<2>作品を客観的に評価するためには知識が必須
――大島さんがCGに触れられたのはいつ頃からですか?
大島:大学4年生くらいのときですね。パソコンとLightWaveを買って、辞書みたいなマニュアルを片手にひとつひとつ勉強していくようなかたちでした。そんな頃に同じアパートに住んでいた2つ上の先輩がナムコに行かれて、いろいろとお話してくれたんです。羽振りも良くなってご飯をおごってくれながら(笑)。それで卒業するときに、学んだことを捨てて関係ない職業に就くのはもったいないなと思って。
大島:もともと美大にはアーティストになりたくて入ったのですが、いろいろあって就職することにしました。もともとアートの人しか見ないようなものよりも映画のセットとか博物館模型とか、一般の人が目にするようなものをつくりたかったので、その先輩の話を聞いてCGが面白そうだなと思って、この道に進んだという感じですね。
――CGに求められる基準や水準は年々上昇しているという実感はありますか?
大島:私が始めた頃よりはレンダラも発展していますし、リアルなものは昔よりもずっと良くつくれるようになっているとは思います。でもそれは環境が良くなっただけで、クリエイターのレベルで言えば今も昔もそれほど変わらないのではないでしょうか。
ただ、今の若い子の方が海外のクリエイターや作品に直に触れて刺激を受けることができるというのは大きいですね。私の頃ですと、『ジュラシック・パーク』をつくろうと思っても不可能でしたから。でも今の子は自分の延長線上に『アイアンマン』や『トランスフォーマー』があるし、実際にハリウッド作品に参加している人も周りにいるでしょう。今の少年野球の子がメジャーリーグを直接目指せるようになったようなものです。そこは羨ましいですね。
――CGに関わられて20年近く、大島さんにとってCGの魅力はどんなところにありますか?
大島:私にとってモデリングというのはプラモデルと同じような感覚なんですよ。昔からバラバラのものを組み上げるということが好きでしたし、今も土日を仕事に充てていてもあまり疲れないんです。それに今は昔なかったようなZBrushやSubstance Painterといった新しいソフトを覚えるのも楽しいですね。同じことをずっと続けることの楽しさもありますが、CGには新しい技術に触れていけるという楽しさもあります。
ただ、得意にしていた自分の技術が時代の移り変わりのなかで必要でなくなるということもあります。人の手でテクスチャを描く技術は、今の時点ではまだ使えますが、おそらくあと少しでアプリの機能に吸収されるでしょう。服のシワをモデリングするのも結構大変ですが、リアルなシワだったら Marvelous DesignerやClothシミュレーションでできるので、そうした技術もいずれ必要ではなくなるでしょうね。
――それはある意味で怖いですね。では、技術が発達したとしても変わらない大事な部分は何でしょうか?
大島:これはモデリングに限らない話かもしれませんが、自分がつくったものや他人がつくったものとの差を客観的に評価・判断する力だと思います。昔の話になって申し訳ないのですが、後輩ですごくセンスの良い絵を描く人がいました。その彼がよく2枚の絵を両手に持ってどちらが良いかを尋ねてくるんです。僕からしたら、10:0でこっちの方が良いと思っているのに、彼はそれがわからないんです。
なぜかというと、知識ではなく感覚で描いているからなんですね。知識がない人は理由づけができないから、客観的な評価ができないんです。だからつくるものに当たりはずれがある。そこで当たりの確率を上げるには色彩構成や構図とかをきちんと勉強して、自分で納得できるようにならなくてはいけない。
僕がなぜ勉強をしたかというと、自分には色感がなくて、それを補うためでした。だから、もともと上手くできる人は逆に怖いんですよ。でも、できない人は勉強すればできる人に勝てるかもしれない。そのためにいろいろなことを勉強すると良いんじゃないかなと。そういう確かなものをつくるためのベースとなる知識を、この連載でお伝えしていけたらと思っています。
連載第1回「雲のおはなし」より
連載「コロビト大島夏雄のCGに役立つふしぎのはなし」Story 01. 雲のおはなし はこちら