<3>ハリウッドでの経験を沖縄にもち帰り起業を目指す
――コンセプトアーティストとしてのお仕事についても教えてください。
渡嘉敷:日本だとコンセプトアーティスト単体のお仕事というよりも、コンセプトからモデル・質感まで一連で依頼されることが多いです。現在携わっている実写映画の仕事もコンセプトから質感までというかたちの携わり方が多いですね。
――コンセプトアートを描く上で大事な部分は何だと思いますか?
渡嘉敷:クライアント仕事ですので、いかに相手が求めているものを出せるかが最も重要だと思います。僕の場合はパターンを多く出すようにして、そのなかで自分の本命はちょっとだけつくり込んでおきます(笑)。でも意外なものが通ることもあるので、自分の思いだけで本命を決めると、外れたときにダメージが大きいですが(笑)。ZBrushだと元のモデルを少しいじるだけでいくつものパターンを出せるので便利です。
――仕事上のインプットはどのように行なっていますか?
渡嘉敷:情熱という意味では、先ほどのように同世代のクリエイターから得ています。アイデア面では、その次に仕事で必要になるであろうモチーフを自主制作でつくるようにしています。CGは1作品つくるのにけっこう時間がかかるので、効率良く、無駄なくつくる必要があります。似たようなモチーフばかりつくっても、上達の幅は限られたものにしかなりませんので、仕事のアピールにはあまり有効ではありません。僕の場合、最初はリアルな人間のモデルを求められていたので、「女性と花」といったモチーフでつくっていたのですが、その次は老人をつくって自分の幅の広さをアピールできるようにしました。その後は動物をつくったり、欲しいと思える仕事に対してアピールできるものをつくるようにしています。
渡嘉敷氏の個人制作作品『Flower Elf』
渡嘉敷氏の個人制作作品『Armed Monk』
――渡嘉敷さんは「CGWORLD Online Tutorials」にて、「ZBrushの基本ブラシでつくるリアルなライオンのスカルプト」を公開されています。ZBrush初級者に向けて何か準備しておいた方が良いことを教えてください。
渡嘉敷:このチュートリアルでは操作の仕方を最初から教えているので、まずZBrushをインストールして、チュートリアルを見てさえいただければ、スカルプトができるようになります。ZBrushは実際それほど難しくはないので、難しく考えずにとことん観察すると良いと思います。僕は人体模型や動物の解剖図を見ながら構造をトレースするようにしています。特にモデラーとしての仕事は、いかにコンセプトに忠実であるかにかかってくるので、解剖図にピッタリ合わせられることに快感を覚える人に向いていると思います。一度ピッタリ合わせられることを経験すると、根気強さの能力が上がるので、若い人は時間があるうちに、一度とことん合わせてみるととても勉強になると思います。僕もマンガや人気キャラクターの模写をよく行なっていて、そこで顔の中の目の位置や比率を分析しました。最近のソーシャルゲームの絵の流行では、目が少し離れている傾向があります。そうした比率を合わせられるのはモデラーとして大切なことだと思います。
渡嘉敷氏のチュートリアルの題材となった『Lion anatomy study』
――そして渡嘉敷さんは4月からカナダ・バンクーバーを拠点とされているそうですね。
渡嘉敷:はい。着いたばかりです(笑)。渡航した理由としては、まず同世代で活躍している方に少しでも近づきたいという思いがありました。自分にはCGにおいて数年のブランクがあるので、どうすれば彼らに近づけるかと考えたときに、ハリウッド映画に関わってキャリアを積むという方法しか思いつかなかったんです。今は英語の勉強をしつつ、現地の日本人の方に直接会って情報収集したりデモリールを改善したりして海外就職に向けての準備をしている段階です。
――今後どんな作品やどんな仕事に関わりたいですか?
渡嘉敷:僕自身はキャラクターモデリングが得意なので、人物やクリーチャーといったキャラクター系の映画やSF、ホラー作品に関われればと思っています。そしてハリウッドでの経験を積んだあとは、沖縄に戻ってCGスタジオの起業かフリーランスでの仕事を考えています。沖縄はどうしても地理的に不利なので、そのときハリウッドでの経験は営業的にも使えるなと。今はとりあえずハリウッド映画にどんなかたちであれ携わりたいので、本音で言えばどこの制作会社でも良いので入れてくださいという感じですね(笑)。
ZBrushの基本ブラシで作るリアルなライオンのスカルプト
(CGWORLD Online Tutorials)の
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