実験しつつ構築された。このショットはプロジェクトが本格的に始動する以前のアセット制作・プリビズ段階に作成され、破壊などエフェクトの実験も含め、ワークフロー、パイプラインの構築に大きく貢献した。実験用であり、内容的には作中に存在しないショットだったが、プロジェクト終盤「もったいないので、どこかに入らないですかねぇ、と山本さんに何気なく相談したところ、『もちろん! 入れましょう!!』と歯切れよく返事をいただきました」。

こうして実験用ショットから本編ショットに昇格したのが、「ナイトがビルを破壊しながら走り抜く」あの映像(※下記動画参照)だ。本編を鑑賞した方なら、その大迫力から強く印象に残っているにちがいない。「プロジェクトの最初から最後までお付き合いしたショットで、我々にプロジェクトを完成させるために必要なことをたくさん教えてくれました。ほかにも面白いショットはあるものの、ここは特に心に残っていますね。最も誇らしいショットです」。

実験用ショットから本編ショットに昇格した「ナイトがビルを破壊しながら走り抜く」大迫力の映像

制作期間・作業量が大きな懸念となったプロジェクトだったが、第2BD側のサポートの手厚さも本件が成功裡に終了した要因のひとつだと、清水氏は語る。清水氏が窓口となったことで、東京の第2BDとは日本語でスムーズにコミュニケーションが取れたが、それだけではない。「日本時間で深夜であっても、こちらの難しい希望・要望にも都度電話やSkypeで話し合い、誠実に考えていただけました。本当に本作では『クライアントとベンダー』の関係ではなく、コラボレーションをする関係という立場で仕事をされていて、それがひしひしと伝わってきました。私自身も、その気持ちがアーティストにも伝わるようにコミュニケーションに努めました。素晴らしい関係性を築き、それらがアーティストたちにも宿った最後の1ヶ月は、もうほとんど何もしなくても半自動的に良い画ができ、第2BD側でもそのままファイナルとして承認されるという状態で怒涛のように進行しました」。

実際、FFXVのディレクター・田畑 端氏や本作ディレクター・野末武志氏のプロジェクト終了後のインタビューでも"このプロジェクトは親と子の関係を描いている"、そのため制作中も"様々なところで人と人の関係を大切にした"という発言に触れ、まさにそれを反映したプロジェクト運営が行われていたことに清水氏は深く感動したという。


© 2016 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.

ワークスタイルの面でも、Image Engineが普段顧客としているハリウッドでの仕事と同じ感覚で進めることができたそうだ。第2BDは基本的に「何をいつごろチェックするか以外はお任せ」というスタンスを貫き、アーティストは思う存分自分のタスクに専念して納得のいく成果を追求できたそうだ。「よく、フィードバックが重なりやる気が削がれてしまうというパターンがありますが、本件ではそういうことはまったく起こりませんでした。むしろ『もう少し良くしたいから、時間をくれ!』と言い出して逆に困ってしまうこともありました(苦笑)。ただ、残業が多くなってしまったにもかかわらず、ほぼ全員がプロジェクト終了後のアンケートで『今からもう一度やりたい!』と答えていたことからも、良い関係を築けたプロジェクトだったと感じます」。

そうした現場の盛り上がりと感動は非常に大きく、伺う話から感じられる熱狂は、まるで多くのスタッフの熱意が塊となって1つの生物として躍動するさまを思わせる。マネジメントスタッフ曰く『第9地区』制作時以来の盛り上がり、と言われる本作を終えてから約1年半を経た現在でさえ「あのプロジェクト、またやりたい」と話題にするアーティストもいるのだとか。

このエピソードからは、プロジェクトの過密さとともに、それでもなおアーティストが自発的にクリエイティブを追求できる、非常に良好なプロジェクト運営がなされていたことが感じられる。あの最終盤の戦闘シーンは、アーティストの熱量がフィルムに焼きついたものと言えるだろう(余談ながら、この傾向は特にアニメーションチームで顕著であったようで、「スクウェア・エニックスの仕事」と求人を出したところ特にアニメーターが殺到、「いまは他社の仕事をしているが、早朝と夜に働くかたちで参加したい!」というアーティストも現れるほどの熱狂ぶりだったとか)。


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著名な大作を多く手がけるImage Engineだが、その中でもフルCG作品となると意外に少ない。そのため清水氏個人としては、本作のようなフルCG長編へこれからももっと参加していきたいという思いがあるそうだ。「フルCGだからこそ発生する問題解決、作業の効率化。あるいは実写フッテージありきの作品とは異なりカメラの設定からクリエイティブが開始されること等、学べることがたくさんあります」。

Image Engineというスタジオとしても、本作を経て様々な改善・問題解決が行われた。ここで学んだことをどれだけ今後のプロジェクトへ移行していけるかが今後の課題のひとつだという。『キングスグレイブ FFXV』後のプロジェクトへ、随時経験を活かしてさらなる効率化・簡易化を目指しつつ、試行錯誤をくり返す日々だと清水氏は語ってくれた。いつか再びフルCG長編作品の制作陣としてImage Engineが名を連ねることがあれば、ぜひ劇場へ足をお運びいただきたい。



  • 映画『キングスグレイブ ファイナルファンタジーXV』
    各プラットフォームで配信中&Blu-ray DISC発売中!
    価格:Blu-ray/4,800円+税
    プロデューサー:田畑 端
    ディレクター:野末武志
    脚本:長谷川 隆
    kingsglaive-jp.com